【Live Log:プレオープン】
「少々、繰り返しすぎている気もしますが……」
ぽつり、と。
新装開店を間近に控えた、まだ客の居ない静かな店内に、一人の男の声が響いた。
声の主は、男性型のアンドロイド。金属の肌とモノアイを隠そうともせず、首元に下げた古めかしいループタイの紐を左手の指に巻き付けながら、彼は手元の文書に視線を落とす。一つ一つ番号を与えられ、丁寧にファイリングされたそれらは、今にも破れ尽きそうな紙の状態と相俟って、紙面の向こうの惨劇を透かし見せるようだ。
【Log 00001】――彼がそう番号を振り、保管する文書類の総数は、把握する限り一万七千以上。それだけの悲劇が繰り返されたことを、そしてそれが終わったことを。彼は知っている。
「私が動いている内に歴史が変わったことを、幸いとすべきでしょうか」
つい昨日拾い上げた文書に目を落とし、再び独りごちた。
直後。
「おーいマスター! このあたし様が来てやったぞ! さあ開けろー!」
ドンドンと、荒々しく店の扉が叩かれる。
その激しさ、扉どころか窓も揺れるほどの乱暴さには、確かな覚えがあった。同時に、店の前に出した看板が「OPEN」だろうと「CLOSE」だろうとお構いなしの奔放さも、よく知っている。故にこそ、彼――マスターは素早く思考を切り替え、分厚いファイルを閉じて、それを小脇に抱えたまま席を立った。
早く出なければ、扉を叩き壊されかねない。早足に近づき、掛けていた鍵を外す。
マスターが扉を開けるのもそこそこに、快活そうな少女の顔が、にゅっと隙間から飛び出してきた。額から二本角を生やした少女は、やや狼狽気味のマスターを認めてにっかりと歯を見せ、勢いよく扉を壁に叩き付ける。
「久しぶり、マスター。今日から店開けるって聞いたから、皆連れてきたぞ!」
「――ええ。お久しぶりです、槐さん。皆様もどうぞ、お好きな席へお座り下さい」
明日の夜から開店だった、などと、野暮なことは内に秘め。
“一等素晴らしい宴”に心躍らせる者達を、彼はただ丁寧に迎え入れる。
「ようこそ、BAR『ポストの墓場』へ。ご注文を御伺い致します」
BAR『ポストの墓場』。
此処は、叶わぬ想いの集う場所。
此処は、叶った願いの眠る場所。
〔備蓄していた酒類・酒肴の八十パーセントが消費されました。 :マスター〕
〔酒瓶重かった。腰が死んだ。 :ヒナタ〕
〔貴方に買い付けを頼むべきでないことが分かっただけで収穫です。:マスター〕
→Which the log will you choose?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます