54話「決戦4」

「ケッ! 一人じゃ俺様を倒せねぇからって今度は仲間を呼ぶのかよ! きたねぇ野郎だなぁ、あぁ?」

「盗賊風情が、何を抜かす!」


 ギルドマスターのウォーリアがダストに突撃、斧による一撃を放った。


「その程度かよ!」

 

 ダストは『プロテクション』を集中させた左手で攻撃を受け止める。

 しかし、斧による一撃は重く攻撃を防ぐも後方へ仰け反らされ体勢を崩す。

 

「罪人に人権無し!」


 別のギルドマスターが四方八方からダストを攻め立てる。

 

「しゃらくせぇ!」


 ダストは更に高度を上げ、彼等の上方向から風魔法を放った。

 

「うわーーーっ」


 ギルドマスター達が大きく吹っ飛ばされ、ダストとの距離を大きく離した。

 

「おい、賢者の石の力はこの程度なのかよ?」

「違うな」

「だったら、さっさと開放させろよ!」

「人間風情が……貴様の身体が持たぬわ」

「るせぇ! 俺様をあいつ等と一緒にすんな!」

「ふん……まぁ良い、貴様が死なない程度に開放してやろう」


 ダストの使い魔が詠唱をすると、賢者の石が黒い光を帯び始めた。


「クックック……これが、賢者の石の新の力!」


 使い魔の手により賢者の石の力が開放され、ダストは魔力がみなぎって来るのを感じている様だ。


「ケッケッケ、食らいやがれ!」


 賢者の石の力を更に受けたダストはギルドマスター達に爆裂魔法を放った。

 

「ぐわああああ」


 爆裂魔法の直撃を受けたギルドマスター達は身体をズタズタにされながら四方八方へ大きく吹っ飛ばされた。

 ルッセルもまた、盾で被害を低減させたものの、そのダメージは大きい。


「ルッセル君、後はぼぉくに任せるんだなぁ」


 崩された姿勢で地面をを転がり漸く静止出来たルッセルに対して仔羊様がルッセルの肩を叩いた。

 

「賢者の石なんだなぁ~魔族の影響で不可解な力を出してるんだなぁ~」


 仔羊様がぴろぴろぴろーと音をたてながら空目掛けて浮上した。

 

「ああっ!? カオスだぁ!? 老いぼれは引っ込んでろっつーんだよ!」

 

 仔羊様の接近を認識ダストが彼に向け電撃の魔法を放った。

 収束された電撃が仔羊様を襲う。

 

「そこ、そこが良いの~君の電流、僕の肩凝りによく効いたんだなぁ」

「はぁぁぁ!? 舐めた事言ってんじゃねぇぞ!」


 ダストは収束された爆裂魔法を仔羊様に放つ。


「ぬ~温かいんだなぁ」


 仔羊様は身体をほくほくした表情でダストを凝視している。


「ちぃぃぃ! 老いぼれの分際で賢者の石よりなんで強えぇんだよ!」


 ダストは氷の魔法を収束させ、放つ。

 

「サウナの後の冷水みたいで気持ち良いなんだなぁ」


 仔羊様は顔をツヤツヤさせながらうっとりとした表情をしている。

 

「こんちくしょうがあああああ」

 

 賢者の石の力により相当な魔力を引き上げたにも関わらず、仔羊様相手には一切効果が無い事を思い知らされたダストは半ばヤケを起こしている。

 

「おい、人間、これ以上はお前が死ぬぞ」


 なにやら暴走をしそうなダストに対して使い魔が静止を試みる。


「るっせぇ! だからどうしたっつーんだ!」


 頭に血が上りきっているダストがその言葉を聞き入れるつもりはない。


「一度下がれ、賢者の石の力はまだ解放仕切れてない、お前の肉体の器が耐えれない」


 使い魔が彼を冷静に諭す。


「そんな事知るかぁぁぁ!」

 

 やはり、ダストはその言葉を聴く耳を持たない。


「ぬふふふふ、その悪魔を倒せば良いんだなぁ?」


 仔羊様が転移魔法で使い魔の目の前に瞬間移動をし、風属性の魔法を放った。


「ぐっ……下がれ人間、貴様の野望を成し遂げたいなら一度体勢を立て直せ……」


 仔羊様の魔法を受けた使い魔がその身を切刻まれながら、遥か彼方に飛ばされながらダストに対し告げた。


「おい! どうした!?」


 ダストが使い魔の行方を調べるが、仔羊様の魔法によりその命を奪われてしまった様だ。


「フフフ、次はダスト君の番なんだなぁ」


 仔羊様がダストの目の前で魔力を集中させた。

 

