第38話 リナさん凄いです!大人です!羨ましいです!

 宿屋のロビーでソーニャと合流して森の巡回をするため村を出た。ソーニャは何故かガチガチになりながら僕らと一緒に歩いている。


「ソーニャ、どうしたの? 緊張しているみたいだけど、昨日みたいなことは早々無いと思うからもう少し肩の力を抜いたら良いよ」

「ああ、いえ! お二人の足を引っ張らないか心配しているだけです。まぁ、昨日のように追い詰められるのは勘弁ですけど」


 昨日少しだけど一緒に行動して僕らとソーニャの実力差を知ったから、今更ながら上手く連携出来るのか緊張しているのかもしれない。


「昨日出て来たファンガスとウォーグならソーニャも対処出来てたじゃないか。もっと自信を持って良いよ。さっきの意気込みはどこに行ったの?」

「さっきのは勢い任せと言うか、このタイミングを逃せばお二人と一緒に行動する機会が無くなるんじゃないかと思って」


 あぁ、なるほど。他の人と組んだ後ならそれも難しいだろうしなぁ。


「ご主人様、森に入る前にソーニャさんのスキルなどを確認したほうが良いでしょう」

「あぁ、そうだね。ソーニャ、君の魔法属性とかスキルとか教えてくれるかな?」

「あ、はい! 属性魔法は風、火、地が使えます。風属性魔法はLv2でそれ以外はLv1です」


 3つの属性魔法を使えるのは中々才能があると思う。恐らくどこかで師事をした後に冒険者になったのだろう。


「じゃあ、風刃ウィンドカッターとかは使える?」

「はい、使えます!昨日も風刃でファンガスと戦いました」


 それなら魔力が持つまではファンガスを相手にスキルアップしてもらうのもありかな。


「じゃあ複合魔法は使える?」

「ふ、複合魔法ですか・・・? すみません、習ってないので使えないです」

「あ、あれ? お師匠さんとかに習わなかった?」

「はい、魔力の高め方や属性魔法の基礎は教えて貰ったのですが、先生が突然旅に出ると言い出して。それで魔法教室も閉鎖することになったので、私はそのまま冒険者ギルドに加入して腕を磨いているといった感じです」


 ソーニャはしょんぼりとしながら冒険者になった経緯を語ってくれた。そのお師匠さんは基礎を教え終わってから旅に出ただけ、まだ良心的かな思うことにした。


「それじゃ、僕とリナで時間があるときにでも複合魔法を教えるよ」

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます! お願いします!」


 さっきのしょんぼり顔から一瞬でパーッと顔を輝かせて僕らにペコペコとお辞儀をしてくれた。僕としても戦力が上がって助かるし、リナにまだ教えてない複合魔法などもあるから丁度良い。


 歩きながらソーニャのスキルの確認をし終えた頃に森の入り口まで辿り付いた。リナにいつものように索敵をお願いする。


「今リナが使っている索敵魔法が複合魔法だね。必要な属性魔法は風と地と闇だからソーニャが闇属性魔法に目覚めない限りは使えない。だけど風と地で探知魔法は使える。だから風だけじゃ無く地属性魔法もスキルアップしたら探知魔法はいずれ使えるようになるよ」

「これが複合魔法・・・。分かりました! 地属性魔法も頑張って使っていきます!」


 ソーニャは素直で教え甲斐があるなぁ。だけど今回に限ってはファンガス相手には風属性魔法の方が胞子攻撃を食らいづらいから地よりは風属性魔法を使うようお勧めしておいた。


「ご主人様、終わりました」

「お、どうだった?」

「ここから北東に約2km向かった先に魔物の群れの反応がありました。魔力に反応される可能性を考慮して索敵を行ったので数は把握しきれていません」

「分かった。ありがとう、リナ。それじゃあその群れの調査と討伐をして倒し終わったらまた索敵してみよう」

「畏まりました」

「分かりました! あ、でも昨日みたいな速さで走るのは無理です。私が付いていけません!」

「大丈夫、昨日僕も反省したから」


 僕は苦笑しながら森の中へ進んだ。まぁ、もしも撤退しなければならない事態になったら同じ事をすると思うけど。


 リナが索敵魔法を使って魔物を確認しながら歩き続けて、1時間位で魔物の群れを探知した場所付近まで辿り着いた。


「ご主人様、あちらにファンガスがいます」

「うん、分かってる。見える範囲では8匹かな。木々が邪魔で把握しきれないな。リナ、もう気づかれても良いから索敵をお願い。ソーニャ、ファンガスが向かってきたら風刃で攻撃してくれ」

