第54話 夏休みⅦ

 秋月と冬川が階段のむこうへと見えなくなってから、冬川に話しかけていた生徒に声を掛けた。

「冬川と同じ部活に入っている古川と言います。冬川とはどういった関係なんですか」

 突然話しかけられたことにびっくりしたのか、あたふたしながらも答えてくれる。

「え、はい。申し遅れました。私は高坂と言います。冬川さんとは中学の同級生でした」

 同級生か――中学は京都女子だったのか、冬川。あの丁寧な話し方はお嬢様学校に通っていたからか。いや、この高坂も京都女子のメンバーと話すときは、俺たちと同じような言葉遣いだったし。……冬川独特の話し方って感じなのかな。

 何はともあれ、そんなことはどうでもいい。問題は――

「中学のとき、何かあったの」

 どうして冬川が彼女たちとの接触を避けているのかだ。本人は気分が悪いと言っているが――実際に気分が悪くなっているのかもしれないが――どうみても彼女たち京都女子の生徒と触れ合うのを拒んでいる。何よりここに来るまでの冬川との会話からも、何かが彼女たちの間であったことは明らかだろう。

「それが、よくわからないの」

 高坂は辛くて困ったような顔を浮かべた。

「いつ頃だったか、急に凛、よそよそしくなっちゃって。それまでは互いに名前で呼び合うような仲だったし、ましてさっきみたいに敬語で話したりなんてなかったのに」

 少し間をおいてから、高坂は話を続ける。

「そのまま凛は別の高校に行っちゃうし……古川くんたちは何高校?」

「緑坂高校に通ってる。兵庫県の」

「……そう。私たち、凛がどこの高校に行ったのかも今まで知らなかったの。調べようとはしたんだけどね」

 どこか自虐的にも聞こえるその言葉に、俺はどう言葉を返したものか、とっさに思いつかなかった。

「ごめん、古川くんにそんなこと言っちゃって」

 胸の前で手を合わせて謝る高坂。

「いや、俺が始めた話だし」

 相手を申し訳ない気持ちにさせてしまったことに、心が苦しくなる。話を変えようと別の話題を振ってみる。

「そういえば、どうして高坂さんたちはボランティアに参加したの?」

 彼女は、え、そんなこと、とでも言いたげな表情を一瞬浮かべたが、微笑んで答えてくれた。

「ボランティア部だからね、私たちは」

 そうか、だったら参加して当然ともいえるな。

「あななたちも、ボランティア部なんでしょ?」

 ……何と答えたものか。とりあえずありのままを伝えることにした。

「相談部、だね」

 相談部、何それ、という高坂の疑問はもっともなもので、俺自身もいまだよくわかっていない相談部について、この後説明することになったのは当然の流れともいえるだろう。

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