「こんちくしょうがああああ!」


 使い魔の命が奪われた事で冷静さを取り戻したダスト。

 このまま勝てもしない相手に無理をしたところで殺される、そうでなくても捕まえられ牢獄へ送り込まれ、高い確率で処刑されるだろう。

 屈辱な事だがここは使い魔の言った通り撤退するしかない。

 無様で惨めな話だろうが、使い魔が言った通り賢者の石の力に耐えられる肉体を作らなければならない。

 セザールタウンの支配はそれからでも遅くない。

 ダストは転移魔法を発動させ、その場から消え去った。


「魔族と組んで厄介なんだな」


 ダストを撃退し地上に戻った仔羊様がみなに報告した。


「そうですか……賢者の石は魔族の手に渡りましたか」


 ルッセルは、ダストのせいで破壊されたセザールタウンの町並みを眺めながら呟いた。


「そうなんだなぁ~面目無いんだなぁ」


 仔羊様はひょこひょこ飛び回り同じくダストによる被害確認を行っている。


「いえ、仔羊様の力をお借りしなければダストの撃退は不可能でした」


 事実、仔羊様が受けた魔法を自分達が受けたらどうなっていたか。

 恐らく今こうして地に足を付けていることは不可能だっただろう。


「ぬふふふ、そう言って貰えると助かるんだなぁ~」


 仔羊様は自慢気な表情を浮かべている。


「人的被害が少なかったのは幸いです」


 ルッセルが言う通り、レジストを貫通する様な攻撃は地上に降り注がなかった。

 もしも、強化された魔法が送り込まれたとしたら……。

 恐らく生存者は0に近かっただろう。

 建物の崩壊はまた作る直せば済むが失った命はそうもいかない。


「暫く財政も大変なんだなぁ」


 今回壊された建物、道路等の補修にはそれなりのお金が掛かるだろう。


「そうですね、しかし、冒険者に仕事が生まれると考えればそこまで悪い事ではありません」

「ぬふふ、ボォクは一度学園に戻るんだなぁ、ルッセル君もヴァイスリッターに戻るんだなぁ?」

「はい」

 

 賢者の石が魔族の手に渡った。

 そうなると、魔族からの侵攻が激しくなると考えた方が無難だ。

 ……もしそうなっても、SSSランクハンターの人達はどうするのだろうか?

 やはり、お金が手に入らないと手を貸さないのだろうか?

 いや、命を掛けた戦いに対してお金という対価に不満を持つなら参加しないのは間違った考えじゃない。

 祖国を守ると言えど命を失ってしまっては意味が無いのだから。

 ……本当にそうなのだろうか?

 どこかダストの言葉を胸に引っかかりながら、ルッセルはヴァイス・リッターへ帰投した。

 

  翌日

 

 朝一ルッセルさんより、ダストの撃退に成功したものの賢者の石は魔族の手に渡ってしまった事を告げられた。

 

「ねぇ? カイル?」


 俺の隣でルッセルさんの話を聞いていたルッカさんが怯えている。


「どうした?」


 ルッセルさんの話を聞く限り無理も無い。

 何せ、ダストって性悪なウィザードの手によって賢者の石が奪われてしまったのだから。


「これからどうなっちゃうんだろ?」


 ルッカさんにしては珍しく、分かり易い弱音だ。

 

「さぁ? どうなんだろう? 今すぐに魔族がセザールタウンを制圧するとは考えられないけど」


 勿論、時間が経てば分からない。

 賢者の石の力次第ではセザールタウンが制圧される事だって考えられる。

 もし、そうなったら俺もルッカさんも生きていられるとは思えない。

 でも、だからと言って俺達新人冒険者がそんな最前線に送り込まれる、という事も考え難い。


「ほんと? ほんとだよね?」


 ルッカさんが俺の腕をそっと掴み哀願している。


「俺はそう思うけど……えっ!?」


 そのままルッカさんが俺の胸にうずくまる形で抱きついて来た。

 一体、どういう事だ?


「お願い、私から離れないで、約束して……」


 ルッカさんは、涙声になりそうなのを必死に堪えながら声を振り絞っている。

 一体何がどうして彼女をこうさせてるのかは俺には理解出来ない。

 前向きで活動的なルッカさんがどうして、こんな事になっているんだろう?


「分かった、約束する」


 けれど、俺の口からはこの言葉を出すしかないだろうな。


「嘘ついたら許さないんだからね?」


 ルッカさんが俺を見上げながら小声で言った。

 どうしてだろう? 何故か分からないけどこの娘だけは守らなければならない。

 なんだかそんな気がして仕方ない。


「フフ、これから大変ね、ボウヤ?」

 

 まるで俺達を茶化す様にやって来たセフィアさん。

 確かにダストの関係でこれから大変な事になる気がする。

 

「そうですね……俺達も出来る事はやっていきたいと思います」


 確か、ダストのせいで待ちも壊れたんだよな。

 俺達新人冒険者でもそういう事に手を貸す事は出来ると思う。


「あはは、お嬢ちゃんの方が大変みたいね」

「……はい、私もそう思います」


 ルッカさんは少し頬を膨らませ、セフィアさんに小声で言った。


「うん? なんか言った?」

「別に何にもありません」


 ルッカさんは小さく舌を出すと早足でその場を立ち去った。


「変なの、ま、いっか、早速今日から頑張らないとね」


 セフィアさんが言った通り今日から大変そうだけど、出来れば俺ももっと強くなって前線に出たい所だけど今は自分が出来る事をやっていこう。

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