第93話 幽霊屋敷

老人に案内されたのは集落の奥にある大きな洋館であった。それほど古びてもいなく、比較的綺麗に見えた。


「中のものは好きに使ってもらって良いですぞ、食事は後で食材を持ってきますのでそれで自炊してもらえますかの」

「はい、わかりました」


そう言ってそそくさと老人は去っていった。


「結構いい宿じゃねえか、こんな集落にこんな宿はちょっと想像できねえな」

「そうね、さっそく中に入ってみましょう」

ぞろぞろと中に入る、すぐに広いエントランスがあり、そこには二階へ続く階段があった。みんなで一通りまわり中の様子を確認した。客室は人数分十分にあって、全員で食事できるほどの広い食堂もあり、風呂も広く綺麗であった。


「すげーな、主、ここいくらなんだ、高えだろう」

「無料だよ」

「・・・・・なんだと!!」

一同、驚きの声をあげる。

「無料ってどういうこと?」

「ここがタダとはちょっと考えられんぞ」

そんな声に悪びれることもなくここが幽霊屋敷だとみんなに伝えた。


「ちょっと待ってよ出るのここ? 嫌だ、そんなところ泊まれないわよ」

「お姉ちゃん、メイル怖いよ」

「紋次郎さん、なんて宿とってるんですか」


みんなの意外な反応に俺は困惑する。


「ちょっと待ってよ、アルティなんかゴースト召喚したりするじゃないか、メイルだってそのゴーストをパパッと倒しちゃったりするし・・」

「お兄ちゃん! アンデットのゴーストと霊体の幽霊を一緒にしちゃダメだよ」

「そうですよ、全然違いますよ」

「え? え? そうなの? 同じようなもんじゃないの?」

「違います!」

そう言って女性陣の声がハモる。困ったぞ・・幽霊なんてゴーストと同じと思ってたから簡単に倒せるなんて言っちゃったよ・・どうしよう。


とにかく、野宿よりはマシとのことでみんなここに泊まることは了承してくれた。だけど誰も幽霊退治は手伝ってくれない。


「リンスもあの老人から話聞いてたんだから、その時教えてよ」

「その・・紋次郎様は幽霊とか全然平気なんだと感心してたくらいで・・・私は無理だ・・と心では思ってたんですが・・・」

だぁ・・・だからそれ言ってよねそれ。男性陣も意外にみんな怖いみたいで拒否されるし。


「ニャン太、君は手伝ってくれるよね」

「僕は幽霊とか怖くはないんだけど、神族は霊体に対しては敬意を払うように決まっていてね、退治とか無理なんだよゴメン」


まじか・・そうだリリスはどうだろう。

「私も幽霊なんて怖くはないのじゃが、多分退治の手伝いはできぬぞ、なんにしろ悪魔は霊体を捕らえてしまうからのう、怖くて向こうが逃げてしまうじゃろうからな」

ええ〜そんな理由は想像もしなかった。途方に暮れていると意外なところから助け船が出てきた。

「紋次郎・・リュヴァ手伝うよ」


俺は思わずリュヴァをぎゅっと抱きしめてしまった。リュヴァは顔を真っ赤にして喜んでいる。そこへふらっと飛んできたアスターシアが、俺の耳を引っ張りながらこう言ってきた。


「紋次郎、紋次郎、私も手伝いますから、ぎゅっとして欲しいですわ」

俺はアスターシアを両手でそっと握ると自分の頬に持って行き、ぎゅっとしてやる。

「アスターシアも幽霊平気なんだね」

「いえ、ものすごく怖いですわ」


「・・・・そ・・そうなんだ」

まあ、いいか、人数が多い方が怖くないしね。


ソォードの作った食事食べ終わると、怖いから酒に逃げるつもりなのだろうか、ポーズたちは宴会を始めた。俺は早めに風呂に入り、夜の幽霊退治に備えることにした。


一人風呂場で寛いでいると、それは現れた。


普段の仕事を淡々とこなすように、メイド服を着た少女がモップを持って姿を見せる。あまりにも普通にそこに存在するものだから、俺は恐怖を感じることもなく、その仕事ぶりを風呂に浸かりながら見つめていた。メイド服の少女は丁寧な仕事で隅々まできちっとモップをかける。完璧なその仕事に感心していると、不意にその少女と目があう。少しの沈黙の後に大きな叫び声が風呂場に響く。ひとしきり叫んだ後に、冷静になった彼女が俺に話しかけてきた。


「あんた何しとるか? 今は入浴時間じゃないべさぁ」

かなりなまったイントネーションのその喋りに、なぜかほっこりする俺。


「ええと・・君は誰だい?」

おそらく幽霊だと思うその彼女に、なんとも間抜けな話しかけをしてしまう。そんな彼女は簡潔に自分のことを説明してくれた。

「私はぁ、ここのメイドさぁしとるカリスつうもんだぁ、それよりあんたこそ誰だぁ、ご主人様のお客さんか?」


その問いに俺は言葉を詰まらせる。ここの客だと説明しようかと思ったが彼女にそれを話してもおそらく理解できないような気がする。ここは話を合わせて、様子を見た方がいいと思った。


「そうだよ、君のご主人様の客人だ」

「やっぱりそうだがか、それは失礼なことしただ、ごゆっくり入ってくださぁい」


そう言うと、彼女は風呂場から出ていった。それにしても・・全く幽霊に見えない、本当に幽霊なのか疑問に思えてきた。俺は急いで風呂から上がると彼女の後を追うことにした。








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