勇者召喚物語!……の裏側

さきくさゆり

1:危ねえ国名だな!

 ん……ん?

 揺れて……揺れてる?


「地震か?!」

「キャッ!」


 キャッ?

 慌てて立ち上がった俺は声のした方を見ると、同じクラスの女生徒が尻餅をついていた。


「三之宮さん、何してるんですか?」

「い、いえ……あの、よく寝てらえてたのですが、もう放課後なので起こして差し上げようかと……」

「あーさっきの揺れは三之宮さんでしたか」

「そうです。三之宮さんです」


 立ち上がった三之宮さんは、ショートカットにした髪の毛を軽く整えた後、腰に手を当て、胸を張った。


「あれ?いつもの彼氏君達は?」

「彼氏じゃないわよ。ただの幼馴染。まあ私としては、ご飯を奢ってくれるから、便利な・・・幼馴染って感じだけど」


 こわっ。


「それで?起こしたってことは何か用事かい?」

「だから、放課後だから起こして上げたのよ。特に意味はないわ」

「そりゃどうも。でも彼氏君達があちらで俺を睨んでいるんで、もう帰っていいかな?」


 俺が教室の入り口を見ながら言うと、三之宮さんは小さい舌打ちをした後に、入り口の方に笑顔で手を振った。


 彼氏君達は嬉しそうに、それでいて俺を軽く睨みながら入ってくる。

 俺はその横を通り過ぎて教室を出ようとしたその時、


「うわっ!」

「なんだこれ!」

「へ?!」

「キャッ!」

「うおっ!」


 後ろから叫び声がした。

 パッと振り向くと、三之宮さん達が、なんか幾何学模様の光る円陣の中に入っていた。

 これは……あれか?

 召喚的なやつか?

 すげえーマジであるんだな。


 俺はなんとなく近づいて光を観察してみる。


 円陣の中にいる三之宮さんたち五人は何か叫んでいるが、どうも中の声はこっちに漏れてこないようだ。

 しかも、円陣から登る光が壁みたいになってるらしく、中から何度も手を叩きつけてるのが見える。

 勿論音は聞こえない。


 うーん、めっさ必死。


 こいつら普段の態度がムカつくから見てて愉快愉快。


 お、さらに光が強まった。

 そろそろ行くのかな。

 折角だし写真撮っとこっと。


 あと消える瞬間を動画に……。


 丁度その時、三之宮さんと目があった。

 悲しそうな目で俺を見ているが、なぜか笑っていた。


 笑顔のまま、口が動く。


 俺は思わず、光の中に右手を突っ込んで、三之宮さんの腕を掴んでいた。

 そのまま引っ張る。

 三之宮さんは光の中からなんの抵抗もなく出てきた。

 そのまま二人で後ろに倒れ込む。


 光は三之宮さんが出てきた瞬間、さらに強く輝き、目を開けられなくなった。


 そして目を開ければ…………四人の女性がこっちを見て佇んでいた。


「え、なにこの状況」



 *****



 目の前の金髪、銀髪、茶髪、赤髪の女性がキョロキョロしている。

 そして四人は集まってなにやらボソボソ話始めながら、俺達の方をチラチラ見てきた。


「えーと……どうする?」

「さぁ……」

「とりあえず話してみる?」

「日本語通じるかしら」


 四人とも欧米系の顔で、四人とも髪色に合わせたドレスを着ていた。

 ってそれは置いといて……。


「とりあえず三之宮さん、離れてもらえる?」

「え、嫌よ。こんなラッキーチャンス、滅多にないもの」

「は?」

「うーん、いい匂い……」


 三之宮さん?


「とりあえず立ちたいんだわ」

「……しょうがないわね」


 三之宮さんが離れて立ち上がってくれたので、俺も立ち上がる。

 何故か三之宮さんは俺を抱き込んできた。

 丁度俺の頭が三之宮さんの胸に当たる……ってそれはいいや。


「あー……そのー……こんにちは?ハロー?グーテンターク?ボナセーラ?ボンジュール?」

「意外とバイリンガル?」


 俺は三之宮さんを無視して四人に話しかける。


「あのー……こ、こんにち……は」


 金髪の女性が恐る恐るといった風に返事をしてきた。


「おお、日本語。あれか、召喚オプション的なやつ」

「何言ってるの?」


 無視無視。

 頭に当たる感触も無視無視。


「君たちって、その……異世界召喚なんてこと……したかい?」

「し、しました……けど……。あ、あの!あなた……は……」

「それで君たちは、その召喚の術者、とか?」

「いえ、私達は……その……」


 んー術者じゃないとなるとー……


「あ、生贄か」


 そう言うと四人はビクッと体を振るわせた。

 当たりっぽいな。


「とりあえず自己紹介。俺は中村飛鳥。名字は中村、名前は飛鳥だ。歳は16。そちらは?」

「私は三之宮薫。名字は三之宮、名前は薫。歳は16よ」


 隣で何故か三之宮さんも自己紹介していた。


「私は、シーラ・カニバリム。性はカニバリム、名はシーラ。歳は18。カニバリ厶王国の第六王女です」


 危ねえ国名だな!

