お題箱小説。

愛知川香良洲/えちから

小説

お題:高飛車な中古販売店の店員

「あのー、買取をお願いしたいのですが……」

「はいはい、今行きますー」

 駅前に店舗を構えるとある古本屋。今日もお客がやってきて、読み終わった本を持ってくる。

「ほうほう、だいぶ持ってきましたねぇ」

「妻が断捨離にハマってしまって、あまり本ばかり持っていると変な目で見られるんですよ」

「断捨離、なぜかブームですからねぇ」

 お客が持ってきたのは、持ち手つきの大きな紙袋が四つほど。見た感じ、百冊はくだらない。

「それではお預かりしますので、査定終了まで店内でお待ちくださいー」

 十分後。

「お客様の持ってきた本、全部で百十八冊ありましたが、こんな感じでどうでしょう」

 そういって店員は、見積書を渡す。それを確認して、お客は驚いた。

「……これだけ、ですか?」

「はい。──不満ですか?」

 見積書には、合計二十五円の文字。

「だって、百冊以上あったでしょう!」

「言わなきゃわかりませんか? ほとんど、値段がつかないものばかりなんですよ」

 内訳は、五円の買取価格がついたものが五冊。それ以外はすべて、ゼロ円での引き取りである。

「『おじゃ松くん』とか、全三十四巻が揃っているのに──」

「発行からだいぶ経っていますからね、うちではなんの価値もありません」

「そんな、オークションではプレミアもついたりするんですよ? 最近もアニメ化なんかで注目が集まっていて──」

「だから、そんなに気になるなら自分でオークションサイトに出せばよかったんじゃないですか? 黄ばみもありますし、うちでは値段がつかないです。ただで引き取るだけ、ありがたいと思いませんか?」

 お客は別の本を指差す。

「じゃあ『スウェーデンの森』、これはなんでゼロ円なんだ? ナツキの代表作とも言える人気作品、ここにも棚に並んで売られていたぞ?」

「人気作品ってことは、それだけ市場に出回ってるんです、うちもだいぶダブってて困ってるくらいなんですよ」

「そんなこと言って、引き取るとか言って結局は売るんだろ? わかってるんだ!」

「うちも慈善屋じゃないもんでね、売れるものは売るに決まってるわ。──さあ、金受け取って帰りやがれ!」

 店員はレジから十円玉二枚と五円玉一枚を取り出し、お客に投げつけるように渡す。

「では、お金を受け取ったなら、お帰りくださいませ」

「は? 『おじゃ松さん』は持って帰って──」

「持って帰ったって、すぐに捨てられるのがオチですよ? なら次の読者に渡しましょう?」

 ついには店員はお客を突き飛ばし、ピシャッとドアを閉めた。


   * * *


「……しかし店長、あそこまでやってよかったんですか?」

 バックヤードで、先ほどの店員が店長に聞く。この店員の態度、実は店長の指示だったのだ。

「いいさ、あらかじめ奥さんから電話を受けていたからね。──しかし、この『おじゃ松さん』は確かにもったいないな」

「しかしうちのマニュアル的には……」

「いや、最近は店としてオークションに出せるからな。──ボーナス、期待しておけよ?」

「はい!」

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