「畏まりました」

「了解です」


 リナが索敵魔法を展開して直ぐにファンガスがこちらに気づいたのか、ユラユラと揺れながらこちらに向かってきた。


「ソーニャ、やれ!」

「風よ刃となって敵を切り裂け! 風刃ウィンドカッター!」


 ソーニャから放たれた風の刃は木々を避けてファンガスに命中し、その身体を斜めに切り裂いた。


「良くやった! 次!」

「はい!」


 ソーニャは次々とファンガスに向けて風刃を放ち、たまに樹木ごとファンガスを真っ二つにしていった。


「ご主人様、ファンガスの数は12匹です。そのうち5匹はソーニャさんに倒されました。また今のところ半径2kmにあれら以外の魔物の気配はありません」

「分かった、じゃあ残り7匹だ。ソーニャ、やれるところまで一人でやってみてくれ。サポートは僕とリナがやる」

「わ、分かりました!」


 8匹目のファンガスをを倒したら、ソーニャはフラフラになっていた。恐らく魔力が尽き欠けているんだろう。


「ソーニャ、よく頑張ったね。あとは僕がやるよ」

「は、はひぃ、ありぁとございますぅ!」


 ソーニャがファンガスごと木々を切り倒してくれたお陰で視界が開けて、残りのファンガスが5匹全て捕らえることが出来た。


 僕は闇の針を連続で撃ち、5匹のファンガスの上半身と下半身をズタズタに切り裂いた。


「よし、終わり。周りに魔物居ないようだからファンガスの素材を手に入れてから村に戻ろうか」

「・・・無詠唱。しかも魔法名も言わずに・・・す、凄いです」


 あれ? 昨日も見せたはずだけど覚えて無いのかな。かなり一杯一杯だったみたいだから覚えて無くてもしかたないけど。


「慣れたらソーニャも出来るよ。これも機会があったら教えるね」

「は、はい! お願いします!」


 それからファンガスから魔石、魔物や魔獣などが体内で魔力を元に作ったと言われる水晶を手に入れたり、目に当たる部分を切り抜いたり、素材と討伐したという証拠を集めナップザックに入れていった。


 胞子を含んだ傘の部分などをこのまま放置すると、またファンガスが生まれるかもしれないので森に延焼しないよう気をつけてソーニャとリナに焼却処分をしてもらった。


「これで終わりだね、それじゃ帰ろうか」

「畏まりました」

「はい」


 僕らは来た道を村へ向かって歩き始めた。


「また歩きで戻るのがしんどいんですよねー」

「ん? またおんぶしようか?」

「いえいえ、そういう意味で言ったわけじゃないです! あの背負われて全力疾走される体験は昨日だけで十分です!」


 ソーニャに少しトラウマを与えてしまったようだ。


「そうじゃなくてですね、風属性魔法をスキルアップしたら浮遊魔法が使えるから楽が出来るなーと思って。昨日も一人で逃げてるときに浮遊魔法があったら迷わずに済んだのにと考えていたんですよ」

「あぁ、なるほどね。確かに風属性魔法なら・・・あ!」

「どうかしましたか?」


 風属性魔法Lv5前後位で確かに浮遊魔法が使える。風を動力として自分を宙に浮かびあげる事が出来る魔法だ。


 ただ自由自在に飛び回るということは出来ないが、ソーニャが言ったように空中に浮いて木の上に出たら村の方角位は確認出来ただろう。あと自由に飛ぶことは出来なくても人が歩く程度の速度は出せるはずだ。


 そして今気づいたけどリナは全属性魔法がカンスト状態だから使えることに思い至った。地上に降りた際気づいていたら街道などを空中に飛んで確認してもらうことができたはずだ。


 まぁその時に気づいていたら最短距離を選んだせいで、イリーナさんやジュニアスさんたちに出会うことも無かったかもしれないから、よしとしておこう。


 それよりもリナが飛ぶことが出来たら今後空中から偵察や攻撃などしてもらえるので、攻撃方法にも幅が広がる。リナに確認をしておくことにした。


「リナなら飛べるんじゃない?」

「そうなのですか? 試したことがないので分かりませんが」

 

 あ、天界なら飛ぶ必要はないから試していないのか。自由に飛ぶことが出来る飛翔魔法は高レベルなのでソーニャの前で使って良いか悩んだ末に、とりあえず浮遊魔法をリナに教えた。


「分かりました。試してみます」


 そう言った途端、リナはフワリと地上から浮かび上がった。


「やっぱり出来たね」

「リナさん凄いです! 羨ましいです!」

「これは良いですね。ご主人様、教えて頂きありがとうございます。ソーニャさんもありがとうございます」


 そう言ってリナは更に高く浮かび上がり、僕らの身長を超え樹木の枝付近で止まった。暫くしたら満足したのかリナは地上へと舞い降りた。


「自由に飛び回ることは出来ませんが、偵察などにはうってつけかもしれませんね」

「それよりもリナ、さっき気づいたんだけど。その格好で飛ぶとパンツが丸見えだ」

「リナさん凄いです! 大人です! 羨ましいです!」


 リナはバッと今更ながらスカートを押さえた。珍しく少し顔が赤くなっていて恥ずかしがっているようだった。ソーニャはさっき褒めていたことと似たようなことを言っているが意味合いが変わっていた。


「ご主人様、出来ればスカートの中が見えないようにする魔法を教えて下さい」

「あるんですか!? それなら是非私にも!」

「・・・そんな魔法あったっけなぁ」


 ドロワーズとか穿いた方が早いんじゃないかなと僕は思った。

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