第57話 戦いは突然に

目を覚ました紋次郎は、ダンジョンの天井を見つめていた。オーロラのようにうねりながら不思議な光を発するその天井に、幻想的な魅力を感じていた。しばらくその光景を見つめていたが、そろそろ起きようと、体を起こす。周りを見渡すと、ミュラーナが泉の水で顔を洗っているところだった。


「ミュラーナ、おはよう」

「おはよう紋次郎、よく眠れたか」

「ぐっすり眠れたよ」


リュヴァはまだ眠っているので、そっとしておく。俺は火を起こして、朝食の準備を始めた。やはり一日の最初の食事は重要である、もしかしたら激しい戦闘になるかもしれないので、栄養のあるものを作ろうと思っていた。


干し肉とチーズ、そして乾燥野菜をパンに挟んだものと、ビュラ豆と呼ばれる風味豊かな豆を、調味料で味付けして、グツグツ煮込んだスープ。それとクラック鳥の卵の燻製を添えた。栄養素とかはよくはわからないけど、何となくバランスが取れてそうに思う。昨日と同じように、炭豆茶を二杯作り、リュヴァ用に甘味玉でホットジュースを作ってあげた。


朝食もできたのでリュヴァを起こす。眠そうに目をこすりながら起き上がる。

「紋次郎〜まだ眠いよ・・」

「リュヴァ、お腹すいてないかい、ご飯ができたよ」

「・・・・お腹すいた〜」

一瞬動きの止まったリュヴァは、食べ物の匂いにも刺激されたのか、そう言って起き上がってきた。


「美味いよ、紋次郎、やっぱりお前は料理の才能があると思うんだけどな〜」

ミュラーナは俺の作ったサンドイッチを頬張りながらそう褒めてくれる。リュヴァは無言でひたすら食べている。まあ、不味いとは思っていないようだ。


食事後、しばしの休憩後に移動しようとキャンプを破棄していると、それは突然に起こった。ミュラーナがその異変に素早く気がつく。俺とリュヴァを両脇に抱えると、高くジャンプした。先ほどまで俺たちがいた場所は豪炎が広がり火の海となる。


近くの岩場に着地したミュラーナは、眉間にしわを寄せて言葉をかみしめる。

「見つけられた・・」

「どうするミュラーナ」

「ここで戦っては勝ち目はない、逃げながら敵を分散させて、各個撃破するしかないな」

「わかった、それじゃーとにかく逃げよう」


そうと決まったら行動は早かった、ミュラーナが敵の気配を察知して、逃げれそうなルートを探し出す。彼女の先導で、俺たちはそのルートを走り抜ける。


途中、何度か魔法や矢の攻撃を受けるが、うまく避けて、細い岩場の通路へと逃げ込んだ。


「三人追いかけてきている」

気配察したミュラーナはそう言った。しかし・・彼女の次の言葉に我が耳を疑う。

「やばい・・これは罠だ。おそらくこの先に敵が待ち構えている」


ミュラーナは三人と極端に少ない追手の人数に不信感を感じた。計算された包囲で、一箇所隙を作ることによって、そこに誘い出していると読んだのである。その読みは正解していた。この細い通路の先には、五人の敵が待ち構えていた。

「ならば・・」

そう言って、ミュラーナは、今、走ってきた方向へと逆走し始める。このまま進んで挟み撃ちにされるより、追手の三人をまず倒そうと考えたのだ。


ミュラーナを追っていた、三人の冒険者は、自分らが追っている対象が目の前に急に現れ混乱した。すぐに攻撃態勢に映るが、英雄級冒険者に対応するにはあまりにもそれは遅かった。ミュラーナの双剣の攻撃で、二人の冒険者のクビが飛ぶ。残った一人は、反撃を諦め、すぐに逃走しようとする。この選択は、彼らにとっては良いものではなかった。二人が殺られている間に、すぐに攻撃に移っていれば、一死報えていたかもしれないのだが、逃走することでそのチャンスも逃していた。後ろ向きで全力で逃げるその冒険者に、ミュラーナの神速の足が迫る。逃げることなどできるわけもなく、前の二人と同じように、その双剣の餌食となった。


紋次郎たちは敵の裏をかき、最初に襲撃されたオアシスに戻っていた。そこから、9階層へ上がる階段の方へ向かおうとしていたのだが、その行動も、一人の男に読まれていた。


「さすがは魔波動のミュラーナ、簡単には殺されてくれんな」

青のローブに、金のサークレット、黒い長い髪の男が立っていた。おそらくこいつがベリヒトなんだろう。紋次郎はその男を見つめる。両脇に立っている二人の男は、ミュラーナが話していた英雄級の冒険者なのだろうか、赤い重鎧に身を包んだ巨漢の男に、すらりと高い背丈に弓を持ったエルフの男がこちらを睨んで立っていた。


この三人の他に、二人の冒険者が後ろに控える。その二人だけど・・見たことがある・・特にあの片目の男には見覚えがあった。確かリンスの仇の組織の男じゃなかっただろうか。


「紋次郎・・すまない・・最悪の状況だ。なんとか私が活路を作るから、お前とリュヴァは逃げろ」

「ミュラーナを置いて逃げれないよ・・なんとか三人で生きて切り抜けよう」

そう俺が言うと、リュヴァがぎゅっと俺の腕を掴んでこう言った。

「リュヴァ、戦えるよ・・・」

「リュヴァ、ありがとう。でもそんなこと考えなくていいんだよ。お兄ちゃんが守ってあげるから」

紋次郎は自分の口からこんな言葉が出るとは思わなかった。しかし、それを実行するには、あまりにも実力が不足していた。それは本人にも十分理解していたのだが・・


そんな中、状況はさらに悪くなる。後ろから、さらに五人の冒険者が現れたのだ。


まさに絶体絶命・・・ミュラーナの額に汗が一粒滴る。俺はリュヴァを強く抱きしめて、相手の出方を待っていた。


「全員殺せ」


そのベリヒトの一言で、敵が一斉に動き出した。







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