ノリツッコミ刑事

 早朝、雑居ビルの踊り場で死体が発見された。

「──被害者は、推定30代女性。腹部に刺し傷。死因は、出血多量と見られています。ちなみに、この女性は僕の彼女です」

「えっ? そーなの? いやぁ、凄い美人さんだねぇ。服のセンスも良いし、スタイルもボンキュッボンだし、静かでお淑やかな大和撫子……って死んじゃってるからですけど! そんでもって、キミ、年下にしか興味無いって言ってるよねいつも、ウソでしょそれ!」「ご名答。さすが先輩」

「いやぁ、それほどでも……って何様!? もういいから、ちゃんと現場検証しよう。手袋ある?」

「あっ、はい、どうぞ」

「うん、これこれ。ではこれより、腹腔鏡手術を行う。患者の体力を考慮し、なるべく迅速かつ丁寧に作業を進めて行こう。じゃあメス……っておい! これ、手術とか司法解剖するときに使うピタピタのやつ! スーツ着た刑事がこんなの着けてたら違和感凄いでしょーが!」

「ご名答。さすが先輩」

「いやぁ、それほどでも……って、ひょっとして舐めてない? 先輩のこと、舐めきっちゃってない?」

「とんでもないです。とりあえず、これでも吸って落ち着いてください」

「お、おう。じゃあまずコレを推定30台女性腹部の刺し傷口に差し込んで~、蛇腹の部分を折り曲げて~、チューと思いきり血を吸い上げて~……って、これストロー! 吸って落ち着くって言ったらタバコでしょうが! 何が悲しくて仏さんの血を吸わなきゃならんのかって、わしゃ吸血鬼かっちゅーの! お前の生き血も吸ったろか!」

「ははは、僕の血はしょっぱいですよ?」

「あら、そうなの? 最近高血圧が酷くて医者から塩分控えろって言われてるぐらいだからやめておこうかしら……っておい! 殺す気か! ……いやいやいや、もう何かツッコむポイントもおかしくなってきてるじゃないか。まあいいや、仕事仕事。こうしてる間にも、犯人は遠くに逃げてる可能性があるんだから。なあ、いま何時だ?」

「火事です」

「なんだって!? そりゃ大変だ! 火元はどこだ、消化器消化器、あと消防車消防車、番号は110だっけ? いやそりゃウチの番号だった、119だ119……っておい! からかうのもいい加減に──」

「あっ、ちょっと待って下さい、本部から連絡です。……はい……あ、そうです。いま現場です……えっ? 犯人が捕まった? はい、仏さんの元交際相手の男……ストーカー行為を繰り返していて……はい……職業は消防士……わかりました。すぐ戻ります……ですって、先輩」

「あ、うん、や、やっぱりね、消防士が怪しいと思ったんだよね。まっ、事件解決して良かった良かった。こりゃ今日は早く上がれそうだな。どうだ、一杯やるか?」

「いいですね。僕はやっぱり大きめが好きですね」

「おお、そうか。俺ぐらいの歳になると大きさよりも形にこだわるように……って、それ違うパイ!」

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