第158話 身代わりの聖玉

俺たちは60階層へ戻り、アズラヴィルの家へとお邪魔していた。そもそもここへ来た目的である。身代わりの聖玉のことを聞かなければいけなかった。

「身代わりの聖玉・・・そんなのここにそんなのあったかな・・」


アズラヴィルはその名前にピンときてないが、記憶をたどって思い出そうとしてくれる。


「アズラヴィル、お腹空いて死にそうや、なんか食べるもんないか」

アズラヴィルがせっかく思い出そうとしてくれていたのに、マゴイットの遠慮のない発言で台無しになる。

「ここにある食べ物はこれだけだよ」

そう言って出されたのは白い豆のような穀物であった。


「あまり美味そうやないな、しゃあないから食べるけど」

そう言ってマゴイットは、それを一つかみ取ると口に運ぶ。ムシャムシャと何度か咀嚼すると飲み込んだ。

「どんな味ですか」

ファミュがそう聞くと、マゴイットはぶっきらぼうに答えた。

「何も味せえへんわ、こんなん食べて楽しいか?」

「食事に楽しみを求めてないからね、栄養になれば問題ないだろう」

「つまらんのう・・」


「そういえばまだ食材があるから、何か作ろうか?」

「何や紋次郎、それやったら早よ言わんかい」


俺はアズラヴィルに炊事場を借りて、食事を作り始めた。しかし、食べ物があの豆みたいなのしかないのに、どうしてこんなちゃんとした炊事場があるのか不思議ではある。


「できたよ」

そう言って俺がテーブルに並べたのは、干し肉と干し野菜の炒め物、キノコと豆のスープ、蒸かし芋、干し魚の焼き物であった。


「おおお。これやこれ、いただきます」

そう言ってマゴイットは勢いよく食べ始めた。

「ファミュとアズラヴィルも早く食べなよ、全部マゴイットに食べられちゃうよ」


そう俺が言うと二人は食べ始めた。

「美味しい! なんだこれは・・こんな美味いものは初めて食べたよ」

「よかった。気に入ってもらって」

と言っても特に絶賛されるほどのものじゃないと思うけど・・アズラヴィルは多分、随分長く、あの豆みたいなのしか食べてなかったからすごく美味しく感じるのかな。


食事をしながら俺はアズラヴィルに話を聞いてみた。

「そういえばアズラヴィルってここの新しい主人の選別の為にここに居たんだよね、その目的が終わった後ってどうするの?」

アズラヴィルは少し考えると淡々と答えてくれた。


「さぁ、決めてないね。予定もないしどうしようかな」

「あれだったらうちに来る?」

「え、いいの? じゃあそうさせてもらおうかな」

簡単に誘って簡単に了承された。大天使が仲間になるってすごいことだよね。その会話を聞いていたファミュがすごい形相で俺に問いかけてきた。

「紋次郎、わ・・・私も・・私もいいですか!」

「え、ファミュも来てくれるの? それはすごく嬉しいよ、もちろん歓迎するよ」

それを聞いた彼女はなぜだかすごく喜んでいる。行くとこなかったのかな・・


「まあ、あれやな、アルティが紋次郎の所におるんやったら自然とうちも厄介になることになるわな、うちだけ嫌やなんて言うなや」

「そんなの言わないよ、歓迎するよマゴイット」


また人がいっぱい増えてしまった。前以上にダンジョン運営を頑張らないと・・あれ、そうか、ここはもう俺の所有物件になったんだから、ここで商売もできるんだ・・まあ、こんな広いダンジョンどうしていいかわからないけどね・・


食事も終わり、ゆっくりお茶を飲んでいる時に、アズラヴィルが何かを思い出したように小さく叫んだ。

「あ! もしかしてあれかもしれない」

「何々、どうしたの?」

「身代わりの聖玉だよ、一つだけ思い当たるものがあるんだ」

「おっ、どこにあるのアズラヴィル」


俺がそう聞くと、アズラヴィルは人差し指で真上を指した。俺は無意識に上を見上げた。


それは塔の広い屋上、そこの真ん中に建っている細い塔の上にあった。その塔の上部が円錐上になっているんだけど、その一番上の部分に、光る丸い玉がつけられていた。それをアズラヴィルが飛んで持ってきてくれた。

「ほら、紋次郎、これじゃないか」


そう言って渡されたのだけど、これが身代わりの聖玉かどうかなんて俺にわかるわけもなく・・


「貸してみ」

そう言ってマゴイットがその丸い玉を手に取った。何かブツブツと唱えると、それを俺に返してくれる。

「間違いないで、それが身代わりの聖玉や」

「え、そうなの? どうして分かったのマゴイット」

「アイテム鑑定の魔法や。冒険で知らないアイテム拾っても価値や効果がわからんと困るやろ、そんな時に役に立つ魔法や」


「そんな、らしくない魔法も使えるんだね」

「うるさいわ! それより目的の物が見つかったんや、もっと喜んだらどうや」

「あ! そうだよ、これでみんなを助けれる・・よかった・・」


俺はその場で膝が崩れて座り込んでしまった。安心したのか、嬉しすぎたのか、そのままうつ伏せになり、少し泣いてしまった・・・

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