第11話 様は要りません
事務室で天女たちからお礼を言われながら、当初の目的だった部屋へ案内されることになった。客室も事務室の一部として執務室のすぐ近くにあった。何故こんなところに客室を配置したのか、気になったので神様に聞いてみた。
「この世界を私が作り出した頃、神々を招きご指導をして頂くため、執務室に近い方が宜しいのではないかと思いまして設置致しました。またパソコンを導入した際も神々が視察をしたいと申されたので、最初に設置した客室の隣に追加致しました」
基本的に客室を使うのは神様のお客さんなので神々しか居なく、また客室を利用する神々の理由も大半は視察や指導なので事務室と直結している方が仕事が捗ったらしい。また天女達も神々が滞在中の間のお世話などもし易いなどの理由もあったようだ。仕事以外では気の合う神が訪問した際に希に使う程度なので、そのまま事務室内の客室を有効活用しているらしい。
「上位の神々のように、遊戯室など娯楽施設の設置を行える位に力が蓄えられたら、いずれはゲストルームとしてそちらに移したいと考えているのですが、私はまだまだ若輩者ですので暫く先の話だとも思っております」
部屋にも入らずに立ち話をし、いよいよ部屋に入る事になりそうなので、話の途中で気になりつつも最後まで聞けなかった事を聞いてみることにした。
「それで、話の途中から気になってたんですが。今から僕が使う部屋って、違うとは思うけど、神様達が使う部屋だったりします?」
「左様に存じます。他に客室もありませんから」
「もの凄く気が引けるから遠慮したいなと。あ、物置小屋とかで良いですよ?」
「この天界に物置小屋は存在しておりません。そもそもあったとしても、お兄様をそのようなところに滞在させる訳にはまりません」
まぁ、間取りを聞いていたから物置小屋とか無いのは知っていたけど。神様が使う客室で寝泊まりとか、天罰とか無いんだろうか。
「さ、ともかくお入り下さい、お兄様。リナ、扉を開けて下さい」
「畏まりました」
リナさんに指示を出すと神様は僕の後ろに立ち、僕の背中を押しながら部屋へ招き入れた。
「ちょ、ちょっと、神様?ってあれ?普通の部屋だ」
そう普通の部屋だった。部屋は8畳ほどの大きさで、家具はベッドとサイドテーブル、書斎テーブルに木製の椅子、あとはチェストと小さいソファーだけだった。他には壁に絵画が数点と花瓶に花が添えてあるくらいだ。日本で個人旅行したときに借りたビジネスホテルよりは勿論広いけど、そこまで身構えるほどの設備や調度品ではなかった。
「お兄様、明らかにホッとされていますが、一体どのようなお部屋だと思われていたのですか?」
クスクスと笑いながら神様が僕をからかってくる。これは僕が身構えてた理由とか分かっているな。さっきまでとは違い、これが本来の神様の素顔なのかもしれない。
「神様、分かって言ってるでしょ。でも、そうですね。神様たちが泊まるんだから、僕は地上の王族や貴族の部屋っぽい感じを想像してたら、そうしたら思いのほか質素で逆にびっくりした」
「それは私の神としての身の丈に合ったお部屋を用意しているからです。神界では若輩者である私が豪華な客室を神々へ披露するのは、些か問題があると存じます」
「でも、広間のカジノとか見た目豪華じゃないですか?」
「素朴なカジノというものを、私には皆目見当もつきません」
それもそうか。確かだいぶ前にリナさんに聞いた話では、あのカジノって神様たちの間で流行というか一番導入されている禊ぎのシステムだと言われたっけ。何でも直接して欲しい事を罰として罪人に伝えるよりは、スロットのように遊び心があった方が罪人も不満を持たないとか。確かにやりたくないことを命令されるよりは、自分でレバーを引いた結果だから何となく納得してしまう気がする。
そして神界で一番受け入れらているカジノスロットが、違和感なく設置出来るのはやはりカジノホールだろう。あの広間が豪華なのも、そしてこの部屋が思いの外質素だったことも納得出来た。
