歴史に残る殺人事件

 すでに多くの警察官でごった返す一軒家の前に、さらにもう一台パトカーが到着した。

 バタンッ。

 黒いスーツを着た男がパトカーを降り、玄関の方へと向かった。

「あっ、警部補、お待ちしてました!」

「ああ、キミか。急いで呼ばれたから何も聞いてないんだ。状況説明頼む」

「はい! まず、こちらへ……」

 顔見知りの刑事に促され、警部補は玄関から中に入った。

「この玄関で、30代の男性が何者かに刃物で刺されて死んでました」

「ほう、犯人の目星はついているのか?」

「いえ、まだ何も。では、次の現場へ」

「次……?」

「はい、といってもすぐそこの廊下です。この場所で、20代の女性が鈍器で殴られて死んでました」

「被害者は複数いるのか……このヤマは骨が折れるぞ」

「ですね。じゃあ、次の現場へ」

「えっ……?」

「はい。そこを右に入った部屋が浴室になってまして。そこで溺死体が発見されてます」

「なに!? この家の中だけで3人も死んでるのか?」

「いや、まだいます」

「…………!?」

「次はリビング、リビングに参ります」

「いやいや、電車のアナウンスじゃあるまいし! 不謹慎だよキミ。それより、まさか4人とは……」

 警部補はとんでもない事件のスケールを予感しながら、刑事の後を付いていく。

「はい、着きました。このリビングで、3人の男女が首を吊って死んでました」

「な、な、なんだって!? 4人じゃなくて6人だと!? いや、3人同時首つりってだけでも相当レアケースだぞ」

「驚くのはまだ早いです。そこに見えてるキッチンの中では、年老いた男女がお互いの胸に包丁を刺して死んでました」

「心中か……って、ついに8人!? どーなってんだこの家!?」

「あと、いま警部補が手をついてるダイニングテーブルの下に、3人の死体が隠されてました」

「うわっ、こわっ、それ先に言っといて! ……って、また増えた! 3人も! ついに合計11人なんですけど!!」

「まだまだ居ますよ~」

「えっ、マジ? なにこの家、呪われてるの? 呪怨的なやつか? 最近そんなDVD観たばかりだけに背筋のほうがヤバいんだけど背筋のほうが」

「やめて下さい。犠牲者の方たちに悪いですよ」

「あっ、それはすまん……って、キミもキミで『居ますよ~』とか軽い感じだったろがい」

「だって本当に居るんですもん」

「わかったわかった。で、次はどこなんだ?」

「天井裏です。バラバラにされた5人分の遺体の一部が、ゴミ袋に入れられた状態で置いてありました。そうですね、ちょうどいま警部補が立ってるあたりの天井裏です」

「ひぃ! なんだこの事件!?」

「落ち着いてください。まだまだ続くんで」

「まだまだて……」

「さっき通り過ぎちゃいましたけど、トイレの中には焼死体、キッチンとは逆側にある寝室には青酸カリで殺されたと思われる若い男女の死体、2階に行くための階段には全身の骨が折られた女性の死体が入れられたスーツケースが置かれていて、2階に上がって最初の部屋は密室になっていて、その中には自殺と思しき死体がありましたが鑑識の結果すぐに他殺だと判明しました。その次の部屋の中は異常なまでに冷たく、床には凍死した5人の死体。その次の部屋には26人が殺されていて……」

「26人!? その前の部屋も5人だし、めちゃくちゃ加速してるんですけど! ってか、なに。動揺しすぎて途中から計算してなかったけど、なんだかんだ50人ぐらい死んでないここ!? もうこれ、オレの出番じゃないでしょ? 伝説の刑事とかホームズ級の名探偵が解決するやつでしょこれ!? だってオレなんてあれだよ。事件を解決して出世したわけじゃないからね。上司にごますったり飲みニケーション頑張ってここまでのし上がってきたタイプの警部補だからね言っとくけど。あからさまな殺人事件とかほとんど担当したこと無いんだから。大体がちょっと小突いたら勢い余って地面に頭叩きつけて死んじゃったとかもう事故死と殺人の境界線曖昧系の事件ばっかりやってきたんだから。複数殺したなんてのも経験無いのに、いきなり50人って。日本の犯罪史上でも類をみないやつでしょこれ。いや、世界的に見てもかなりのもんだよ、間違い無く歴史に残るねこりゃ。そこだけは凄い自信あるわ。ってかもう映画化間違い無いっしょ。邦画はもちろん、ハリウッドも動くだろうね。オレの役はモーガン・フリーマンだろうね。ああ、そう考えたらグッとやる気が出てきたぞ。ちなみにさ、オレがもしこの事件を華麗に解決して映像化された場合、版権料的なやつはもらえたりするのかな?」

「さぁどうでしょう。それより、まだ死体はあるんですけど」

「……ほえ? まだあるの?」

「はい。庭の方に、138の死体が……」

「無理。帰る」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る