第175話 血の神殿
アースロッドを救出する為に、紋次郎は古い通路を進んでいた。通路が狭いこともあり、同行してきた飛兵隊のほとんどは入り口で待機してもらっている。一緒についてきてくれているのは、飛兵隊長とその5人の部下だけであった。
通路をしばらく進むと、石の扉に突き当たった。扉には鍵がかかっていて、押しても引いても開かない。
「開かないね・・どうしようかスフィルド」
「任せてください」
そう言うとスフィルドは扉に手を開けて、ブツブツと何かを唱える。するとゆっくりと石の扉が開き始めた。簡単にこんなことをさらっとやってくれるスフィルドを見て、紋次郎は、さすが神鳥だけのことはあるなと心の中で感心する。
石の扉の先は、何かの遺跡のような場所であった。飛兵隊長に何か知らないか聞いて見るが、こんな場所は聞いた事もないと話してくれた。恐る恐るその遺跡に足を踏み入れる。雰囲気はあまり良くないのだが、ここを抜けないと、王のいる由王宮に行けないので仕方ない。
しばらく進んでいると、円形の広い部屋へと出た。そこにある石版を見て、スフィルドが反応する。
「申し訳ない・・紋次郎・・どうも私は少しミスをしてしまったようです」
相変わらずの無表情でそう話してくる。俺は何のことを言っているかわからないので彼女に問いかける。
「え。ミスって何を?」
スフィルドは周りを警戒しながらこう言ってきた。
「ここは古の邪神の神殿です。どうもその封印を解いてしまったようです」
スフィルドがそう言った瞬間、周りの空気が震え始めた。
「何かくる」
俺はとっさにそう言っていた。ゴゴゴッと地響きのような音が地面から響き渡り、黒い靄のようなものが辺りを漂い始める。
「ひっ・・」
そう声が聞こえ、そちらを見ると、飛兵の1人の首が飛んでいた。その体からは噴水のように血が噴き出している。
「みんな中心に集まって!」
得体の知れないものに怯えながら、兵たちが俺を中心に集まる。スフィルドは一人、敵の姿を捉えようと辺りをうろつく。そして見えない者に話しかける。
「そろそろ姿を見せたらどうですか、ラブダジュラ」
その名を聞いて。飛兵隊長が震えながら名を繰り返す。
「ラブダジュラ・・ラブダジュラがここにいるんですか?」
「隊長さん知ってるの?」
俺が聞くと、真っ青の顔で答えた。
「ラブダジュラは血の神です・・生命の生き血を好み、自分のその欲望の為に、命を簡単に摘み取る邪神です・・私も昔話でしか聞いたことがありませんが、この国に封印されていると話を聞いたことがあります」
黒い霧が渦を巻いて集まりだした。そして一つの形を作り出していく。それは巨大な蚊の姿をしていた。
「神鳥・・・お前・・・なぜいる・・・」
その蚊の化け物は、スフィルドにそう語りかける。彼女は無表情でそれに対して返答する。
「ラビダジュラ、あなたの封印を解いたのは間違いです。悪いですけどもう一度封印されてくれますか」
そのスフィルドの言葉に、蚊の化け物の雰囲気が変わる。せっかく封印が解かれて自由になったのに、間違いだからもう一度封印させろというのが納得していないようだ。
「ふざける・・・なよ・・神鳥・・・」
蚊の周りに無数の剣が現れる。それはくるりとその場で回ると、一斉にこちらに向かって飛んでくる。スフィルドは手をかざして光のシールドを出現させて、それを防ぐ。
間髪入れずに、蚊の化け物は不気味な言葉を発する。すると地面に黒いシミが現れる。それを見たスフィルドが、俺たちに警告する。
「その黒いシミから離れて!」
紋次郎はその言葉を聞くとすぐに跳躍してその場から離れた。黒いシミから次々と鋭い棘が突き出てくる。スフィルドの警告で逃げていたので紋次郎は難を逃れたが、飛兵の一人が逃げ遅れて串刺しになる。棘からは細い針が無数に飛び出し、その兵をズタズタにして、その体から赤い血を噴き出させる。
蚊の化け物はそれを見るとプルプルと震えだす。
「血だ・・血だ・・・それは・・全部・・俺・・・のだ・・」
そう言うと素早く加速して、血を噴き出している飛兵の元へと移動する。そして噴き出している血をその体に受けた。
それを見た俺は心底不快な気持ちになる。
「化け物が・・・」
紋次郎はそう言うと、剣を抜きそれを構えた。そして床を蹴って、その化け物の元へと跳躍する。その行動に気がついたラビダジュラは左手の一つに闘気を集中する。そして紋次郎が斬りつけてきた剣をそれで受け止める。
邪神の闘気は人のそれとは比較にならないほどの硬度を持っていた。伝説級冒険者が、伝説級の武器で斬りつけたとしてもはじき返すほどのその防御を、紋次郎の剣は容易く切り裂く。ラビダジュラの左手は、竹を割っていくように真っ二つに引き裂いていった。
邪神は予想だにしなかったその結果に驚き、後ろに引いた。そして紋次郎をじっとりと睨みつけた。
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