One write One life

夢渡

第1話.彼にとっての一時間

 はろーへろーぐーてんもるげん?

 まぁ挨拶なんてのはなんだって構わない。礼儀作法の一つでもあるのだが、これから話しかけますよっていう合図でも、とりあえずなんか声掛けしとこうって意味もあるのだから。


 さて今回は一時間で、出来るだけ持ち前の知識を使ってのタイピングとなるのだが、作者はこの手のチャレンジがとても苦手だ。もとより人よりのらりくらりなのに、そのうえ時間があればあるだけ浪費する性格なのだから、当然ともいえる。

 そんな私が何故こんな事をと思う人もいるかもしれないが、一つはメリハリが欲しかった為。もう一つは筆休めも込めて。そして最後の一つは――

「後48分だ」

 後ろに控える所属不明の男が現れたからだ。


 何時もの様に支度して、仕事前の風呂から上がると、数年苦楽を共にしたマイルームには、奇妙な男がベッドの上に腰を下ろして俯いていた。

「お前に人生最後の一時間をやる。好きなことをして余生を過ごせ」

 それだけ言うと男は右手にもった銃を此方へ一度向けて、また俯いて押し黙る。確かに仕事までまだ一時間程の猶予はあるが、突然現れた男に余命一時間を告げられて、好きに過ごせと言われても、何も思いつかないのが常である。

 本来ならば、生きおおせる為に交渉や脱出などを考えるのが当たり前なのだろうが、残念ながらこのマンションに相手を欺く程のスペースは無く。男から感じる威圧感は、そうそう逃してくれる可能性を感じない。

 なので、折角だから男をタイマー替わりとして、普段やらない事にチャレンジしてみた次第――という設定。


 うんまぁそう言う事です読者諸君。この限られた時間で幾つかの制限を設けて文字を書き連ねる行為なんてのは、私の場合。実生活にアクセントを加えて書くのが一番無難であり限界な訳ですよ。

「後35分」

 無慈悲に脳内男が呟いてくる。どうせなら可愛い女子か麗しい女性にでも設定して、一時間後に無限快楽を味わえる設定にでもしておけばよかったなどと今更ながらに後悔するよ。

 しかし、前置きで随分とられてしまった。とはいえ書く事なんて特にない。

 ここまでの文章を見て頂いた読者の方なら気付いているかもしれないが、普段なにも準備せず。出来るだけ持ち得る知識だけで文章を書こうとすると、私の場合こんな陳腐な内容しか描けない。

 持ち前のリソースは限りなく零に近く。今まで書いた作品の殆どは、書いている時間よりも調べたり考えたりする時間の方が倍以上に長いのだ……まぁそれでもあの程度しか書けないが。


 ならばなぜ物書きの真似事なんてやっているのかというと、楽しさ半分・実益半分と言ったところだろうか。

 インドア派で低収入。趣味に近いものはゲームと言えるが、実際のオタクには到底及ばない私が、唯一人並みに出来る事・好きな事は、脳内での妄想。

 色んな設定を考えて、色んな世界観を考えて、自分の好みなヒーロー・ヒロインを自分の望んだ形で歩かせる。

 誰しもがやる事だし、クリエイター各位様なら出来て当然。形にして当然の事だろうが、私は私なりにこれが好きでそれなりに出来る事だと自負している――主にエロ方面で――死にたい。


 だが残念ながら絵心は無く。頭の中で描いたそれをアウトプットする方法が無い。練習を積めばある程度には絵として形に出せるのだろうが、そこまでの根気も時間も無く。貧乏暇なしを体現する私には、誰しもが持つ文字を書く行為で自分のリビドーをぶちまける他無かったのだ。


「おっさん後何分?」

「後18分だ――それとおっさんじゃない」

 もう時間もあまりない。脳内会議をそのへんに、締めに入らなければ……

 まぁそう言う事で私はこれからも書いていく。絵が描けない云々に関しては、言い訳以外のなにものでも無いのだが、それでも今持っているものでやってみるというのも悪くはない選択だとは私は思う。


 文字にしろ絵にしろ曲にしろ声にしろ。どれだけ原始的で陳腐であっても、人は何かしらの表現方法は持っているのだ。だから形にして作品となり、続ける生き様は技術となって後世に残る。

 逆に私の様に専門技術を一切学ばず手を出してみるのも悪くない。自分ルールで何かを作り。調べた結果間違いだったり、過去の偉人が既に発見していたって構わない。公の場で、お金や名誉欲しさでそれを行うとバッシングを受けたり罪となるかもしれないが、そうでないのならやる事に善悪は無く。始める事に罪は無い。

 ――とはいえ、他者への影響は考えなければならないけどね。


「さて――時間だ」

 そろそろ終わりか。一時間とは本当に短い。

 もしこれが好評で、次にこんな機会があるのなら、自前の小説論なんかも書いてみるのも悪くない。

 こんな私が論などとは片腹痛いかもしれないが、何かを書いて残せる。気軽に公の場に公開出来るというのは、ある種の自浄効果があるドラッグに近い物なのかもしれない。


 甲高い音が鳴り響き、体に衝撃が走る。

 自分の体が奇妙に重く、顔の分からない男が私を見下ろしている。

 あぁ、仕事に行かないといけないのに――

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