第89話 勝利の宴

ダンジョンギルドは紋次郎、ランティーク側の勝利を宣言する。これによって今回のダンジョンウォーは紋次郎たちの勝利で幕を下ろした。


ダンジョンギルドのマスター室、そこにドムカ、エブタン、アルレルの3マスターが呼び出されていた。


「これだけの段取りをしていて負けるとはどういうことだ」

ギルドマスターのその言葉に、ドムカが言いわけをする。


「ギルドマスター、聞くところによると、紋次郎のダンジョンにはあの龍王がいたという情報もあります、いくら何でもそんな化け物がいるダンジョンなんて攻略できるわけないじゃないですか」

それに続いて、アルレルも発言する。

「そうですよ、それに何ですかあの強力な攻略部隊は、英雄級のミュラーナも含まれていたみたいですし、そんなのは聞いてないですよ」


ギルドマスターは思った。確かに、紋次郎に対して、自分も随分見くびっていたのは事実である。正直あれだけの戦力を有していたとは想像していなかった。そもそもこの三人では役不足だったのである。


「わしにも責任があるか・・・」

それがギルドマスターの出した答えであった。


ランティークの屋敷にて、盛大に勝利の宴が行われていた。もちろんそこには紋次郎たちも招待されていて、豪華な料理など振舞われていた。


「いやぁ、紋次郎くん、今回の活躍お見事であった。さすがの私も感服しました」

「いえいえ、ランティークさんがお貸しいただいた冒険者の活躍があったからこそですよ」

「やはりそうですか、私の力添えがあったからこそですかな。私もお見事だったと言わざるを得ないですなぁ、ははははっ」

「はははっ・・」


紋次郎の乾いた笑いが小さく響く。その時、無防備な紋次郎の背中に勢いよく飛びついてくる者がいた。


「わっあ! なんだよリリス、びっくりするだろう」

「紋次郎、向こうに見たことないような馳走が用意してあるぞ、早く食べないとなくなる、一緒に食べようぞ」

それを聞いたランティークが何やら高笑いをしながら、自慢を始めた。

「はははっはっ、そうだろうそうだろう、何しろ大陸でも高名な料理人を、私の人徳と少しのお金の力で集めているからね、今夜は最高の料理を作るように言いつけているので、それは素晴らしい料理を用意しているだろうに。ほら、あそこのテーブルを見てくれたまえ! なんと素晴らしい料理の数々だろうか! さすが私の集めた料理人だ」

誇らしく話すランティークに、取り巻きの男の一人が何やら耳打ちしている。

「え? 違うの? あそこのテーブルの料理は、紋次郎くんのところのソォードさんが、手伝わせてくれと言って、パパパッと作ったものが並べてあるの? え、ちょっとそんなことは早く言ってよ、私なんか自慢しちゃったよ、見てくれたまえとか言っちゃったよ、なんか恥ずかしくない? え、もう遅いって? どーすんのよ、ごまかす? そんなの無理じゃない? なんとかしろって言ってもあれだよね」

ランティークは紋次郎に向き直り、言直す。


「ごほんっ! まーどうも連絡の違いがあったようだ。あそこのテーブルの料理は、そちらの、ええと、レイピアくんだっけ、あっソォードくんか、彼が作った物らしいね、さすがに私も見込んだ男の料理人は腕も一流だね、まあ、しかし、うちの料理人の料理はさらに凄い料理だからね、あそこのテーブルの料理を見てくれたまえ! さらに豪華で美しく、なんと美味しそうなことか!」

そこへまた、取り巻きの男が何やら耳打ちする。

「え! あそこの料理もソォードくんが作ったの? そんなの早く言ってよ・・何でいつも後から言うのさぁ、え? 聞かないから? そんなのいちいち聞かないだろ。どーすんのよ、また恥かいてるよ・・だからごまかせないって・・」

ランティークは再度、紋次郎に向き直り、言直す。


「まあ、あれだ、君のところのソォードくんは相当な腕を持ってるようだね、是非うちの料理人になって欲しいものだよ、ははははっ! それじゃあ紋次郎くん! 楽しんでってくれたまえ」


