マヤカシ

抱きしめる腕

交し合う吐息

甘く濡らすは

身体の奥底


アイシテイルと囁きながら

また逢う約束をするけれど


脱ぎ捨てた服を身に着け

ボタンをかっちり留めあげれば

僕は君の知らない人


髪を束ねルージュを剥いで

リップクリームを塗り込めば

君は僕の知らない人


ドアを開けて

僕は右に君は左に歩き出す

いつもの場所に戻るため


何食わぬ顔をしながら

整えられた食卓に座り

妻の愚痴を聞き流す


会話の途切れた家の中で

掃除機と洗濯機の音が

乾いた空気に響いている


淡々と過ぎるリアルに挟みこまれた

深い闇溝に蠢く


ひと時の狂おしい情熱


それは、マヤカシ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る