第23話 ひとりぼっちの迷宮主

中に入った紋次郎は、戦闘の音を頼りに洞窟を進んだ。洞窟内は何かしらの光源があるようで、思ったより明るく、何とか視界を確保できていた。


少し奥に入ったところで、道が二手に分かれていた。俺は耳を澄まして音を聞く。しかしどちらからも音がしなくなっていた。


「困ったな・・どっち行ったらいいんだろう」

とりあえず少し右手の方へ進んでみようと、そちらへ足を進める。しばらく進んでも音も聞こえてこず、これは間違ったかなと引き返そうとした・・しかしその時、洞窟全体が大きく揺れる。

「うわわわっ・・・」


俺はその揺れに足を取られる、そして最悪なことに、足元には大きな亀裂が存在していた。その亀裂に足を踏み入れてしまい、ずるりとその中に滑り込むように落ちていく。うわ・・死んだ・・・完全に死んだ・・・真っ暗な闇の中、真っ逆さまに落ちていく体・・気持ちのよい浮遊感の中、俺の意識はだんだんとフェードアウトしていった。


妖精王の攻撃で、洞窟全体が大きく揺れた。信じられない攻撃に、リンス達は防御に徹しなければいけなくなった。妖精王はその隙を逃さず、小さい体の利点を利用して、狭い通路に入っていき、そのまま逃走する。


「信じられない・・妖精がアースクエイク打ってくるなんて・・」

「参ったのぉ、完全に見失ったぞ」

「リンスさん、もう一度絶対探索をお願いします」

リンスがアルティのその言葉に答えるように、呪文の詠唱に入ろうとした時に、重要な異変に気がついた。

「あっ・・・紋次郎様がいません」

「あ! そうだお兄ちゃんは?」

全員の血の気が一気に引いていく・・・

「わわわっ・・妖精探索するより、紋次郎さんを探索しないと・・」


リンスは絶対探索で周囲のヒューマンを感知する。

「嘘・・・どうして・・・」

「どうしたんじゃリンス?」

「紋次郎様が、なぜかここより地下50mほどのところににいます・・」

「何やっとるんじゃ紋次郎」

「穴にでも落ちたのかな・・・」

「嫌だ・・お兄ちゃん、助けに行かないと・・」


リンス達は、妖精の追跡を一時取りやめ、紋次郎の救出に向かった。


そこは真っ暗な世界だった。何も見えないその場所で、紋次郎は意識を回復した。かなりの高さから落ちた感じだったが、体のどこも痛くはない。地面が柔らかい砂地だったのと、想像以上に装備の性能が良かったために、紋次郎は傷一つつかなかった。


しかし、そこは暗闇の世界、どっちにいったらいいかもわからない。途方に暮れていたが、あるアイテムの存在を思い出す。紋次郎は腰につけた短剣を抜いた。閃光丸が淡い光を発し、少しの明かりを手に入れた。その小さい明かりを頼りに、洞窟を歩き進む。


しばらく進むと、道の先が少し明るくなっている。紋次郎は、その明かりに向かって行った。そこは、広い空間になっていて、壁が淡い光を発していた。

「どれくらい落ちたのかな・・・」


暗い場所に戻るのが嫌で、少し明るいその空間を中心に歩き始めた。上りの通路があればと探すが、それらしきものはなかった。しばらく歩いて疲れてきたので、その辺にあった石に座って一休みしていた。そこで紋次郎は妙な音に気がつく、プシュ・・プシュ・・

「何の音だ?」

音のする方を見やると黒い影が動いているのがうっすら見えた。やばい・・モンスターか・・しかし気がついた時には遅かった。もそもそとスローに動いていたその黒い影は、紋次郎を見つけると、いきなり動きが素早くなる。そして、ものすごい勢いで紋次郎に突っ込んできた。

「わっわっ!」

慌てて閃光丸を腰からとると、その影に向かって振り抜く。光の閃光がまっすぐその影に向かって解き放たれた。光と黒い影が接触する、火花とともに、ギギギギッ・・・とものすごい音を立てて、影の動きが一瞬止まった。そこで影の正体が見える。それは石の塊だった。


