第7話 黄昏の剣士
アルマームの街の南、そこにはあらゆる食材が集まる大きな市場があった。周辺の村や町から毎日多くの食材が運び込まれ、いつも賑わいを見せていた。
「これは何?」
紋次郎が手にしていたのは真っ赤な四角い実であった。原色の赤色に近い鮮やかすぎる色合いに、少しざらついた質感、触ると思ったより硬いのがわかる。
「それはオズの実です。煮て食べると美味しいですよ」
「これは?」
「それはアルバータと呼ばれる湖に住む魚の燻製です。クセがなく、さっぱりとした味わいですがバターでソテーすると美味しい魚ですね」
「へーそうなんだ。リンスさん食材に詳しいですね」
「いえ。一般的な知識くらいしかありませんよ。主様は他の世界からいらっしゃったので見るものすべて珍しいかもしれませんが、私には生まれた時から馴染みのある物ばかりですから」
「そうだよね・・俺が知らなすぎなんだよな・・・」
「まーこれから覚えていけばいいことですよ」
そう言ってリンスさんは優しく微笑みかけてくれる。
「お兄ちゃ〜ん!これ買って!」
メイルの持ってきたのは黄色い粒がいっぱい付いているブドウのような見た目の果実だった。それを見てデナトスが笑いながらメイルに忠告する。
「メイル。そんなのばっかり食べてたら太っちゃうわよ」
「いいもん。少しくらい太っても・・・」
後から聞くと、それはレレノという名の果実で、大変甘くて美味しい実だけど、レレノ太りという言葉があるくらいに栄養価が高く太りやすいそうだ。まーでも値段も安いので一つ買ってあげた。
「なんだ・・・これは?てか食べれるの?」
今日ここで紋次郎が見るものはどれも珍しく、知らない物ばかりだけど、辛うじて食材としては認識できる物ばかりだった。しかし今、目の前にある不思議な物体は、食材であることすら怪しい。鉄のような光沢の黒光りした丸い塊。質感のそれはまさにボーリングの玉のようだった。
「これは私も知りませんね・・・」
リンスさんにもわからない食材・・逆に気になる。そこへ後ろから知らない声で話しかけてきた。
「それはバンバルの卵だよ」
紋次郎たち一同は声をかけられた後方を振り返る。そこに立っていたのは煌びやかな白いライトアーマーに身を包んだ一人の剣士だった。紋次郎と年も背丈も似た感じのヒューマンだったが、明らかな違いが一つあった。それは彼がかなりの美形だったことである。
「美しいご婦人たち。ご機嫌麗しいく。私は旅の剣士でソォード・ルーティン。お見知り置きを」
どうやらこの剣士には、男である俺の姿は見えないようで、女性陣のみに挨拶をしている。挨拶の後はお願いをしてもいないのに、バンバルの卵とやらの説明を続ける。
「バンバルは大陸中央にある、ルカ湖に浮かぶアジョル島にしか生息しない希少な生物で、その卵は殻が固く調理は難しいが、適切に処理をして料理すると想像を絶するほど美味との話です」
「詳しいですね。でも調理が難しそうなので俺たちには不釣り合いな食材みたいです」
「ほほう。君は何かね。私にこの卵の調理をお願いしたいと、そう言いたいのかね」
「いえ。全くそんなことは一言も言ってないです」
「宜しい!いいでしょう。天才剣士にて、天才料理人であるこの私に任せなさい。必ずご婦人たちがお気に召す料理を提供いたしましょう」
「いえ。ですから頼んでないです」
「いいでしょう!本来なら高額の報酬を請求するところですが・・今回は無料でその依頼受けましょう!」
「いえ。ですから無料でも頼む気はありませんので」
「失礼だぞ君は!!」
ソォードはいきなり顔に青筋を立てて怒り始めた。そして付けていた手袋を脱いで俺に投げつける。
「決闘だ!!そのご婦人たちを賭けて私と勝負しろ!」
「断る!」
身も蓋もない俺の一言にフリーズするソォードくん。そんな勝負も依頼も受ける気がないのでとりあえず無視しようと考えた。
地面に手をついて絶望に打ちしがれる彼は少しの間を置いて、すごい勢いで泣き出した。
「うぇ〜ん。ヒック・・ヒック・・・け・・決闘なんて・・普通・・受けるよね・・・うぇ・・なんで断るんだよ・・」
その情けない剣士の姿を見た女性陣から、なぜか非難される。あ〜あ〜とか、可哀想とか勝手なことを言われる。
「あ〜わかったよ。その決闘受けるよ。でも条件があるぞ。勝負内容は俺に決めさせてくれ」
「何!剣で勝負ではないのか?」
決闘を受けると聞くと急激な勢いで復活したソォードはそう聞き返してくる。
「あなた剣士だろ?俺はただの迷宮主だぞ。勝負になるわけないだろう」
「ほほう。君は迷宮主なのか。まーいいだろう、その条件受けようじゃないか。それで決闘方法は何だ?」
俺は簡単なゲームの説明を始めた。それは○と×を9マスのマスに埋めていき、三つ揃った方が勝ちという単純なゲームである。
「ほほう。わかった。簡単だな。もう私の勝ちは見えた。勝負内容を確認するぞ。私が勝ったらそのご婦人たちは私の物だ好きにさせてもらうぞ」
「好きにって何するんだ?」
「し・・下着を・・・見せてもらうんだ・・」
その発言に女性陣が本気で引いていく・・・こいつ・・こんな見た目でかなりゲスいな・・
「主様・・・絶対勝ってくださいよ・・私・・嫌です」
「別に下着くらい見せてもいいけど・・なんかキモいのでヤダ」
「お兄ちゃ〜ん。メイルは倫理的に絶対ダメだよ」
あんなこと言われれば嫌であろう不安であろう・・だけど安心してくれ。この三並べ、実は必勝法が存在する。ので絶対負けないのだ。
「あんたが勝ったらはわかったけど俺が勝ったらどーするんだ?」
俺はそう言って地面にマス目を書いた。
「はっはっは。そんな馬鹿なことは無いだろうが・・もし私が負けたら君の手下になろう!」
「契約の神エイルよ。汝の見届けにより、この契約に血の誓いと拘束を授け賜え・・」
俺がそう言うと手に持った白い紙が光り始めた。前の主の真似をしてみたのだが本当に効果があるようだ。
「はい。署名して」
そう言うとソォードはかなり狼狽えた。
「まさか・・エイルの契約までするとは・・ぬぬぬ・・・」
しぶしぶ名を言って誓いをするソォードくん。
「さぁ〜勝負だ!」
・・・・・・・盤上、俺のダブルリーチ状態で、ソォードは完全に動きが固まる。
「ぬぬぬ・・・ま・・負けました」
ちょっと卑怯な感じだが仕方ない。まーともあれ、なぜか変な剣士が俺の手下になってしまった。
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