小説自動生成ソフト制作日記
七度柚希
第1話 熱病にとりつかれた最初の夜
小説を自動生成するプログラムを作成しようというアイデアを思いついたのは今から一昔前の1989年の春である。
当時、自主制作映画を作っていた友達から今からすぐ新宿の喫茶店に来てくれと電話があった。
電話をくれたのはシナリオスクールに通ってシナリオの勉強をしている女の子からだ。シナリオスクールとはいっても、週に何度か通うだけの、カルチャースクールに毛が生えたようなスクールだ。
そのシナリオスクールのメンバーに声を書けて自主制作の8ミリ映画を作ることになり、そのシナリオ案がなかなか決まらなくて困ってるという相談だ。
いつも喫茶店に集まって相談して、今日も朝から一日喫茶店で話しをしているという。
そこで私にもシナリオをみてもらって意見を言って欲しいということだ。
今から出かけても、相談はもう終わってるだろうからと言ってみると、喫茶店にいつも丸一日粘って相談してるからと言われてびっくりしてしまった。
長い時間議論すればその分充実してるとでも思ってるらしかった。
新宿の駅前で待ち合わせをして、歌舞伎町の近くの喫茶店に入るとメンバーがテーブルを囲んでいた。
そこで、この次作る映画のシナリオ案を見せられた。
時間がないのでさっと読んだだけだったが正直なところあまりできがいいとは思えなかった。
私はシナリオのことはよく判らないので適当にもっともらしく意見をいったあと「大勢で長時間集まって議論するのは時間の無駄だ」と言ってみた。
だがその返事は「じっくり議論しないといいシナリオは出来ない」と言い返されただけだった。
私はあまりの馬鹿馬鹿しさにもうこの連中とは関わらないほうがいいと思った。
それから数日たったある日、私はまったく突然にコンピュータで映画のシナリオを自動生成できないかと思いついた。
そしてその瞬間から私の頭の中には次から次へとプログラムのアイデアが浮かび、私の頭の中は、嵐のようになり眠りにつくことが出来なくなった。
ストーリーの断片を自動的に繋げていくソフトを作ればシナリオを自動生成できる。ストーリーは分岐できるようにすればいい。分岐を自動的に行えるようにすれば、どんなシナリオでも生成できる。
私はこんな素晴らしいアイデアは生涯にこの一度だけだろうと確信した。
私は寝るのをやめてプログラムの作成に取りかかった。疲れ果ててようやく眠りについたのはもう朝も過ぎて昼近くになっていた。
それから10日ほどだろうか、私は近所のコンビニのおにぎりとサンドイッチを食べつつけ、朝の6時くらいから、10時くらいまで4時間ほど寝る時間を除いて、プログラムを作り続けた。
毎日夢中になってパソコンに向かい続けて、止めることが出来なかった。
頭が疲れ切って、仕事が続けられなくなるまで寝ることが出来なかったのだ。
だがアイデアは素晴らしくても、簡単にできるソフトでは無いことはすぐ判った。
ゆっくり落ち着いてプログラミングの方針を考えた方がいいことはよく判っていたがしかし、私はパソコンの前に座ってなんでも思いついたプログラムを作り続けるのを止められなかった。
数日経って、自分でもいったい何をしているのか自分でも判らなくなったが、それでも思いついたプログラムを作り続けた。
しかし10日ほど過ぎて私はようやく熱病からさめた。
疲れが限界に達して一度寝たらもう起きあがれなくなったのだ。
私はそれから数日間ひたすら寝続けた。
三日ほど過ぎた後、もうコンピュータに向かう気力がすっかりなくなってから、あらためて10日間にできあがったプログラムを確かめてみた。
いったい何のプログラム作っていたのか自分でも思い出せなかった。
よくよく見てみると、それはできの悪い小説の断片をC言語のprintf文で表示するだけのプログラムだった。
なんのことはない、私は10日間ずっとprintf文の文字列を打ち続けていただけだったのだ。
私はあまりの馬鹿馬鹿しさに、もうこんなプログラムのことを考えるのはやめようと思った。
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