禊ぎを終えたから自由に過ごせるようになった
かざみねこ
第一章 プロローグ
第1話 最後の戦い
威厳と風格のある、しかし見る者によっては陰鬱で恐怖感を持たせる城内は、既にどこもひび割れ壁や床に穴が空いている。絶え間なく続く剣撃や魔法による爆発音を轟かせながら、堅牢であったであろう城も無残な姿となり果てていた。
「グゥッ、おのれぇ、人間どもめが!」
敵味方入り乱れる城内で一際存在感のある男が、攻撃を受け歯ぎしりをする。既に戦いは終盤へと移り、もはや決着がつきそうなのは誰の目にも明らかだった。
攻撃を食らって空中へ逃れ距離が開いたことで、ふと自分の身体を見てみると傷の無い場所は無く、自身と敵の血で汚れた鎧もいずれは何の役にも立たなくなるだろう。
周りを見渡してみれば殆どの側近は既に敗れ、残った兵が何とか討伐軍に対応している有様だった。そして先ほどから自分に戦いを挑む者どもを見る。
一人は魔法剣士───
大魔法使いにも劣らない魔法力と威力を持ち、更に忌々しく輝く聖剣を携えた男。
一人は剣士───
東方に伝わる刀を携えあらゆるものを一刀のもとに両断する女。
一人は聖職者───
神々の力を借り受け、仲間に癒やしと恩恵をもたらす女。
一人は魔法使い───
魔法剣士以上の魔法力と数々の魔法を駆使する女。
一人は拳闘士───
全身にこれでもかと筋肉を纏い拳一つで殴殺するビキニの水着にパレオを巻いたような装備をした上にぶ厚い化粧のお・・とこ?
「っ、女よ!」
「いや、明らかに…待て、何故こちらの考えてたことが分かるのだ?」
こちらが敵を
「よもや人間にここまで追いやられるとは夢にも思わなかったぞ」
既に魔力も残り僅かで更に血を流しすぎたことから、いくら互いに傷だらけであっても、ここからの逆転の目はなく自分は間もなくこの者達に討たれるのだろう。
しかしこれまでの人間への恨みや自分に付き従ってくれた部下達のことを考えれば、このまま素直に討たれるわけにはいかないと心と体に鞭を入れる。
心の中の憎悪が力になればと無理矢理魔力を練り上げ身体強化を行い、更に魔法攻撃のために魔力を練り上げる。
「やらせるか!これで決めるぞ!」
こちらが攻撃のため魔力を貯めていると、魔法剣士が叫び仲間に指示を出す。
「シーヴは前衛にバフを!ローリは詠唱を開始してくれ!ヘルガと俺はあいつを叩き落とす!マルギットは隙を見てとにかくぶん殴れ!」
・・・あの見た目でマルギットだと?と一瞬思いながら敵の指示を逆手に取って後衛に魔法を撃つことにした。範囲と威力は中程度、速度は高速の風と火の複合魔法を無詠唱で解き放つ!
「ファイアブラスト!」
ノータイムで手のひらから放った風を纏う火球が聖職者と魔法使いと拳闘士に襲いかかる。前衛2人は既に駆け出し、後衛2人は祈りや詠唱をしている状態では防ぎようがない。魔法耐性の低い拳闘士ではどうあがいても肉の壁が精々だろう。
「ふんっぬ!」
拳闘士が素早く前に出て襲い来る火球にアッパーカットを食らわせると、火球は暴発もせず城の天井に向かって飛んでいき、天井で爆発し穴を追加することになった。常識外れにも程がある。謁見の間に居ながら星空が見渡せる状態になってしまった。
「…光の槍にて敵を討て!ヴァルキリーズジャベリン!」
魔法使いの詠唱が終わり前衛二人を追い越し光の槍が迫り来る。魔法障壁を展開しつつ光の槍を回避したところに、聖職者の補助を受けた魔法剣士と剣士が空中を蹴り上げながら強襲する。接近戦に対処するため魔法障壁を解除し物理障壁を展開し直す。
「無駄だ!シールドブレイク!」
魔法剣士が聖剣にエンチャントを行い展開した物理障壁を切り裂き霧散させる。追撃が来る前に身体強化に速度上昇を重ね退避を行おうとするが、側面から剣士が刀を上段に構えつつ突撃してきた。
「
咄嗟に物理耐性強化の魔法をかけ、身体を捻りつつ背後に飛翔するが切っ先が身体を捕らえたようで鎧を切り裂き、胸板に傷を作る。そして先ほどの攻撃が致命傷だったのか鎧はとうとう身体から剥がれ地上に落ちていった。
鎧は無くなってしまったが致命傷を回避出来たのでまだ行けると気合いを入れ直そうとしたところで、ゾクリと身体に緊張が走る。何事かと周囲を探ると魔法使いから強大な魔力を感知した。
「まずい!」
「…闇を打ち砕く裁きの雷槌!ミョルニル!」
城の天井の穴から雷の塊が来訪し回避する間もなく直撃する。
「グアアアアアア!」
雷に押され床に叩きつけられる。衝撃の勢いを止められず、身体が床にバウンドしながら意識が飛びそうになるのを懸命に堪えていると、そこに一陣の風が飛び込んできた。
「どっせいぃぃ!」
自称女の鋭く捻りのある拳が腹を突き抜け大穴を開ける。完全に致命傷だった。
「ぐっ…ガハッ。…トドメがまさかの貴様か…」
「私の腕で眠ることを光栄に思いなさい」
「…お断りだ」
拳闘士の腕の中で息を引き取ることを想像し、それだけは避けたいと最後の力を振り絞り相手の腕を押さえながら腹から腕を引き抜く。しかし残念ながら飛び退く力さえ残されておらず後方へ数歩歩くことしか出来なかった。
あとは自分の怨嗟を相手に伝える程度しか出来ないだろう。ならばこそ、この者らに呪いよ災いよかかれと言わんばかりに最後を飾ることにする。
「…我が倒されようと、この地に災いをなす者が必ず現れるだろう。それまで仮初めの平和とやらを存分に満喫するがいい…だが、その平和がつづ」
「長い!」
拳闘士の右ストレートを顔面に食らい吹き飛ぶ。丁度玉座に直撃し座りかけるように息を引き取った。拳を振り抜いたマルギットは仲間達に振り向き拳を天に振り上げ叫んだ。
「私たちの勝ちよ!」
「「「「お、おー…」」」」
こうして魔王を討ち滅ぼし人々は平和を手に入れた。
???「――――――――――――――ミッションコンプリート!」
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