第247話 青のブロストⅣ
アバドンは身体を低く構え、両脚を畳んだ。
アレは、恐らく脚に力を溜めている態勢――
私が地面に爪をたて咄嗟に防御態勢を取った瞬間、『ガチッ』と言う音と同時に地面にヒビが入ったと思った瞬間、私の角にアバドンの飛び蹴りが直撃した!
「ぐ……うあああああああああっ!?」
「ヤタイズナっ!?」
蹴りの衝撃に耐えられず私の身体は吹き飛び、そのまま壁を破壊して外に投げ出されてしまう。
落下する私は翅を広げ、宙に留まる。
「な、なんて威力だ……!」
私が態勢を整えていると、壁に空いた穴からアバドンが飛び出し、私に向かって接近する!
「殿ぉ! 拙者達も加勢して……」
「ジィィィィィィッ!」
ガタクがヤタイズナの元へ向かおうとしたその時、ガタクの背後からオ・ケラが右前脚を振るう!
「ぬぅぅっ!」
ガタクは左の大顎でオ・ケラの攻撃を受け流した。
「ジィィィィッッ!!」
だがオ・ケラは身体を一回転させ、左前脚を光らせガタクを攻撃する!
「何っ!? ぐおおおおおおおおっ!?」
オ・ケラの爆発の爪を受けたガタクは吹き飛ばされ、壁に激突した!
(師匠!? 大丈夫ですか?)
「心配無用、軽傷で御座る……それよりも……」
「ギチィィィィィ……」
「シャアアアアアッ……」
オ・ケラだけでなく、ウィドーとレインボーも眼を赤く光らせガタク達を睨んでいる。
それどころか、至る所からキラーマンティス、ブラッドローカスト、ウォーターホース、ビッグゲジ・ゲジとゲジ・ゲジ、イエローファットテールスコルピオン、オニグモと……無数の魔物達が現れた。
「奴と殿の一騎打ちの邪魔はさせぬと言う事で御座るか……皆の者、気合を入れるで御座るよ!」
(承知しました!)
(みんなぶっとばしてやるー!)
(やるしかないみたいっすね……)
(絶対に負けませんよー!)
(俺、全員皆殺し、言う)
(この両脚の鎌でぶった斬ってやるぜぇ!)
(まとめて美味しく食べてやりますわ)
(ですね、肉団子にして食べてやりましょう)
(援護は任せてください、傷ついたら直ぐに治しますからね)
「……ギ、チチチ……」
『『ギチチチィィィィ!!』』
「ゴールデン、お前は魔王様達と共に居ろ」
「言われんでも一緒に居っとくわ、自分は戦闘では基本役には立たんからなぁ魔王様、バノンはん、向こうに避難や」
「うむ」
「ああ、分かったぜ」
「いざ、参るで御座る!!」
「ジィィィィィィィィィッッ!!」
ガタク達とオ・ケラ達の戦闘が始まると同時にバノンは魔植王の入っている植木鉢を抱え、ミミズさん、魔鳥王、ゴールデンと共に勇者達を避難させている場所へと移動する。
「……」
『……何かを案じているようですね、魔鳥王』
「ええ……感じるのです、あの時見た光景がもう直ぐ起きようとしているのかもしれません……」
「何じゃと!? あの儂がこの国を火の海にする未来がか!」
「その通りです……ですが、一体何がきっかけになるかまでは……」
「ええいお主がそんな弱気になってどうするんじゃ! それに絶対に起こるわけではないのじゃろう? ならば問題は無い! そんなモノが起こる前に、ヤタイズナがアバドンを倒してこの国を救うに決まっておる!」
「魔王様の言う通りや! 末っ子を信じましょうや!」
「……そうですね、今は信じましょう、新たな魔蟲王を……」
「――《炎の角》、《斬撃》、《操炎》!」
炎の分裂斬撃を撃ち放ち、アバドン目掛けて一斉に飛ばす。
「なんとも遅い攻撃だなぁっ!」
アバドンは空中で両脚を畳み、音が鳴ると同時に空中で加速、炎の斬撃を回避した。
まさか、空気を『蹴って』いるのか!?
「ならばこれでどうだ! 《斬撃》《斬撃》《斬撃》《斬撃》、《操炎》ッ!!」
私は連続で斬撃を放ち、数十個の分裂斬撃でアバドンを攻撃する!
「数を増やしたところで無駄、無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」
再び両脚を畳み、今度は連続して音を鳴らしながら、アバドンは空中でジグザグに動き総ての斬撃を回避して私に接近、そのまま空中踵落としを私に繰り出した!
「ぐぅぅぅぅぅぅぅ……なめるなぁっ!!」
踵落としを炎の角で受けた私は気合でアバドンを弾き返す!
アバドンは翅を広げ空中に留まり、私と一定の距離を保っている。
……両脚を交互に、そして連続で空気を蹴る事であんな出鱈目(でたらめ)な軌道を可能にしているのか……!
