第196話 六界

ケルベロスの問題も解決して、その先を調べられると、アルソネは興奮していた。すぐに奥に向かって走っていく。ジラルダもそれに続く。


アルソネが、そこで調査をしている間、俺はダッシュと戯れて時間を潰す。他の面子は、そのあたりをウロウロしたり、何かを食べたりと思い思いに時間を過ごしていた。


「大変な発見じゃ!」


アルソネがそう叫んだ。みんな特に興味のないことだと思うけど、よほど暇なのか、アルソネの周りに集まってきた。


アルソネは、そこの壁画に描かれている内容を、手元のメモと照らし合わせて読んでいる。

「なるほど・・ビュホーンの邪神の正体が分かってきたぞ・・・ふむふむ・・多くの・・・まさかそんな・・・」


言ってることはほんとんどわからないけど、 どうやら彼にとってはすごい発見のようである。俺にとっては、例の話をすぐに聞きたいと思っているのだけど・・


「よいか、皆、ビュホーンの邪神の話は知っておるだろ」

一通り調べの終わったアルソネは、焚き火を囲んだ前で、自分の説の話をし始めた。それは途方もない話なのだけど、それよりも神の石化を解く方法を・・


「ビュホーンには数千の邪神が住んでいると言われている。その中でも有名なのは、魔界を作ったとされるドルツラティスじゃが、どうして邪神たちはそこにいるのか、そしてなぜそこから外に出ようとしないのか・・それが大きな謎とされていた。じゃが、その謎が解けたのじゃ」


アルソネは、そう自信を持って言い切った。その話を聞いたリリスがボソッと発言する。

「ビュホーンは魔界のヘソじゃな、そこから高次元へとエネルギーが流れ出しておる。それを塞ぐ蓋としてドルツラティスはそこにいるのじゃろ。多くの邪神がそこにいるのは、ドルツラティスの手助けする為じゃ、そしてそこから外に出ないのは、エネルギーの漏れを防ぐために作った強力な結界があるから・・だから外には容易には出れないのじゃ、それは大きな力の邪神ほど影響を受けるからの・・」


学者アルソネは、自分が言おうとしたことを全て言われて呆然とする。

「お主・・何者じゃ」


「私はリリスじゃ、ビュホーンの邪神の一柱じゃな」

「夜の女神か・・・・なるほど、そうじゃったか・・それならそうと早く言ってくれば、最初から根掘り葉掘り聞いたのに・・それにしてもお主はなぜビュホーンから外に出れたのじゃ」

「私は紋次郎に空間を超えて召喚されたから結界の壁を超えておらぬのからのう」


リリスが、そのビュホーンの邪神の一柱とは驚いた。それにしても、リリスはいい子なのに邪神って・・ちょっと邪神の定義はわからなくなった。気になったので本人に聞いてみる。

「私が、邪神なのに邪悪っぽくないのはなぜかじゃと。変なことを聞くの紋次郎、そもそも邪神は邪悪な神という意味ではないぞ。本道ではないない神が正解かのう」

「あ・・邪道な神ってことだね」

「なんかその言い方は好きくないのう・・・スフィルドやアズラヴィル、ニャン太も私と同じ神族じゃが、明確な存在理由のあるのが正神と呼ばれておる、例えばスフィルドは神鳥じゃな、空を守り、統べるのが彼女の目的、アズラヴィルは、秩序を司る天使を束ねる大天使じゃ、しかし、私のような邪神にはそれが無かったり、多くの者に疎まれる命を持っていたりするのじゃ」


ちょっと難しい話で、反応に困ってしまう。アルソネはここぞとばかりにリリスに質問する。


「リリスよ、ドルツラティスとは何者なのじゃ、魔界を作った邪神としか伝わっておらぬが、それだけのことをやる力を持っているとなると、六界のさらに上と考えられる・・しかし、それは世の常識を覆すごとになるが・・」


「ドルツラティスはこの世界に存在する唯一の二級神じゃ」


その言葉に、アルソネだけではなく、ここに居る紋次郎以外のすべての者が驚き、言葉を失った。

「そんな馬鹿なことがあるわけがないわい・・この世界に存在できるのは三級神まで、それより上位の神は、強大なエネルギーを物質化できずに、世界に存在できないはず・・二級神はありえぬ・・・」


さらに難しい話にハテナ状態の俺は、スフィルドに説明を求めた。

「二級神がこの世界に存在するのは、アルソネの言う通り、ありえません・・わかりやすく言うと、十個しか入らない箱に、三十個分の大きさの何かが入っていると言っているようなものです。それほど二級神からすると、この世界はあまりにも小さな器なのです」


話を聞いてると、確かにありえない話のように思える。だけどリリスがそんな嘘をつく理由もないだろうし・・


「ちなみに六界ろっかいて何?」

「六界はこの世界に存在する最高位の神族、三級神の六柱の総称です。龍神王、魔龍帝、不動明王、羅刹、地母神、精霊神の六柱がそうです」


こう聞くと、リュヴァの親父の凄さが改めてわかるな・・そして、リリスの話は、アルソネの度肝を抜く事実を伝えた。

「ドルツラティスはこの世界を創造した八神の一柱なのじゃ。ドルツラティスは自らの体をこの世界の材料に使っているから、普通では存在できないこの世界に、体の一部を器となることで存在できているのじゃ」


「なんということじゃ・・それは世の中がひっくり返るような大事実ではないか」


リリスの話が、よほどびっくりしたのか、アルソネはしばらく放心状態になった。なので、神の石化を解く話を聞くことができずに、またしばらくそこで待つはめになる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る