39話「遺跡調査5」
目立つ場所は既に他の冒険者に探し尽くされてるのか、2階にもこれと言ってめぼしいモノはなかった。
強いて言えば誰かが設置したんじゃないかって考えられる宝箱が2階にも多少なりともあった事。
それも、1階よりも少しだけ中身が良いものだった。
2階は全て探し尽くし、3階を探索してみたけどこれと言って特別視する事は無いと言いたいけど、設置されていた宝箱の中身は少しだけ良くなっていた。
そのまま外観から最上階と思える4階に行き探索するとここも今までと似た流れだった。
「うーん、何も無いと思ってましたが、何やら地下と思われる場所に行けそうな穴が空いてますね、1階にあった気になる柱みたいで、石で出来た堀が柱に見えた感じですね」
最上階の探索を一通り終えたところで、急にエリクさんが声を出して立ち止まって頭上に滞空させている光の体を遠くへ向けた。
「あの中に入るのかしら?」
「そうですね、入ってみましょう、あ、セフィアさん、僕の飛翔の術で行った方が安定すると思いますよ」
「それもそうね」
セフィアさんは、道具袋の中から地下に向けて降りられそうな物を探していたが、エリクさんの方針に合わせる為それを止めた。
「では掛けますね」
「え!?」
エリクさんから飛翔の術を掛けられた瞬間、俺の身体は羽の様に軽くなった感覚を覚えた。
この術のお陰で空中を自由に移動する事が出来るんだけど、初めての出来事で少しだけ驚きを隠せない。
「すごいよ!」
不安気な感情を抱く俺に対してルッカさんはなにやら楽しそうだ。
「さ、いくよ?」
セフィアさんの合図と共に、俺達は穴に向けて飛翔しその上に辿り着くとゆっくりと降下した。
「流石エリクさんですね、飛翔の術なんて高度な魔法使えるって」
「いえいえ、これ位の魔法を使える人は沢山居ますよ」
エリクさんは謙遜しながらそう言ったが、俺から見たら飛翔の術を使えるウィザードと言われても正直知らないんだよなぁ。
多分セザール学園に居る教師なら誰か使えるかもしれないんだけど。
「え? ちょっと、エリク君?」
魔法の力を借りてふわっと降下してる最中、不意にセフィアさんがエリクさんの名前を呼んだ。
「はい? ……え? え? 魔法が!?」
「わ、ちょ、ちょっと!?」
その直後、エリクさんが掛けた魔法の効果が消えてしまったのか急に自分の落下速度が上がっていく事を肌で感じ取った。
まずい! このままの速度で地面に衝突したら!
ドン!
助からないと脳に描く間もなく派手な音を立て地面に突っ伏したかと思えば、俺の全身に激しい痛みが襲った。
「いたたた……魔法が切れてからの高度が低くて助かりましたね……」
軽装であったエリクさんが真っ先に立ち上がりそう言った。
「そうねぇ」
さらりと言うセフィアさんであるが、華麗に受身を取ったお陰で大したダメージは受けていないみたいだ。
「うぅ……痛い……」
ルッカさんは、被害を抑える着地こそ出来たものの痛み自体はあった様で少しばかり悶えながら蹲っている。
「うぐぅぅぅ……」
そんな俺は、装備の重量が手伝い地面に激突した際のダメージが他の人達と比べて大きくなったのかあまりの痛さに動けずにいた。
「カイルさん、大丈夫ですか?」
俺が倒れている事を見つけたエリクさんが心配そうに駆け寄った。
「ら、らいひょう、ふ……」
いや、大丈夫じゃない。
俺は気力を振り絞ってヒーリングを自分に掛けた。
これでひとまず安心……? あれ?可笑しいぞ? 痛みがあまり引かない?
本来なら俺のヒーリングでもこのレベルの痛みはしっかり引いてくれるのだけどそれが無いぞ? 何でだ? でも効果自体は微弱ながらあるしこれなら立ち上がる事は何とか出来るけど。
「それなら良かった」
「うぅ……私にも……」
隣で悶えるルッカさんにもヒーリングを掛けた所で、
「おや? ライティングの光量が落ちてますね」
エリクさんに言われて光体を見てみると、確かに今さっきまでとは違って精々数歩までしか見通す事が出来ない位光量が落ちていた。
「まさか、魔力制御結界が張られてるのかしら?」
魔力制御結界?
