崩れたゴン太の破片を見て、紋次郎は呆然とする。ゴン太という戦力を失ったという気持ちもあるが、それ以上に、大事な仲間を失った喪失感の方が大きかった。

「紋次郎！　避けて！」

ファミュの声でとっさに横へ避ける。さっきまで自分がいた場所を、黒いレーザーが通過する。ボーとしていてはいけない、せっかくゴン太に助けてもらった命を失ってしまう。紋次郎はすぐに気を引き締めた。

ファミュが舞を終わり、悪魔の前へと躍り出る。ファミュを攻撃する為に、悪魔は複数の攻撃魔法を同時に発動した。同時魔法詠唱・・それは無詠唱魔法などを複合して唱える超絶技法であり、人の技の遥か上をいくものであった。

雷撃、炎、闇の魔法がファミュに襲いかかる。その全ての魔法が直撃するかと思われたその時、ファミュの体が何重にもブレた。ブレは大きく広がり、やがて霧のように小さな粒となり、悪魔の周りにまとわりつく。そしてフワリとファミュの実態が一瞬現れると、奥義の舞で強化されたその拳を悪魔に叩き込む。攻撃後はまた霧の状態へと戻っていく。それを繰り返して、悪魔を一方的に攻撃する。これはミスト・タクティクスというファミュのスキルで、実際に霧に変化しているのではないが、質量を変えずに、霧の性質を模擬することができるものであった。この技を使用することからファミュはこう呼ばれることがある。霧の舞姫と・・

「すごい・・・」

ファミュのその戦い方を感心して見ていた紋次郎であったが、それに見惚れている場合じゃないと思い、ファミュに気が取られて隙に、悪魔に攻撃を仕掛けることにした。

紋次郎はすぐに、悪魔の後方に回り込んでその剣を叩き込む。しかし、どうもこの悪魔、後ろにも目があるのか、その攻撃をまたも黒い空間によって防がれる。

それまで一方的にファミュに攻撃されていた悪魔であったが、真上に顔を向けて一声吠えると、両手に力を入れて闘気を放出する。それは衝撃波となり、悪魔の全方位に広がる。霧のようになっていたファミュも、すごい勢いで吹き飛ばされ、転げるように実体に戻った。紋次郎もその衝撃波をまともに受けて、同じように吹き飛ばされた。

やはりあの悪魔は強敵である。絶対的な戦闘力の差を感じる・・どうすればいいんだろう・・紋次郎がそう考えていると、ファミュが近づき、紋次郎に声をかける。

「紋次郎、私がなんとか奴の動きを封じ込めます。その時にその剣で攻撃してくれますか」

「わかった、やってみるよ」

その紋次郎の返答を聞くと、ファミュは悪魔に走り寄っていく。近づくと高くジャンプして気を放出する。ファミュの気は、光の鎖のように変化して、悪魔に絡み付いていく。それは闘気光鎖封（とうきこうさふう）自分の闘気を光の鎖に変化させて相手の動きを封じる技であった。強力な束縛技なのだが、これを使用している間は自分も行動ができなくなる為に、自分以上の攻撃力を持っている信頼できる仲間がいる状況でなければ、使う意味があまりなかった。その為に、これまであまり使用する機会がなかったが、紋次郎というパートナーがいる今の状況にはもってこいの技であった。

紋次郎は束縛されている悪魔に近づくと、大きく剣を振り上げて、それを叩き込んだ。光の鎖で動きを封じられている悪魔は、紋次郎の攻撃を防ぐことができずに、真っ二つに切り裂かれる。

「よし！　やった・・」

喜ぶ紋次郎が見つめる中、二つに裂かれた悪魔はそのまま地面に倒れこむ。ファミュも紋次郎に近づき、強敵を倒した後の余韻に浸っていた。

しかし・・切り裂かれた悪魔の死体が、モソモソと動き始めた。それを見たファミュが紋次郎に叫ぶ。

「紋次郎、悪魔はまだ生きてます！」

紋次郎はそれを聞いてすぐに剣を振り上げるが、その時には二つに分かれた悪魔は、空中に高く飛び上がり、そこでまた一つの塊へと合体する。合体した悪魔は、さらに何か変化をするようである、ボコボコと塊の表面が膨れたり、縮んだりと活発に動くと、その質量が増大していく。最初の悪魔の大きさの5倍くらいに膨れ上がると、生物の形へと変化していく。それは巨大な牛の化け物のような姿であった。

ファミュはその悪魔を見て、強力な力を感じた・・それは先程までの姿だった時とは比べものにならないような強いものであった。