第六話

「最後の審判」JUDGEMENT

Planet Blue geographia

Aprikosen Hamlet

―『少女達の戦争』外伝「アンズと呼ばれた村」―


「前回のアプリコーゼン!」


 﨔木夜慧(長門守)が籠城する廃墟、通称「 」への突入を決行した同盟軍。しかし、中に居たのは心神喪失の﨔木長門だけで、人質にされていたはずの(大允)・(大宰少弐)らは忽然と姿を消してしまっていた。一方、別行動していた(蘭木 訓)とは、生物兵器「食人種」を繰り出す謎の敵軍に勝利するべく、伊豆半島へと向かっていた…。


「これさ、俺の出番が完っ全にフェードアウトするシナリオだよな…」


  第六話「最後の審判JUDGEMENT


「…やはり、は本当だったのですね…」


「姉さん! 呑川で誰かのが発見されました!」


「す…水死体?」


「あ、まだ生きているようです」


「誰だ?」



「…御容態は如何ですか、顕ちゃん?」


「はぁ…お蔭様で、どうにか」


「あの『』で何があったのか、覚えていますか?」


「﨔木長州にレールガンを撃たれたが、絶縁防弾を一応装備していたから、見ての通り、致命傷は免れた。ただ、衝撃波で頭を打ってしまい、意識が朦朧になって、その後は…うっ!」


「あ、無理に話さなくても大丈夫です。お姉ちゃんの精神感応telepathyで、致しますので」


 アプリコーゼン室内に居た十三宮顕(寿能城代)は、﨔木長門の無差別砲撃で気絶し掛けていたが、その際に、長門の悲鳴らしき声が聞こえた。意識が少し戻ると、室内には自分と長門しか残っておらず、不審に思った寿能城代は、外の様子を見に行った。そこで、に背後から襲撃され、呑川に突き落とされたのである。ならば、その「犯人」は…。


「状況から考えて、私と﨔木長州を襲った者は、同一人物である可能性が高い」


「ですが、そのように考えますと…」


 犯人は、アプリコーゼンの周辺、あるいは内部に居た可能性が考えられる。その場合、﨔木長門が言っていたように、一同の中に「」が潜んでいた…という話も、現実味を帯びてくる。ヒトとしての知性を維持したまま、食人種に変異してしまった「」が、本当に居たのかも知れない。


「いずれにせよ、今は行方不明の三人を見付けなければ」


「ええ…既に、手配は済ませております」


「…失礼する、面倒な事になった」


 義勇軍の用心棒を務める入谷いりや枯桐ことうが、慌ただしくやって来た。冷静沈着な入谷が慌ただしく見える時とは、本当に慌ただしい事態なのだろう。


「入谷様、どうしました?」


「新羅隆潮が、生田・斎宮・美保関らを指名手配せんと策している。彼らを、裏切り者ではないかと疑っているようだ」


「何だと? 被害者であるはずの彼らをスパイ扱いとは、奴も遂に痴呆か…入谷様、式部様を暗殺して下さい! 我々に対する、数々の無礼な仕打ち…最早、レッドラインですっ!」


「…不可能ではないが、本当にそれで良いのか?」


「顕ちゃん、落ち着いて下さい! 心を憎しみに染めてはいけませんよ…もう少し、平和的な選択を考えるべきです」


「あぁ…済まない、取り乱してしまった」


「殺さずとも、方法はある。例えば…」



 以前から、寿能城代らアプリコーゼン関係者に不信感を抱いていた新羅隆潮(文部)は、この戦乱を奇貨として、彼らを排除しようと考えていた。しかし、大森蒲田統合軍管区の最高指導者である池上いけがみ町奉行まちぶぎょう秀忠ひでただとの作戦会議に際して、事態は急転する。


「…何? 恋生れんしょう教徒どもが、妾に対して謀叛むほん…だと!」


「新羅ちゃんが愛生あいせい教団を迫害した事に、怒っているみたいだよ。でも、このタイミングで反乱って事は、きっと裏で操っている人が…」


「さては、寿能城代の仕業じゃの? やはり、あ奴も恋生の一味じゃったのか。もう少し早く、潰しておくべきじゃった…して、賊徒の総勢は?」


「公然化しているのは数百人程度だけど、隠れ信者も加勢したら、十万人以上に達するって報告もあるよ」


「じゅ…十万じゃと? ただでさえ戦時中だと云うのに、青少年を不健全な宗教にするなど、断じて許せぬ! じゃが…妾の軍勢は今、生田・斎宮・美保関らの追跡に向かっておる。併せて、寿能城代も片付けなくては…」