確か上位の魔族しか使えないし、もし使えても短時間しか効果があらわれないんじゃ?
そもそも、そんな上位魔族はセザールタウンに居る話は聞いた事ないし、そんな上位魔族が居る調査ポイントに対して俺達みたいな新人冒険者を連れて行くとは考え難い。
「かもしれないですね……」
「最悪私の持ってる道具を使えば根性で帰れるでしょうけど」
セフィアさんが来た道を見上げながら呟いた。
「そうですね、転移魔法が駄目だった場合はそうするしかありませんね」
「ま、調べるだけ調べてから考えましょ」
セフィアさんは遠くに薄っすらと見える道へ向かって歩き出した。
「はい」
俺達もまたその後に続き、地下の調査をする事にした。
「何もありませんね」
しかし、進めど進めど何も無かった。
この地下エリアは大半は細い通路で占められており所々部屋があるのだけれども、宝箱も何もかもが無く本当にそれ以外何もなかった。
「行き止まりみたいね、残念だけど引き返しましょう」
「そうですね……おや?」
セフィアさんが引き返すと言った通り、袋小路に辿り着いてしまった訳だけど、エリクさんが突き当りの壁に何かを発見したらしく入念に触りだしていた。
「いえ、何やら鍵穴があるようですが……」
「鍵穴? それなら私の出番かしら?」
「そうですね、是非ともセフィアさんのお手並みを拝見させて頂きたいと思います」
「あら? そんなにへりくだらなくてもやるわよ?」
「いえ、その……なんでもありません」
エリクさんは、この先にある何かに対して溢れ出そうな好奇心を必死に抑えている様に見えるけど……。
「フフッ、この位私の手に掛かれば……」
意気揚々と開錠を試みるセフィアさんであるが……。
「ちょ! エリク君! もっと明かりをこっちに寄せて頂戴!」
「は、はい!」
どうやらそう簡単にいかないみたいだ。
「くぅ、石造りの壁の癖に生意気じゃない!?」
珍しくセフィアさんが取り乱している。
「ああっ! もう、エリク君! 開錠魔法位無いの!?」
「いえ、ありません……すみません」
開錠が上手く行かずに苛立ちを覚えるセフィアさんを見ていると何か手伝いたくなるけど、だからと言って新人冒険者の俺が何か口出ししたところで多分火に油を注ぐだけになるよな。
「これって力で捻じ伏せる事って出来ませんか?」
なんて思ってると、痺れを切らしたルッカさんが言葉を紡ぎ出した。
って、君はウィザードだよね? なんでそんな脳筋ファイターみたいな言葉が出るんですか?
「お譲ちゃん? 貴女本気でそう思ってるのかしら?」
今のセフィアさんに下手な事を言うと火に油を注ぐ事になるって思ったとおり、ルッカさんの発言に対して静かな怒りを覚えているみたいだ。
「はい、そう思ってます、押して駄目なら引いてみろって言いますよね? だったら引いて駄目なら押して見るのはありだと思います」
「……そうね、それもありかもしれないわ、今まで繊細な力加減でやってたけど、駄目なんだからもう少し力を入れてみる価値はありそうね」
え? マジで? ルッカさんの意味の分からない理論でセフィアさんは納得しちゃうんですか!?
「ええ!? それで壊れたら……」
「その時は無かった物と考えれば良いのよ!」
「はぅ……すみません……」
どうやらセフィアさんは本当に納得した様で、時折大きな声を出しながら鍵穴と奮闘している。
「はぁ、はぁ……お嬢ちゃん、感謝するわ」
「いえ、私は思った事を言った事ですから」
どうやら開錠に成功したようだ。
しっかし……謙遜してる様に見えるルッカさんだけど、俺の方をチラ見してまるで私の勝ちと言いたげに口元を緩めやがったのは何かムカツクんですけど!
「わ、わ、何か凄い事になってますよ!」
エリクさんが戸惑っている通り、暫くするとゴゴゴゴ、と言う音を立てながら目の前にある壁が奥の方へ後退したと思うと、その先の右側に鉄製の扉が現れた。
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