第205話 遥かなる思い

とりあえず、俺はその幽霊に話を聞くことにした。

「ちょっと話聞いていいかな?」

幽霊は、話しかけられて少し戸惑っているけど、こう返答する。

「何の話を聞きたいのよ。私に面白い話なんてないわよ」

「どうして君は幽霊をやってるんだい、成仏はする気ないの?」


「ふん。そんなの私の勝手でしょ」

「そうなんだけど・・・理由を教えてくれれば、俺たちに何かできることがあるかもしれないんだろ」

そう俺が言うと、幽霊は少し考えてこんな風に答えた。

「そこまでは言うのなら私の話をしてもいいわよ。でも話を聞いたんだからちゃんと面倒みてよね」

「・・・・いや・・それは話を聞いてみないと・・」

「み・て・よ・ね!」

「・・わかった。最大限に努力するよ・・」


そう俺が言うと、幽霊は生い立ちというか死に立ちを話し始めた。


昔、この城は、ある国の王様が住んでたそうだ。幽霊はその国のお姫様で、名をラスティル姫といった。ラスティル姫は国内外にその美貌が知られ、多くの王族、貴族から求婚されていた。だが、ラスティルは、驚くほど好みにうるさく、どの求婚者も気に入ることがなかった。そんな中、全ての求婚を断っていたラスティルに、運命の出会いが訪れる。それは隣国のアーサー王子であった。背が高く、優しい笑顔のアーサー王子に恋をしたラスティルは、彼からの求婚を待っていた。だけど、いつまで待ってもアーサー王子は彼女に求婚してくれない。


しびれを切らしたラスティルは、友人の貴族の娘に、アーサー王子がなぜ求婚してくれないか、聞き出してくれるように頼んだ。そうして聞き出した内容は思いの外、単純なものであった。

「性格が嫌いって言われた・・・・」

拳に力を込めて、震えながらその幽霊は語っている。


「なるほど・・それで君はショックで自殺したんだねラスティル姫」

「私がそんなことで自殺なんてするわけないでしょう」

「え・・そうなのか・・じゃあなぜ死んだの?」

「翌年に流行り病でぽっくりと・・・で、そんなことはどうでもいいのよ。私はね、結婚をしたかったの! 結婚にすごい憧れがあったの! だからそれが未練で仕方なくって・・・」


「だったらたくさん求婚してくれてた時に、受ければよかったんじゃないかな・・」

「私は妥協なんてしないの。いい男としか結婚しないのよ」

「・・・あっそうですか・・」


さて、どうしたもんか・・結婚でもできれば成仏してくれそうだけど・・


「あなた、結婚はしてるの?」

幽霊がそう聞いたのはヴィジュラであった。彼は魔界の住人であるが、見た目は頭に角があるが、それ以外は人と変わらず、そしてどこに出しても恥ずかしくないくらいに男前であった。

「いや、まだ妻は取っていない」

ヴィジュラはそうそっけなく答える。独身だと知ったラスティルは、獲物を見つけたような目になると、猛烈にアッタクし始めた。


「そうなのですか、私、ラスティルと申します。あなたのお名前は・・」

「ヴィジュラだが・・」

「ヴィジュラさん・・まあ、良いお名前で・・ところで、ヴィジュラさんはどのような女性が好きですか」

「うむ。そうだな、妻をとるなら、芯がしっかりしていて、まっすぐな心を持っている人が良いかな」

「まあ、それって私ってことですか!」

「いや・・そんなことは一言も・・」

「運命って言葉・・お好きですか・・」

「いや・・好きってことはないかな・・」

「まあ、まあ、そうなんですね、私たち運命なのですね」


ラスティル姫は、一方的にどんどん話を進めていく。このままいけば、挙式の日まで決めかねない。そろそろ止めに入ろうかと思ったけど・・ヴィジュラとラスティルが結婚すれば、満足して成仏してくれるのではないだろうか・・と思い、ここはヴィジュラにはかわいそうだが、犠牲になってもらおうと考えた。


「それで挙式の日取りですが・・・」

「いや・・俺は結婚するとは一言も・・」

「まあ、照れないでください。あなたの心はもうわかってますよ」

「いや・・だから・・」

困ったヴィジュラは、俺に助けを求めるように見てきた。ごめん・・ヴィジュラ・・ここは犠牲になってくれ・・結婚して幸せになってくれ・・そう思いながら顔を背ける。


そしてラスティルの説得という洗脳が完了して、ヴィジュラがこんな言葉を口にする。

「紋次郎・・俺・・結婚するわ」

疲れた顔でそう報告してきた。まじか・・しかし、そもそも幽霊と人って結婚できるのかな・・そう思ったが、まあ、成仏すればそんなの関係ないかと思い、二人を祝福する。











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