 シーラと名乗ったのは、金色の髪を後ろで結わえているのに腰まで伸びている女性。

 コルセットの影響もあるんだろうけど、見事なくびれの中々の豊満な胸。

 そういえば三之宮さんの胸もかなりあるよなってそれはいいんだよ!


「私は、テレジア・ハートマン。性はハートマン、名はテレジア。歳は17。カニバリム王国の公爵家の三女です」


 口が悪そうですね!

 テレジアは茶色の髪を肩口で切り揃えているいる女性。

 こちらもシーラさんに負けず劣らず大きなお胸様です。

 ……三之宮さん、なんでさらに強く抱き締めるんですか?


「わだすは、クラースィヴィー・ディリヴィエンシナ。性はディリヴィエンシナ、名はクラースィヴィー。歳は14。カニバリム王国の辺境伯家の五女だす」


 訛ってるわぁ……。

 わだすて。

 王国なんておうごぐ言っちゃってるよ。

 クラーしび……言いにくい!クラちゃんでいいや!

 クラちゃんは赤色の髪を無理矢理頭の上で結わえてるんだが、どうも髪が長いからなのか、摩天楼!みたいな塔が出来上がってた。

 クラちゃんの体型は見事に真っ平らだ。

 三之宮さん、俺の頭の匂いを嗅がないでくれ。


「わ、わたしは……ミリで…す。へ、平民なんで、性は……無いです……。歳は……15…です。」


 か細い声で必死に自己紹介してくれたのは、銀色のストレートヘアーを何もせずに背中に伸ばしたままの女の子。

 無くはないけど……他の二人に比べるとなぁ。


「ねぇねぇ、これってどういうこと?」

「あー三之宮さん。とりあえずそろそろ離してくれないかな」


 しょうがないわねと言いながら離してくれた。


「んでどういうことかというとだ。多分、向こうで行われた異世界召喚ってのは、なんかしらの条件で選ばれた生贄の人数分、他の世界から人を召喚するってことだろう。そして生贄になった人は死ぬんじゃなくて、他の世界の人間と入れ替わるんだと思う」

「つまり?」

「……つまりって今言ったこと聞いてた?だからあいつらとシーラさんたちが、入れ替わったってことだよ」

「いい声ね」

「…………さ、えーと四人とも今の話聞いてたかな?」


 三之宮さんは無視しよう。


「聞いてました。つまり私たちは死んだわけではなく、召喚した方々がいた世界に来てしまったということですね?」

「そういうことです。加えて言うなら、この世界では異世界召喚なんてのは物語の中の産物なので、君達は恐らく元の世界には帰れません」


 そう言うと、ミリちゃんとクラちゃんが泣き出してしまった。


「あー泣ーかしたー泣ーかしたー」


 そりゃ泣くわな。


「がえらなぐでいいんだすか!もうあの家にいなぐでぞれでいぎでで!うわあああああん!!」

「クラさん!やったよ!わたしたちあそこからにげられたんですね!」


 んん?


「ねぇ、なんか喜んでない?」

「みたいね」


 テレジアさんやシーラさんも目尻に涙を浮かべながら微笑んでるし。


「ねえ、飛鳥くん」

「なんだい?というか今まで一度も名前で俺を呼んだことないよね?」

「彼女達、これからどうするのかしら」

「さぁー……。というか彼氏君達はいいの?」

「だから彼氏じゃないってば。あと心底どうでもいいわ」


 心底か。

 そんなにか。

 ふははははザマァねぇな!俺を男子総動員でハブった罰じゃ!

 せいぜい異世界でこき使われてゴミの様に捨てられてしまえ!

 三之宮さん、顔をフニフニするな。


「あの子達、ほっといたらヤバイよなぁ……」


 とか二人で言い合っていると、シーラさんが近づいてきて、頭を下げた。


「お願いします!中村様!私達にこの世界で生きる為の知恵をお貸しください!対価は……その……お望みとあらば私の……か、か、から、身体で!」

「わあー!シーラ様!いけません!そ、それなら私が!シーラ様の代わりに、このテレジアが!これでも夜伽の心得は本などの知識でそれなりにありますから!」


 え?夜伽?マジ?俺の童貞は異世界の王女様か偉い貴族の娘様が貰ってくれるの?

 痛い痛い痛い痛い三之宮さん踏んでる踏んでる。


「いや、夜伽はその……痛いわかったよ!夜伽はいいよ。後、ここでずっと話すわけにもいかないから……俺の家に行こう」

「わああい!飛鳥くんの家!」


 何故か三之宮さんが嬉しそうに抱きついてきて柔らかなお胸様が俺の後頭部を包み込んで気持ちよすぎるオッパイ……えーい、やめろー!


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