「その件は、後回しで良いんじゃない? あの子達が敵国に内応しているって話は、まだ充分な証拠が揃ってないし。それよりも今は、暴動対策を優先しよう」


「…そうじゃの。なれば早速、恋生軍との合戦を始めねばならぬ。我ら第四中隊の主導により、大森に、東京に、果ては天下に…をもたらすのじゃ!」


 (恋生教)とは、メシア暦2010年以降に急速な勢いで信者数を増やし、一躍有名になりつつある新興宗教である。女神Museを信仰するなど、ギリシャ・ローマ神話の影響を受けた宗教だと考えられるが、その実体については未だ不明な部分も多い。愛生教徒の特徴として、「信仰告白のためにして行動する」という点が挙げられる。取り分け、女神を崇拝する儀礼において「」と呼ばれる光線剣を振り回すなど、その「好戦的」な側面が警戒されている。一説によれば、や美保関少弐・寿能城代なども愛生教徒ではないかと言われており、新羅文部が大森義勇軍アプリコーゼン中隊を執拗に敵視して来たのも、それが一つの理由である。



 塔樹無敎と本行寺道理は、津島長政(三河守)と共に伊豆箱根を突破し、駿河湾沼津への進軍を開始した。


「ミリオン シスターズ、全軍着陣完了。内浦クレーターに侵攻し、淡島の敵軍を迎撃致します!」


「交戦を許可する、敵陣を業火に没せしめよ」


「ならば俺は、に近寄る奴らを片付ける。見渡す限り、東西も南北も敵だらけ…絶景だな」



「あぁっ! またランサーⅣが殺られた、この人で無し!」


「やっぱり、空戦に槍騎兵は向いてなかったのよ…」


 この戦争の発端であり、電磁パルスと「人狼ウイルス」をバラ撒き、天下を混沌に陥れた弾頭は、三鷹天文台から発射された事が明らかになった。「」と呼ばれるこの兵器は、対小惑星隕石砲の技術を天文台に軍事転用した物であり、水素爆弾や生物兵器を搭載できるだけでなく、遥か上空の宇宙に残る小惑星の破片を、人為的に落下させる事すらも可能である…と分析されている。禅定門念々佳は、全ての元凶を撃ち抜くために、戦友の(神奈川)・(俄勝大姉)らと共に、再び空戦へと向かう。


「三鷹天文台を制圧し、Nyarlathotepの神話に…終止符を打つ! Roselia各機、状況は?」


「ロゼリアⅠ 禅定門念々佳、愛生!」


「ロゼリアⅡ 雅楽莓、かしこまです!」


「ロゼリアⅢ 黒沢蓬艾、準備良し!」


「攻撃準備完了。敵軍は、対小惑星隕石砲を撃って来るわよ。高度に気を付けて!」


「全機に告ぐ! 任務を完遂し、必ず生還せよ! それ以外は許可しない! Roselia中隊、Deusと共にあれ!」


「「「かしこまっ!!!」」」



「…そうか、始まったか」


「早く終わると良いね、この惨劇…」


「私の同志である愛生教の信徒達が、新羅隆潮に対して騒擾そうじょうを起こしている。この間隙に、美保関少弐らが脱出できれば良いのだが…」


「友達同士が、お互いを『魔女だ』『狼男だ』と疑って、殺し合うなんて…酷過ぎるよ!」


「食人種のうち、いわゆる『劣性感染者』の存否に関しては、まだ科学的結論が出ていないからな…」


「夜慧ちゃん達が言っていた『人狼』って、本当に居るのかな?」


「今はまだ分からない。ただ…は、案外すぐ近くに存在するのかも知れないよ?」


 そう言いながら寿能城代は、愛生教徒の聖典である『』を開いたが、十三宮とさみやめぐみはその内容に、不穏な違和感を覚えた。それから暫くした後、寿能城代は世を去った。あの年の冬、この国を襲った戦争を、私達は…決して、忘れはしない…!



「僕達にできる事は、限られている。でも…!」


「終わらせねえよ、ここでは…俺は、生きる!」


「翼なんて飾り? 偉い人には、分からないわよ!」


の覚醒は近い…さあ、ゲームを始めよう」


 、出撃! 諸君らの幸運を祈る…。

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