第27話 思わぬ収穫ですね

 アルゴリズモ村を出てから既に半日が過ぎ、もう少し進んだところで今日は野営を行うことになっていた。これまでの道中で盗賊や魔獣などの襲撃に遭うこともなく、順調に距離を稼げているらしい。


 今日の野営地は周りに何も無く比較的森からも遠いため襲撃に備えるにはぴったりの広場のようになっていて、恐らくこの行商集団以外にも王都や街から地方へ向かう行商や他の団体が利用しているのではないかとジュニアスさんは語っていた。


 やがて野営地が見えてきて、ジュニアスさんの予想通り既に他の行商集団が野営準備に取りかかっていた。僕たちは野営地に到着次第、冒険者のアラディンさんの指示に従い周辺探索やテントの設営を手伝ったりすることになっている。


 野営地に着いて僕たちは馬車から降りジュニアスさんにこれから指示を仰いでくることを伝えてから、アラディンさんの元へと向かった。


「お~、来たか。今先に来てた行商の頭に自分らも同伴するぞと断り入れてるところだ。向こうの護衛と連携して野営の警護をすることになるが、お前らは恐らく深夜の警備に加わるか、少し離れているが森の魔獣の調査や討伐を頼むことになるはずだ。決まったら教えるからそれまでに準備しといてくれ」

「分かりました。決まったら教えて下さい」

「畏まりました」


 僕とリナはアラディンさんに了承して、水や携帯食料などの準備にかかろうとしたが途中で呼び止められた。


「あぁ、そうだ。もし向こうの連中がちょっかい掛けてきたら、殺さない程度ならあしらっていいからな」

「ちょっかいかけられますかね?」


 それにしても殺さない程度って過激だな。まぁ死ななければポーションなり治癒魔法なりで治りはするだろうけど。


「そりゃ、そんなべっぴんさんのメイドを侍らせてたらなぁ。お前さんたちの実力を知らなきゃ俺だって嫉妬でちょっかいかけてたかもしれねぇ。一応相手さん側に滅茶苦茶強ぇーから絡むなよと忠告はしたんだが、何人かはニヤニヤしてたからなぁ」

「あぁ、なるほど。分かりました」


 確かにリナは美人だし、メイドの格好をしているからこんなところじゃ尚更目立つ。まぁ、もしも絡まれたら威圧の練習台にでもなってもらおう。


 僕たちは指示を貰うまでに、携帯食料やロープや火打石などの道具類をジュニアスさんに頼んで分けて貰った。本来は冒険者側で用意するものだが、僕たちにはお金が無いので達成報酬から天引きという形にしてもらっている。水はリナから魔法で出して貰って補充することにして、少しでもお金を浮かせないと。


 丁度準備を終えた頃にアラディンさんがやってきて、僕たちは森への調査へ言って欲しいと指示を貰った。さっそく森へ行こうとしたところで、3人の見慣れない冒険者が僕たちの行く手を遮った。


「お、マジだ。すっげー美人」

「ねね、そんなひょろっちー奴と一緒に居ないでさ、俺たちのパーティに参加しね?」


 うわー、盗賊に続いてまたテンプレートみたいなセリフだな。もしかして今後もリナを連れていると、この手のイベントには欠かさないんじゃないだろうか。


「ねぇ、リナ。メイド服はやめて他の服を着ない?」

「申し訳ございません、私が今後この服以外を着るときはウェディングドレスと決めています」


 そうかー、そうきたか~。リナの初めてを奪ってそういう関係になった以上はそう言われたら僕も頑張らないといけないな。


「分かった。腰を落ち着かせることになったら責任を取るよ」

「・・・冗談ですと言おうとしたのですが、思わぬ収穫ですね」


 あれ?早まったのかな。まぁ、リナを他の男性に嫁がせる気はもう無いから良いけど。


「なぁ、おい。何無視してんの?流石に温厚な俺でもぶち切れそうなんだが?」


 相手の一人が腰に手を伸ばして威嚇してきたので、これはやっちゃってもいいかな。相手の力量は多分大したことは無い。護衛任務をしてるはずなのに持ち場を離れてちょっかいを掛けるような奴が凄いはずが無い。


「どうぞ?」


 僕がそう言うと剣を抜き振りかぶってきたが、僕はそれよりも早く踏む込み相手の股間に蹴りを入れた。グシャ!と何かが潰れる感じがしたけど気にせず足を振り上げると相手は軽く1mは飛び上がってから地面にうつ伏せで落ちた。


 残りの絡んできた人たちが剣に手を伸ばす前に、意識して範囲と威力を弱めた威圧スキルを放ってみる。盗賊に使った時の威力の1/5程になるようにしてみたけど、それでも全員が意識を失って地面に倒れ伏した。


「結構弱めたつもりだったんだけどなぁ」

「まぁ、この程度の実力では致し方ありませんね。ご主人様、足の汚れを浄化しますね」


 そう言うとリナは僕の足元にしゃがみ込んで浄化魔法を股間を蹴り上げた部分へ当ててくれた。まぁ、確かに汚い気がするから嬉しいけど扱いが酷いな。僕が言う事じゃ無いだろうけど。


 リナが足を浄化してくれてお礼を言った後、この3人をどうしたものかと考えて全力で相手の行商のところに投げ込んでみようかとも思ったけど、流石にやり過ぎかなと思い直して僕は両手に2人、リナは1人の襟首を持って引き摺って相手に引き渡しに来た。


「もうちょっかいは掛けないように言っておいて貰えますか?」

「あ、あぁ、よ~く言っておくよ。済まなかったな」


 向こうの恐らく冒険者を纏めているかそれらしい人に3人を引き渡し、僕らは依頼された森へと足を向けた。


「あ、リナ。森に入ったら探知魔法使って魔獣や大型の獣が居ないか調べてくれる?」

「畏まりました。大型の獣も狩るのですか?」

「あぁ、うん。僕たちの食料にもなるし、買い取って貰えたらお金になるかもしれないしね」


 魔獣は勿論、普通の獣でも食料や毛皮など素材が手に入る。魔獣よりは価値は下がるけど、今は雀の涙でもお金が欲しい。達成報酬などは事前に聞いているけど、辿り付くまでの諸経費が思いの外掛かっていて、最悪の場合街に着いて宿屋に数泊したらお金が無くなってしまうかもしれない状態だった。


「分かりました。そうなりますと毛皮などに傷を付かない方が良いですね」

「そうだね。でも狩る獲物次第でどこを攻撃した方が買取り金額が増えるとかは、いずれ覚えて貰えればいいよ。とりあえず僕らに必要なのは、いざという時の食料だ」


 餓死で天界に戻る可能性がまだあるから、その可能性だけは潰しておきたかった。

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