十三/目覚め

 東から、曙の光が差し込む。

 朝日に黄金の髪を美しく輝かせ、十三篇は静かに座っていた。

 その視線の先には、静かに、ソファーの上に死んだように眠る彼女の姿。

 まだ、目覚めない。

 

 太陽は中点に輝き、やがて西に落ちる。

 彼女がふと、身じろぎをする。どうやら西日が不快だったよう。

十三篇は慌ててカーテンを閉め、彼女が安らかに寝息をたてるのを見、ほっと息を吐いた。まだ、目覚めない。


 十三篇は、待ち続けた。

 何年も、何十年も。


 ◇


 あの日、彼女が終わった日。

 それは十三篇がまだ少女と呼べる年齢であり、彼女もまた同様の歳だった。なぜならば二人は双子であり、とてもとても仲の良い姉妹であったから。

 けれども、一人のグシャが現われ、双子は裂かれてしまった。

 そのときの十三篇の嘆きを、零の天使は哀れみ、心の底から哀れみ、善意の為に彼女に自らの羽根を一枚、渡す。それは、万事を叶える羽根だった。以前、十三篇が人の殺戮者であった頃にも一度貰った羽根だった。

 

 それで、あなたの大切な存在は蘇ります。


 零の天使は、十三篇と同様の黄金の双眸を伴う顔に笑みを形作り、それだけを伝えると、どこかへと消えた。

 それ以来、十三篇はその天使に会っていない。


 そして、その日は訪れた。

 果たして十三篇は、天使の羽根に祈った。


 どうか、どうかもう一度、彼女を……。


 その願いは叶い、まず肉体のみが創られた。

 爾来、十三篇は目覚めを待ち続けている。


 何十年も、何百年も。

 彼女はまだ、目覚めない。


 ◇


 ある日。

 繰り返される日々の、その最前の時間に。

 いつも通りに、十三篇が彼女を見守っていたときのこと。


「ん……」


 彼女がふと、動く。

 それはまるで、なんてことはない、数百年の空白ブランクなどないかのような動きで────その瞳を、目を、開けた。

 

 ああ……。


 十三篇は、心より溢れ出る想いを抑えようがなかった。

 ただ、流れ出る感情のままに、数百年ぶりの大切な彼女を迎えた。


「……?」


 きょとんとした顔の彼女へ。

 くしゃくしゃになりそうな顔に精一杯の笑みを浮かべて。


「おはよう、ございます……ヨミ」


 目覚めた彼女を見下ろすその黄金の双眸に、見る見るうちに涙があふれた。

抑えようとは、一応した。

 けれども、だけど……。


「貴女に逢えて、わたくしは……」


 再び逢うことができたその喜びに、嬉しさに。


「うれし、く……っ……!」


 そもそも、耐えられるわけがなかったのだ。

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