第193話 学者アルソネ

軽い準備を整え、紋次郎たちはロザン遺跡へと足を踏み入れて行った。スフィルドに、学者アルソネの位置を見てもらったのだけど、何かの結界に引っかかっているのか、正確な場所が見えないそうだ。大凡の位置はわかるので、そこを目指して先に進むことになった。


「どれくらい奥に行けばいいのかな?」

何気なくスフィルドに聞くと、こう答えが返ってくる。

「10階層くらいでしょうか・・」

「結構下だね」


ダンジョンと呼ぶだけあって、中に入ると、頻繁に魔物に襲われる。どの魔物も相当レベルの高そうな奴ばかりなんだけど、面子が面子なのもあり、苦戦という二文字とは程遠いほどの圧倒的勝利を重ねていた。


探索は順調に進んで、俺たちは、行程の半分、5階層までやってきた。そこは小さな部屋の多い入り組んだ場所で、今、進んでいる通路の両脇には、一定間隔で扉が存在する。


「そこら中に罠が見えます。何が起きるかわからないから無闇に扉を開けないでください」

スフィルドがそう話しているのを聞きながら、俺は近くにあった扉を開いていた。


扉を開いた瞬間、俺は中に浮いたような浮遊感を感じる。上下の感覚もわからなくなり、目の前が真っ暗となって視界が失われる。遠くのどこかで、スフィルドやリリスが俺を呼ぶ声が聞こえる。


「やってしまった・・・・」

久しぶりの逸れ癖が出てしまったようだ。おそらくテレポートの罠であろう・・俺は気がつくと見知らぬ場所で立ちすくしていた。


まあ、慣れたもんで、あまり驚くこともなく、俺は辺りを探索し始めた。



目の前で、紋次郎が消えたのを見た、アスターシアは、己の不注意を呪った。紋次郎の逸れ癖を知っていたのは、このメンバーでは自分だけである。ここは必要以上に注意するべきだったと反省する。


「紋次郎は何を考えてるんですか・・」

スフィルドが呟くように言うと、アスターシアが呆れ果てたように答える。

「あの男はダンジョンでは無になるようですの。多分・・いや間違いなく何も考えてないですわ」


「まあ、紋次郎の今の実力だったら、多少の魔物なんぞは問題ないでじゃろ。アテナもいるから場所もすぐわかるしのう」


「アテナさん、ご主人様の場所さぁ、わかるけ?」

「マスターの反応は、ここより127m下にあります」

それを聞いたリリスは、険しい顔で呟く。

「思ったより飛ばされているの・・」


「大丈夫だと思いますけど、急いで向かうですわ」

「そうですね・・急ぎましょ」


一同は、逸れた紋次郎を探す為に、下へと急いで向かう。



逸れた後、その辺を探索していた紋次郎は、激しく水が流れ込んでいる、遺跡のような場所へとやってきた。水はキレイそうなので、水を手ですくって、それで顔を洗う。さっぱりしたところで、大量の水が流れ込んでいて、半分水没しているその遺跡を見渡す。


「あれ・・」

俺が遺跡を見ていると、水流の先の建物の中に、人影のようなものを見つける。もしかして・・俺は急いでその人影の元へと向かった。


人影のあった建物に入ると、そこには、一人のエルフの老人が座り込んで、何やら調べていた。老人の横には、若いメガネをかけた女性も同じように何かを見ている。俺は彼らに近づくと声をかけた。


「あの・・・すみません」


しかし、俺の声が聞こえないのか、ただ無視されているのか、反応を示さない。俺は老人のすぐ後ろまで近づき、耳元で大きな声を出して呼びかけた。

「すみません! 聞こえますか」


老人はビクッと硬直すると、そのまま横に静かに倒れた。やばい・・心臓が止まったか・・・と心配してると、徐にムックリと起き出した。そして俺を見ると一言、言ってくる。

「なんじゃお前は?」


元気に話しかけてくるその姿を見て、安心した俺は、思わずこう言葉を発する。

「よかった・・死んだかと思いました」

そして老人から帰ってきた言葉は、俺を普通に驚かす。

「何言っとんじゃ、お前が驚かすから一度死んでしもたわ」

「へ?」

老人の言葉の意味がわからず、呆然としてると、彼の口から言葉が続く。

「死んで復活したんじゃよ。オートリザレクションをかけとらんかったらどうするつもりじゃったんじゃ」


なるほど、死ぬと自動で蘇生する魔法か何かかな・・・


「それでお前は何者だ?」

「あっ・・すみません、俺は紋次郎と言いまして、学者アルソネという人物を探しているんですが・・・」


「ふむふむ。わしが学者アルソネじゃが、何の用じゃ?」


やはりこの老人が学者アルソネであった。俺はアースロッドの紹介状を彼に私た。それをざっと読むと、何度か小さく頷く。

「なるほど、アースロッド坊やの友人か、お前に手を貸して欲しいと書かれとるが、何が望みなんじゃ」


「はい。ちょっと話をお伺いしたいと思いまして・・・」


俺は、ニャン太が呪いにによって石化した経緯を説明した。そしてその石化の解き方を彼に聞く。彼はその話を聞いて、何やら考え込み始めた。


「うむ・・おそらく肉体と魂への石化じゃな・・実体と心体・・同時に解呪しないとおそらく解けそうにないの・・これは難しい・・難題じゃ」


恐る恐る、俺は尋ねる。

「無理そうですか?」


そう聞いた俺の質問に、老人ははっきりとこう言ってきた。

「この世の中、不可能なことなど無い。それだけは間違いないぞ」

「それじゃ、解呪する方法があるんですね!」

「ある・・はずじゃ!」


必ず解呪できるとの意思は感じるが、どうやらその方法は思い当たらないようである。しかし、学者アルソネの言葉は、俺に少しの希望を与えてくれた。









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