そう言ってランティークは笑ながどこかへ歩いて行った。多分あれでごまかしたつもりなのだろう。


紋次郎はリリスに引っ張られ、奥のテーブルに連れて行かれる、そこには確かに息を飲むほどの豪華な料理が並べられている。すでにそこには、うちの面々が陣取り、酒と料理を楽しんでいた。

「おう、主、やっと来たか! 早く食えようめーぞ」

「紋次郎・・オレ・・お腹いっぱい食べて・・・大丈夫か・・・怒られないか・・・」

「グワドン、どんだけ食べても誰も怒らないよ」

それを聞くと、グワドンはすごく嬉しそうに料理を頬張る。


「紋次郎さん・・これを飲んでくれませんか、すごく美味しいんですよ・・ほらっ、ぐいっと」

アルティがまた怪しいカクテルを進めてくる。これを飲んだら俺は一体どうなるんだろうか・・

「こら! 無能の秘神! 紋次郎にまた変なカクテル飲まそうとして・・」

「全然変じゃないのよ、ちび妖精・・これはすごく美味しいの」

「ち・び・じゃ・ないですの! 仲間の中じゃ大きい方だって言っているですの! それに味云々言ってるわけじゃないですわ! そもそも何のお酒ですのそれ!?」

「子供は知らなくていいのよ・・お・ち・び・さん」

「ぬぬぬぬっ・・・・」

本当にアルティはお酒を飲むと人が変わるな、普段はあんなこと絶対言わないのに。


とりあえずいつものことなのでアルティとアスターシアの揉め事は放っておいて、俺も何か食べようと料理に箸を伸ばす。そこへリリスが待ってましたとばかりに俺に、あ〜ん、と口に料理を持ってくる。こういうのはどこで覚えてくるんだろうか、絶対悪魔にこんな文化ないよね。とりあえず面倒くさいのでそれをパクリと食べる。


それを見ていたデナトスが、リリスに対抗するように俺の口に食べ物を持ってくる。一方だけ食べるとまた揉めるのでそれもパクリと食べる。美味しいんだけど自分で食べさせて欲しい。


二人のこの行動を見ていたミュラーナが、その真似をして、俺の口に料理を持ってきたのだが、その量が異常に多い。これは一口で食べれないだろうに・・食べるのを少し躊躇していたら、ミュラーナはちょっと強引にそれを俺の口に押し込み始めた。

「ぐっわわわ・・ミュヴァー・・ぐっラ・・・ぐるじい・・っで」


それを見かねたリンスがミュラーナに注意する。

「ミュラーナ! そんなに押し込んだら紋次郎様が死んでしまうでしょう!」


なんとかリンスに助けられ、俺はリュヴァとメイルがほくほく顔でデザートを食べているテーブルに逃げ込んだ。

「お兄ちゃん、これ美味しいよ、食べる?」

「あ、メイルありがとう、でも今はいいよ」

リュヴァが無言で俺の膝の上に這い上がってきて、そこに座る。座るだけならいいんだけど、俺の上でケーキを食べ始め、そのクリームをボロボロとこぼすこぼす・・一瞬で俺の服はベタベタに汚されてしまった。


とりあえず、着替えと、風呂をランティークさんに借りることになった。一人案内された風呂へとやってきて、汚れた服を脱ぎ、風呂場へと入る。そこは屋敷の大きさから見ても、かなりの大浴場であった。豪華な作りであり、なんとライオンの口からお湯が出ているではないか、夢にまで見たベタベタな豪華な風呂へ入れて、少し嬉しくなる。


ゆっくり豪華な風呂に入っていた俺は、ピシャリと何かの物音に気がつき、そちらを見る。そこには、ランティークさんの秘書のルアッカさんが、全裸でひざまずいていた。あまりの驚きで心臓が止まりそうになる。


「紋次郎どの、是非背中を流さしてもらえないでしょうか」

「いや・・それはいいけどどうして全裸なの?」

「お嫌いですか?」

「いや・・好きとか嫌いじゃなくて・・・」


俺は恥ずかしさのあまり目をぎゅっとつむり、湯船に口まで浸かる。こんなところみんなに見られたらなんて言われるか・・・悪い想像は現実になるのが常である。脱衣所の方から、聞き覚えのある賑やかな声が聞こえ始めた。












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