Mammy The Diamond
負け犬アベンジャー
プロローグ
「ハチミツ? 大瓶で? それもなんでこんな値段? 高くない?」
「なんだねぇちゃん。そんな大層な剣持って、ダイヤ目当てじゃねぇのかい?」
「ダイヤ?」
「おうよ。ここらじゃ伝説の存在『マミー・ザ・ダイヤモンド』とそいつが持ってくるダイヤ、合わせてこの時期を『ダイヤモンドの季節』って知らないってか?」
「知らない。教えて」
「おっしゃじゃあ一つ語ろうじゃないか」
「わーーー」
「始まりは昔々、遡ること四百年前になる。当時から伝統と格式が高かった世界最大の宝石市『オール・ジュエリー・オークション』が隣町で開かれてた」
「それ知ってる。わたしもそこの帰りなんだ」
「そうかい。売り手かい? 買い手かい?」
「ううん。就職活動。ここらなら腕っ節とか高く買ってくれるんでしょ?」
「そりゃ……そうかい。それで、その宝石市にフラリと一体のマミー、いわゆるミイラが現れた」
「ミイラ?」
「アンデットの一種だよ。人の骸に包帯を巻きつけて干したやつを魔力で動かすんだ。当時は規制が緩いらしくてな、アンデットも今よりもっと多かったらしい。何せ給料いらない、命令通り働く、宝石持ち逃げしない、理想の奴隷だ。だから珍しくもなかったんだが、そいつはここに一人できたって話だ」
「……一人じゃおかしいの?」
「おかしいさ。何せアンデットってぇのは、材料が人でも結局は魔力で動いてる人形にすぎん。今のゴーレムでさえ、事前に与えられた命令通りにしか動かんのに四百年前だぜ? そいつが、声こそ出せないまでも一人で現れ、筆談で商談とくりゃ、ただ事じゃねぇ。しかもそいつは沢山のダイヤと他の宝石とを交換していったんだから、大騒ぎさぁ」
「……普通じゃないの?」
「あぁいや、これは言い方が悪かったな。そのミイラは最低でも親指の先ぐらいあるダイヤモンド手提げ鞄いっぱいに運び込んで、その他の高価な宝石を取っちゃりと買い取って行ったんだ」
「えーっと?」
「わけわかんねぇだろ? ダイヤって言やぁ、色やら純度やら魔力やらでも上下するが、小指の爪サイズもありゃ、凡人なら一生遊んで暮らせる。それが親指とくりゃ、想像つかねぇ」
「でも代わりの他の宝石ってのも高いんでしょ?」
「そりゃあな。だけどもロマンはその後だ。大量のダイヤに見知らぬミイラ、衆人監視の中、買い物後、そいつが向かったのは、なんと近所の酒場だ」
「ミイラもお酒呑むの?」
「いやぁ。そいつが呑んだのは酒じゃない。そいつは瓶詰めのハチミツを親指サイズのダイヤで買ってったのさ」
「……そんなに沢山のハチミツを何に?」
「いやいやいや、量は普通、ガラスの瓶に入ったやつ一つだけなんだよ。あそこに乗ってる大瓶のとほぼ同じのを一瓶と、その親指ダイヤ一つ、おつりは無し、だったそうだ」
「なにそれ凄い損じゃん」
「ミイラにはな。だけども酒場は大儲けだ。そいつを元手にどこかで造船業始めたって話だが、話はそれだけで終わりじゃあない。そのミイラは十年後、再びダイヤと共に現れた。そして十年前と同じく宝石とハチミツを沢山のダイヤと交換して消えてった。それがずっと十年おきに、ちょうどこの初夏の季節に繰り返されてる。そして今年がその十年目なわけだ」
「あ! あっあ! だから、こんなの売ってるんだぁ」
「そーいうわけだ。一獲千金の夢を運ぶミイラ、人呼んで『マミー・ザ・ダイヤモンド』てな。そいつ狙いのハチミツなんだが、まぁそっちより観光客狙った手堅いお土産ってわけさ。ねぇちゃんも一つどうだい?」
「ううん。いらない。それでそのミイラさん、じゃあここにいたら会える?」
「さぁ、店開いといてなんだが、ここらはミイラの通り道とはちと離れててな。ホープも同じ店に二度三度訪れたこともあるし、初めての店でもそこの近場らしいしから、まぁ難しいんじゃねえかな」
「そっか。わかったありがとう」
「そうがっかりしなさんな。現れたらどこの店でも大騒ぎだ。そしたらこっちから観に行けばいい。だろ?」
「そだね。うん。そうする!」
「よっしゃ、じゃあその前に腹ごしらえだな。食事なら裏がメニューだ。決まったら呼んでくれ」
「あ! あっあ! 待って! わたしこれ! ホットケーキ! ハチミツかけたやつ! あとお紅茶のセットで!」
「あいよ。じゃあすぐに、あ、いらっしゃーーい。えーっと、悪りぃがねぇちゃん、相席いいかな? 向こうも一人みたいなんだけどよ」
「いーーよーー」
「ありがとな。その分たっぷりハチミツでサービスするよ。お客さーん! 相席で良ければこちらへどーぞ!」
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