「でも大丈夫ですか?いくら普通の部屋だとしても神様たちが今後も泊まる部屋なんでしょ?罪人を泊まらせた部屋なんかにって、神様が文句とか言われないかな。」
「お気遣いありがとう存じます。ですが、そのような事を言われる神が訪問されたら、これ幸いと追い返す理由にもなりますので、お兄様はお気になさらずとも宜しいのです」
え、そんな理由で追い返して良いの?まぁ、僕もその立場だったら出来るなら追い返したいから、それに関しては何とも言えなかった。
「それにお兄様は既に罪人ではなく、禊ぎを終えた元罪人であり天界の被害者でもあります。またご迷惑をお掛けした方に、少しでも労いたいと思うことは間違いではないと存じます」
ここまで言われたら、嬉しくて何も言い返せない。まぁ、数日だけという話だから問題はないと思うし、もし他の神様が怒って僕に天罰を食らわせようとも、ここまで言ってくれた神様のためにも、どうにかやり過ごして見せる。
「わかりました。ありがとうございます、神様。ここで暫く厄介になります」
「左様で御座いますか。では、リナにお兄様の介添えをお願いします。リナ、よろしいですね」
「畏まりました」
「また、ロマーナ、エメも介添えをお願いしますが、特典のリストアップにも手伝って頂くのでリナのサポート程度と思って下さい。よろしいですね」
「「畏まりました」~」
「あと、お兄様」
神様が僕のお世話の手配をしてくれたので、ここで一人で過ごすことはなさそうだとホッとしていたら、僕にも声がかかった。
「え?あ、はい」
「お兄様はそんなに私に固くならずとも良いのです。もっと妹に接するように私とお話しをして下さい」
「え、でも」
「お気になさらず」
うーん、神様相手に良いのかな。僕は敬語とかどちらかと言えば苦手だから助かるけど。そういえば、何故ここまで慕ってくれるのかハッキリと理由を聞いていなかった気がする。何か気がついたら流されるようにお兄様と呼ばれていたし。その辺りを少し聞いてみることにした。
「じゃあ、神様。何故そこまで僕を兄として慕ってくれるんですか?その理由を聞いてから判断したいと思います」
「それは・・・。少し照れてしまいますが、お話し致します。先程も言いましたが、兄としてお兄様を意識したのは頭を撫でられた時です。ですが、単に妹のように思われたからという理由ではなく、お兄様は私を心から心配し慰めて頂きました。勝手に心を読んでしまったことはお詫びする事しか出来ません。ですが、あの時のお兄様の感情に触れまして、自分に兄が居ればお兄様のように慰めて頂けたのだろうかと、出来れば今後も慰めて頂けたら、そう思ってしまいました」
神様は僕をジッと見つめてから語ってくれた。僕を兄として慕ってくれている。それは嘘じゃないと、僕は神様みたいに心は読めないけどそう感じた。
「ですので、呼び方だけでなくお兄様からも、出来ましたら妹として接して頂けたらと・・・存じます」
少し照れながらも最後まで語って教えてくれた神様に、僕が出来る返答は1つしかなかった。
「わかりまし・・・。分かった、神様」
「ハナ、そうお呼び下さい。お兄様」
「は、ハナ様?」
「様は要りません。ハナでお願い致します」
ハハハ、こやつ無茶を言いおる・・・。え、良いの?神様を呼び捨てにして。まぁ、神様がそうして欲しいというなら、僕は出来れば応えてあげたい。どうにも神様をみていると妹属性だし応援したくなってくるから。
「分かった、ハナ。これで良い?」
「はい!ありがとう存じます、お兄様!」
嬉しそうな神様、じゃなかったハナからロマーナさんに目を向けて、大丈夫なのと視線を送ると、ウィンクを返されてしまった。どうやら問題は無いらしい。
あれ?これって神様になる外堀がまた埋められたんじゃないよね。
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