Enemy Side

「くっくっく」

 渓谷の間をゆるやかに飛行しながら近藤の顔をした男は笑いを噛み殺す。

 この機体は急降下爆撃機。高所から急降下して地上を攻撃、その慣性を利用してそのまま離脱する。急降下は速いが機体制御や上昇は遅い。ドッグファイトなど無謀だ。

 だがそのハンデを埋めるために用意されたのが特殊兵装『ブーボー』だ。

 3Dカメラで撮影した形状をミサイルのコンピューターに送り、その形を自動的に追いかける。

 目標の形状がインプットされている必要があるが、それは開戦前にバッチリ捉える事が出来る。正面と、交差時に背面を撮影すれば他に機影のないこの戦いでは無敵と言えるだろう。

 なにしろ敵を確認する必要がないのだ。初めに隠れる事に成功してしまえば、後は適当に飛びながら撃っていればいい。

 このフクロウの形を模したミサイルは最強だ。これまでの戦いは全てこれで勝ち進んできた。

 フクロウなんて鳥の形をしている為に速度が遅いのが欠点だが、カメラで追う性質上あまり速いと目標を見失ってしまうのだから仕方ない。


「しかし、この姿勢はツライな。まだ落ちないのか?」

 と首を回す。

 急降下爆撃仕様なので、機体には腹這いになって搭乗する。その上にメイドが馬乗りになるような形で乗る事で複座としている。

 爆撃時には下を見ながら飛ぶ方が都合がいいからであるが、この戦法には向かない。唯一の弱点と言っていいだろう。


「落ちませんね~。頑張り屋さんですう」

 放つミサイルよりもゆっくりした口調でカスミが答える。


「このミサイルを機銃で迎撃しているのか。そんなに長く続くわけもないだろう。ブーボーはあと何発残っている?」


「えーっとお。全部で十六発積みましたからぁ。それでぇ……、十二発撃ったって事はあ、………………あと四発ですねえ」


 まったく、この姿勢でなければパンチをお見舞いしてやる所だ、と言わんばかりの表情で二発のブーボーを発射した。


 放ったブーボーが相手に届いた頃、上を確認しているカスミが言う。

「ああー、今ので弾切れしたみたいですう」


 やっとか、これで終わる。早く帰って休みたい、という風に首を回すとブーボーを一発撃つ。

「やれやれ、やっと終わりか。残り一発あるから何かあっても大丈夫だろう」


「あのぉー。ごしゅーじんさまー」

「なんだ! その呼び方は止めろ!」


「えーとぉ、ごしゅーじんさまからは見えないと思うんですけどぉ」

「何がだ!」


「敵さんがぁ、こちらに向かって来てますよぉ」

「それがどうした。飛んでるんだから近づく事もあるだろ。それにもう弾はないんだろ? 近づいたからってどうなんだ」


「そうですねぇ。でも真っ直ぐこちらに向かってますからぁ。見つかったんじゃないでしょうかぁ」


 んん? 首を動かすのは辛いが、という感じで上を見る。とその動きと入れ違いに赤い大きな塊が眼前を降りて行った。

 下を見るがもう何も見えない。

「……!?」

 はっとしたように上を見ると、こちらに向かって飛んでくるフクロウと目が合った。

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