「これはストーンゴーレムってやつか?」

動きの止まっていた石の塊は、じわりじわりと動き始め、もう一度、紋次郎に攻撃を開始しようとする。ビビりまくりの紋次郎は、無我夢中で閃光丸を振りまくる。強烈な光の連続攻撃が石の塊を熱で赤く染める。しかし、そんな強烈な攻撃も、石の塊を押し返すのが精一杯だった。石のモンスターは倒れる気配すらない。やばい・・これは倒せない・・そう思った紋次郎は逃げることを考えた。


周りを見渡すと、人一人がやっと通れるような細い通路を見つけた。あそこに逃げ込めば、体の大きいこのモンスターは追ってこれないだろう。

「よし!」

閃光丸の一撃を、目くらましにして、その隙にその通路へ走り込んだ。石の塊は俺を追ってくる、寸前のところで滑り込むことに成功した。


この紋次郎の行動は正解であった。このストーンゴーレムのレベルは68、装備チートしてると言ってもレベル1の冒険者が倒せる相手ではなかった。


紋次郎は逃げ込んだ細い通路を進んで行く。もうここを進むしか選択肢がないのだが、この通路、どんどん下っていってるように感じる。幸いこの通路の壁も少し光を発しているので視界は辛うじて確保されていた。


しばらくその通路を進んで行くと、進行方向から、ドーン、ドーンと言う大きな重い音が聞こえてきた。恐る恐る近づき、音の正体を確かめた。それはさっきのストーンゴーレムよりも一回り大きな、キラキラした宝石の塊のモンスターだった。その宝石の塊が、壁に向かってパンチを繰り出している。

「何やってんだアイツ・・」

その宝石の塊の不審な行動だが、よく見たらその疑問が解消された。紋次郎のいる細い通路と同じような、細い溝のような場所が、その壁にあり、どうやらそこにいる何かに向かって攻撃をしているようだ。さらによく見ると、その溝にいる者が何者かわかった。金色に輝くその光には覚えがある。


「あの妖精か・・・」

紋次郎はこの時、自分の力量のことは全く忘れ、あの妖精を助けようと考えてしまう。通路から出た紋次郎は、宝石の塊の後ろに回り、閃光丸を振りかざした。光の閃光は、宝石の塊を直撃する、しかし、そんな攻撃の通用する相手ではないようで、効いているようには見えない。


攻撃を受けた宝石の塊は、ゆっくり後ろを向いて、その攻撃者を睨みつけた。目が合った紋次郎は思わず恐怖で固まってしまう。


「あんた! 何してんの! 早く逃げなさいよ!」

その声に我に返った紋次郎は、寸前のところで、転がるようにパンチを避ける。そのまま、次の攻撃の態勢に入った宝石の塊の脇を抜けて、妖精のいる、壁の溝に逃げ込んだ。


「ばっかじゃないのあんた! 弱いのに私を助けようとしたんですの?」

妖精は強い口調で、そう言ってきた。

「はっ・・はっ・・自分が弱いのを忘れてたよ・・」

その言葉に、口をぽかんと開けて、妖精は心底呆れた顔になった。

「てか、あんた妖精の言葉を話せるのね」

「あっ、そうなんだ。俺の唯一のスキルなんだよ」

「唯一ってあんた・・そんなのでよくレベル80超えの宝石魔神に殴りかかったわね。逆に尊敬するわ」

そう言うと、なぜか妖精は笑い出した。

「どうしたの?」

「いや・・呆れるの通り越して、面白くなってきた・・受けるわ」

それを聞いた紋次郎もつられて笑う。レベル1の冒険者が、レベル80超えのモンスターに攻撃するなんて、確かにこれはもう喜劇である。


「それよりあんた、私に喧嘩売ってきた奴らの仲間よね? あれはどういうつもりよ!」

「あ・・ごめん、あれは誤解なんだよ。君を狂変化した妖精と勘違いしてたんだ」


それを聞いた妖精は顔色が変わる。

「そうか・・理解したわ。私もその狂変化した妖精に用があってここにいるのよ」

「え、そうなの?」

「そう。私は彼女を殺しに来たの」


そう言った妖精の表情は、深い悲しみを滲み出していた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る