第三の捕手
ナックル嬢こと、希崎 舞はエンペラーズの一員となった。
背番号は小倉がつけていた18を用意した。
だが、1つの問題に直面する。
それは希崎のナックルを取れる捕手がいない。
ガンズの捕手も、希崎のナックルを捕球出来るのに、かなりの時間を費やした。
エンペラーズには木下 室田という二人の捕手がいる。
どちらも一軍で必要な戦力だ、試合に出て、その後ナックルを捕球する練習時間があまりない。
そこでヤマオカは希崎をすぐに一軍には上げずに、ファームでナックルを取れる捕手を探していた。
そこで白羽の矢がたったのは、去年のドラフト2位でエンペラーズに入団した一条 尚樹(いちじょう なおき)19才。
高校時代は夏の甲子園ナンバーワンの捕手として注目を集めた。
一軍に上がるのには、インサイドワークやキャッチングといった課題はあるものの、将来の日本球界を代表する捕手として期待度はかなり高い。
一条は二軍球場で希崎ナックルを取る特訓を連日のように行っていた。
だが、そう簡単にはナックルは取れるような球ではない。
ましてや、去年まで高校生だった一条には酷な課題だ。
ソフトボール用の大きなキャッチャーミットに変えても取るのは困難だ。
ナックルは投げた本人でさえ、どこへ行くのか解らない、文字通り魔球なのである。
無回転で放たれたボールは空気抵抗を受けて、揺れながら落ちる。
一見するとフワフワとしたスローボールだが、バッターの手元でストーンと落ちたり、曲がったりする。
打つ方も難しいが、取る方も難しい、厄介な球だ。
だが、決して取れない球じゃない。
希崎のナックルは100㎞にも満たないスローボールだ。
とにかく球をよく見て、ナックルに慣れるしかない。
希崎も長い間二軍に置いておくワケにはいかない。
最初はキャッチング出来ず、身体でボールを止めようとしていた一条だが、3日も経つと、5球に1球の割合で捕球できるようになった。
さすが将来の日本球界を代表する捕手と言われるだけあって、センスが抜群だ。
そして1週間後には、ほとんどのナックルを取れるようになった。
ヤマオカは二軍で一条の様子を聞いて、一軍の昇格を決めた。
希崎と共に一軍に昇格した一条は、希崎専用捕手として、希崎が投げるイニングにマスクを被る事となる。
ナックルを取る以外にも、まだまだ課題はあるが、一軍に上げて経験を積んでもらおうという首脳陣の考えでもある。
希崎、一条と入れ代わりにファームに落ちたのは、ルーキーの山下が来季から外野手にコンバートする為にファームで外野の守備を徹底的に練習するためで、成績不振が理由ではない。
山下はレフトの松浦と共に、将来のエンペラーズの中軸を担う左右の主砲として期待は大きい。
そして、時を同じくして、千葉ヤンキースも球界を代表するホームランバッターを獲得しようと、塗呂オーナーがある画策をしていた。
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