第8章 帷面権現
第8章 帷面権現 (1)
安易に声を出すな、という叱責が
「この拈華微笑も、
なるほど、と礼韻は合点がいった。何故自分がこんな超常的なことをできるようになったのか、不思議でならなかった。修行を積んだ
「ところがな、礼韻、この術も、持って生まれた力量が関わってくる。どんなに修行を積もうとも、だめな人間は会得できない。私は、これは信用できると見た人間に、心の中で呼び掛けた。しかし誰一人、それに返答してきた者はいなかった。唯一返してきたのは、礼韻、お前だけだ」
またも礼韻は声をあげそうになった。しかし今回はかろうじて呑み込んだ。
「よく抑えたな。そうだ、我々は心の中で会話をするのだ。このような内容は、誰にも聞かせてはならない」
「はい」
「礼韻、お前は話さずとも意思を交わせた。お前もまた、特殊能力を備えた人間なのだ。これが決め手となって、私は帷面の里にお前を連れていこうと思い、ここまで来たのだ」
礼韻は思わず窓に視線を向けた。つまりはここが、帷面の地ということなのだ。
「私はもう、歩けない。ここからは一人で行かなくてはならない」
「一人で、ですか?」
「そうだ。本音を言えば、私はまだ迷っている。危険が常に隣り合わせとなる。若いお前が、乗り切れるかどうか。本当はあと数年、私が時を渡った齢まで待ちたかった。その間に私が鍛え、伝授できるものは伝授したかった。しかし私は、もう長くない。時間がないのだ」
願坐韻が、礼韻に初めて見せた。それは落涙だった。
礼韻は驚いた。あの、大岩のような意志を持つ祖父、願坐韻が、頬に涙を伝わせているのだ。
礼韻は願坐韻の無念を知った。しかし、行くとは言えなかった。いっときの感情で決められるものではなかったからだ。
「しばらく、考える時間をください」
礼韻は返答し、目を瞑り、腕組みをした。
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