第212話 新人歓迎会の様子
次々と出来上がる料理を、みんなで並べていく。忙しく動き回る中、俺はポーズがサボっているのを見つけた。すぐにデナトスにチクると、耳を引きちぎるくらいに引っ張られ、どこか、裏へと連れて行かれる。さすがに新人達に、いきなりデナトスの折檻を見せるのは気がひけたようだ。
ソォード特製の料理が盛大に並ぶ中、皆に飲み物が配られ、僭越ながら乾杯の音頭をとらせてもらう。
「さて、新人のみなさん、この度は、うちに来てくれてありがとう。この、新ダンジョンの準備が進み、営業が始まると、忙しくなると思いますが、今は、そんなことは考えずに、思う存分、楽しんでください」
そして、こう言ってグラスを掲げる。
「乾杯!」
一斉にみんなグラスを掲げて、乾杯と言ってグラスをぶつける。こうして、新人歓迎会が始まった。
「紋次郎さん、こうやって一緒に飲むのは久しぶりですね」
「そうだね、アルティ。最近は何かと忙しかったから・・」
俺は最近の出来事を思い出して、少し悲しくなる。それを感じてか、彼女は話題を明るい方へと話を向ける。
「そういえば、ニャン太の石化を解くヒントを得たって聞きましたよ」
「そうなんだよ、本当にただのヒントだけど、可能性が見えてきたんだよ」
紋次郎が嬉しそうに話す顔を見て、アルティもそれ以上に嬉しくなったようだ、途端に笑顔になっていく。
二人が談笑する姿を見て、アルティの親友が茶々を入れに来た。
「なんやアルティ。なんか嬉しいことでもあったんか」
アルティと紋次郎の二人に対してではなく、アルティに名指しでそう聞くのが、マゴイットの意図がそこにあることを意味していた。アルティもすぐに親友の悪意に気がつき、反発するように言い返す。
「煩いわねマゴイット。今、忙しいから、あっちで飲んでなさいよ」
「何が忙しいんや、紋次郎とイチャイチャするんが忙しいんか」
マゴイットのその言葉に、さすがにちょっとイラッときたのか、さらに強い口調で答える。
「何が言いたいのよ、マゴイット。あんたは昔からそうだよね、人のそういうのを邪魔してばっかり」
「昔のお前に恋路なんてなかったやろ。部屋で引きこもって、怪しい漫画ばっか見とったやんか!」
「それを言う! それは言っちゃダメなやつでしょ!」
やばい、二人ともヒートアップしてきた。これはさすがに止めないといけないと思い、俺は二人に声をかける。
「まあ、二人ともあまり昔の話はやめて、前を向いた話しようか」
俺がそう言うと、マゴイットが同意するようにこう話し始めた。
「そやな。昔の引きこもりのアルティより、今の方が断然、ええのは確かやしな」
そう言われて、アルティは、ちょっと照れたような反応をした。二人はボソボソと友達に戻って何かを話し始める。ここは二人をそっとしておこうと、紋次郎はその場を離れる。
紋次郎が別のテーブルに行くと、メイルが、ソフィアとジリニアの二人の新人に、何やら先輩面している。自らの蘇生論を熱く語り、二人がそれを熱心に聞いていた。
「蘇生方法としては、メイルは魔力効率の一番いい、神聖系の蘇生魔法が一番いいと思うんだよね。回復系や黒魔術系は、術者の魔力の負担が大きすぎるから」
「でも、使用する触媒が多い分、コストは高くなりませんか」
ソフィアが持論をメイルに説いてみた。確かに神聖系の蘇生魔法は、神の恩恵によって蘇生の奇跡を引き起こす魔法なので、きっかけに使う小さな魔力だけで術を発動することが可能である。だが、その分、神への捧げ物の意味のある高価な触媒を多く使うことでも知られており、コストを考えると、回復系の蘇生魔法などの方が良いとされていた。
「ソフィアの言うことは、間違ってないよ。確かに通常の神聖系の蘇生魔法の触媒は、高い物が多いんだけど、実はね。もっと効率の良い、触媒の組み合わせがあるんだ。そっちは驚くほど安い触媒で済んじゃうんだよ」
それを聞いたソフィアとジリニアは、興味津々でメイルの話に耳を傾けた。なんだかんだ言っても先輩している彼女を見て、兄が妹の成長を見ているようで嬉しくなる。
メイルの講義を邪魔しては悪いと思い、紋次郎はさらに別のテーブルへと移動する。移動した先のテーブルには、リンスとデナトス、そして新人のフリュドとフィスティナが話をしていた。そこは、ギスギスと、聞こえるはずのない音が響くような硬い雰囲気のテーブルで、一瞬で居心地の悪さを感じてしまった。見た目は笑顔で談笑しているように見えるけど、その奥には何か触れてはいけないものが存在しているようである。紋次郎はそっとその場を離れて、さらに別のテーブルへと移動することにした。
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