バカップルのやりとり

ゆうけん

彼と彼女はお互い好きでしょうがない 第一話「キセイチュウ」

 目白めじろ 真紀絵まきえ


 彼女の恋人は大学に行くために今年の春から上京していた。


 高校の同級生で高三からお付き合いをしている。彼が遠くの大学へ行ってしまうと知った時は不安な日々が続いた。しかし、それは杞憂となる。上京してから日課になったのがLINEでの通話だ。毎晩、彼と通話する事が彼女の不安を解消させた。


 時には数時間、時には数分であるが大切なひと時であった。


 だが、すべての不安が取り除けたわけではない。


 例えば、彼の大学寮に住むルームメイトだ。彼と同じく遠くから出てきている。一度、三人で通話したのだが、いい加減な奴でテキトーが座右の銘と言っていた。


 それは大学生活、初めての夏休みが始まった時の出来事だった。いつものように通話を開始する。


天野あまの 然一ぜんいち


 彼氏の名前が表示されたスマートフォンの画面をタッチ。

 呼び出し音。そして、愛しい恋人の声が聞こえた。


「やぁ。真紀絵。今日はいつもより早いね」

「えへへ。今日から然一の大学、夏休みだから。時間あるかなって」

「なるほどね。時間なら、いっぱいあるぞ!」

「やった。私は昨日から夏休みだから、今日は夜更かしできるね」


 何気ない会話だった。

 彼氏が問題の発言をするまでは……



「実はさ。俺のルームメイトなんだけど……帰省中なんだ……」

 然一は落ち着いた声で言う。

「え? 寄生虫だったの?」

 真紀絵は酷く驚いた声を出した。


「うん。だから……」

「大丈夫? 然一は家事洗濯なんでも出来ちゃうから任されちゃったの?」


「え? 任されたも何も。家事洗濯ぐらいは当然やらないと」

「何言ってるのッ? そんなの不公平だよ! 然一は優しすぎるんだよ!」


「え? 優しすぎる?」

「そうだよ! 然一は私だけに優しくしてくれていいんだよ!」


「あ、ありがとう。俺にとってのオンリーワンは真紀絵だけだ!」

「よーし! こうなったら然一のアパートに明日行くから! 寄生虫なんでしょ? なんでもしてあげるよ! 私は手段を選ばない方なんだから!」


「え? 何それ怖い! いや、来てくれるのは嬉しいけど……」

「怖がっても、しょうがないよ! やれる時にしっかりやらないと!」


「う、うん。……真紀絵って結構、積極的だったんだね」

「そうだよ! 彼氏のピンチには頑張れちゃうんだぞ!」


「え? ピンチだったの?」

「え? ピンチじゃないの?」


―――


 真紀絵が然一のアパートを訪れる事により誤解は解消する。


 彼女はLINE通話の数々の発言を思い返し、恥ずかしさのあまり白目を剝く。

 そう彼女の名は目白真紀絵。


 それに対して天野然一は、天から授かった前向きな性格を発揮し、当然と愛を奏でるのであった。


 擦れ違っても二人は今日も幸せ。



                              END

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