第6話 変質の魔人

 城の西側の塔が突然大爆発を起こして、跡形も無く崩れ去った。そんな報告を聞いて、ロディーは、その現場に駆けつけた。ロディーが駆けつけた時には、あのエイダが閉じ込められて居た部屋ごと塔が跡形も無く崩れて居た。ロディーは、直ぐに城内に居る兵士達をかき集め、周辺で倒れている兵士達の救出にあたらせた。意識が戻った兵士の数名にロディーは、塔が崩れ去った時の状況を聞いて回ったが、部屋の中に居たはずのエイダ達の行方が解からなかった。

「ロイ! ここは、もう良い。あの娘を早急に探し出せ」

後ろからやって来た皇帝ラーの言葉にロイは、振り向きすぐさまひざまずいた。

「お言葉ですが、陛下。瓦礫の下に閉じ込められているかもしれません」

「気配を探ったのだ。それは、無いと我が保証しよう。突然、塔が崩れるなど。あの娘の仕業としか考えられぬ。この城から、逃げ出したのだよ」

皇帝ラーは、その事がとても悔しい様子だった。ロディーは、顔を上げ立ち上がる。

「陛下、直ちに兵を集め捜索にあたります。城から逃げ出したならば、まだ近くに潜んでいるかもしれません」

「そうだ。良く探せよ。あれが結界から飛び出したのだ。残された時間は、限られている」

「ハッ!」

ロディーは、そう活きよい良く返事をすると、すぐに兵をかき集めて、エイダの捜索の準備を始めるのだった。



 バルド帝国城から、一直線に城下町を突き抜けて町の外へと続いているメインストリートの中心を懸命に走り続けている2人と二匹の子猫の姿があった。彼らの望む事は、一刻もはやく城から遠くへ進む事。疲れた身体を鞭打ちながら、ただ進む事だけを望んで居た。だが、彼らの体力も無限にあるわけでは無く、丁度城下町を抜けた門の前で力尽きてしまった。

「もう、駄目……走れない」

「少し、休もう」

ラファエルのそんな言葉も力なく、皆も激しい呼吸を繰り返すだけで返事すらもできない様子だった。地面に大の字で倒れ込んで、ラファエルは、激しい呼吸を繰り返す。その隣でエイダもクリスも疲れた様子でうな垂れて居た。あの塔の結界を破壊の後、勢い良く飛び出して来たが、そろそろ城の兵が準備を終えて、自分達の捜索に力を入れ始める時期だと、ラファエルは、それほど長く休憩できないと逸る。

ふと、皆の様子を見渡したラファエルだったが、一人……エイダの様子が少しおかしい事に気が付いた。先ほどから、荒い呼吸を繰り返し、呼吸が落ち着く気配が見られない。

「オイ! 大丈夫か?」

ラファエルは、心配になって声を掛けてみた。だが、そんなラファエルの言葉は、エイダには、届かなかった。エイダ自身も自分の身体に何か起こっているのか解からずに混乱して居たのだ。胸の鼓動が速くなり、脂汗が額に滲んでくる。自身の魔力が極端に増大しているようにエイダは、感じていた。


 冷静にエイダの様子を眺めて居た静寂なる暴風は、ボツリと呟いた。

「これは、少し拙いかもしれないね」

そんな呟きもラファエルは、聞き漏らす事なく、小さな三毛猫の目の前に座り込んだ。

「何か知ってるようだな? どうなってるんだ?」

「あれは、変質だよ」

「変質だと?」

「強すぎる魔力を持ってしまった生物は、例外なく変質してしまうんだ。その強い魔力にあった器へとね」

「それがあの娘に起きてるって言うのか?」

「でも、オカシイな。変質って言うのは、もっと緩やかに進むものなんだ。こんなに急激に進むなんて聞いた事も見た事もない」

ラファエルは、もがき苦しんでいるエイダの姿を横目で見ながら、どうしたら良いんだと思案をはじめていた。

「おそらく、あの結界のせいかな。長い間、結界によって押さえつけられていた魔力がいっきに噴出してるように見える。でもこのままじゃ。こんなに急激に変質が進めは、自我すら保てなくなるんじゃないかな」

「それは……」

「魔力の本質は、破壊だからね。その強い魔力にあてられて意識が飛べば、身体を突き動かすのは、破壊衝動だけさ」

「やはりか」

ラファエルは、奥歯をキリっとかみ締めながら、変質を続けるエイダの姿を眺めた。エイダの姿は、すでに顔と手が真っ黒に染まり、まるで彼女の中から闇が噴出しているようだった。

「ホラホラ、もう彼女は、人としての姿が保てなくなって来ているよ。どんな姿になるんだろうね。それは、その人の才能によって違うみたいだから、どんな姿になるか楽しみだね」

「チッ!!」

ラファエルは、舌打ちをする。このままでは、拙いが今この状況でどうする事もできないのは、ラファエルも解かっていた。だがラファエルは、ある人物からの依頼を達成できない事への苛立ちが勝って居たのである。

「人としての意識があるのなら、連れていく! 意識さえも化け物になるなら、俺がその命を断ってやる!!」

ラファエルは、変質を終えようとしている黒い影にそう宣言して、ショートソードを構えるのだった。

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