だが、さっき弾き飛ばせたと言う事は、力なら私が上と言う事だ。
何とかして奴の隙を突き、装甲が薄い関節部を狙い斬り落とす、それが今できる最善手だ。
私がそう考える中、アバドンは思案する私を見て一笑した。
「必死に考えているようですが……どんな策を講じようが総て無意味なんですよぉ!」
アバドンの胸に埋め込まれた魔封石が光り始め、それと同時にアバドンの右第一腕が蠢き、変形し始めた!
「我が力の一端、その身をもって味わうが良い!」
アバドンが右第一腕を振るった瞬間、私の前胸部に激痛が走った。
「痛ぅっ!?」
何だ!? 一体何をされたんだ!?
激痛が走った部分を見ると、前胸部の一部が抉り飛び小さな穴が空いていた。
痛みはあったが、傷口は極小で戦闘に支障は出ないだろう。
だが、どうやって私の甲殻を抉り取ったんだ? 私はアバドンの変形した腕を見る。
右第一腕は肘から先が7メートル以上はある細長い糸状に変形していた。
あの腕で私の甲殻を抉ったと言うのか? 一体どんな仕掛けが……
「それそれそれぇっ!!」
アバドンが変形した腕を振るって私を攻撃する!
「《炎の角・鎧》!」
私は炎の角・鎧で全身を覆う。
「策は無意味と言ったはずですよぉ!」
アバドンが腕を操ると同時に私の翅に極少の穴が空いた!
「ぐぅ!?」
炎の角・鎧が覆うのは身体の外骨格のみ、炎に覆われていない翅を的確に……!
「ふふふふ……どうした? その程度ですかぁ!?」
アバドンは腕を高速に動かし、私の翅に無数の穴を空ける!
くそっ、このままでは飛行に支障が……! 何とかして奴の攻撃の正体を確かめなければ……
私はアバドンに背を向け、後方へ飛ぶ。
「逃がしはしない!」
アバドンが空を蹴り飛んで私を追いかけてくる。
……よし、あれだ!
私は、城の城壁の側面に留まり、翅を畳んでアバドンを待ち構える。
「壁に脚をつければ翅を畳められて私の攻撃を防げると思ったんですか? ……狙う場所などいくらでもあるんですよぉ!」
来るっ!
私は壁を動き回ってアバドンの攻撃を回避、私の居た場所には無数の穴が空く!
奴が狙うのは恐らく私の眼か腹部の気門……その二つだけは炎で覆うことは出来ないからな……攻撃される場所が分かればある程度は予測は出来るからな……それよりも。
私は壁に出来た穴を観察する。
この穴に何かヒントが……!
私は極少の穴がある形をしている事に気が付いた。
これは……螺旋? つまり奴は何かドリルのようなモノで付けられたと言う事……奴の腕は糸状になっている、そんなものがあるとしたら先端だけ……!
まさか……私の脳裏にある昆虫が浮かび上る。
それと同時にアバドンが腕をしならせて私を攻撃しようとする。
目を凝らせ……見極めるんだ。
狙う場所は分かっている……攻撃時に糸状の腕が私に迫る一瞬が勝負!
――ヒュンッ!
今だ!
「《斬撃》!」
私の斬撃がアバドンの腕を切断! そして切断した糸状の腕を前脚で取り、先端を確認する。
先端には小さい金属の刃先が付いていた。
「やはり……イチジクコバチの産卵管か!」
イチジクコバチとは膜翅目イチジクコバチ科の総称で、体長2mmほどしかない小さな蜂だ。
その名の通り植物のイチジクと関係が深く、イチジクはこのイチジクコバチによってのみ受粉することが出来る。
その中の寄生性のイチジクコバチのメスは細長い産卵管を使いまだ熟していない硬いイチジクの表面に穴を空けて卵を産卵する。
だがどうやって硬い皮を空けるのか、その秘密は産卵管の先端にある。
なんと産卵管の先端には亜鉛が付いたドリルの刃先のような付属器官があるのだ。
糸のように細くしなやかな産卵管と金属のドリル。
イチジクコバチはこの二つを巧みに使う穴あけのスペシャリストなのだ。
この糸状の腕を高速回転させる事で私の甲殻をも穿(うが)つ威力を発揮していたわけだ……
私がそう考えていると、アバドンが余裕そうに右第二腕と左第二腕で拍手をした。
「いやぁお見事、良く私の攻撃を見切りましたねぇ……ですが面白いですねぇ貴方の世界の虫は、私でも見た事が無い種が沢山いる」
「っ!? どうしてお前が私の世界の虫の事を!?」
私が転生者である事は分かっても、元の世界の情報は手に入らないはず……
「いえいえ、お姫様の書物に興味深いモノがありましてねぇ、つい読みふけってしまったんですよぉ」
「オリーブの書物……まさか、『世界の昆虫図鑑』!?」
それは以前、オリーブが私に見せてくれた何故かこの世界にある私の元世界の本の事だ。
「ええ、その書物の知識と、私の力を合わせれば、肉体の一部をその虫の構造に変形させることは容易……」
そう言うとアバドンは切断された腕の先端を再生させ、更に他の腕も様々な形に変形し始めた!
「ふふふふふ……魔蟲王ヤタイズナ、貴方が愛する虫達の力で苦しむが良い!!」
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