第1章

第2話 魂を買う王女〈1〉

 簡素な宿屋の一室。

 窓から入り込んでくる陽光のぽかぽかなこと、ぽかぽかなこと。

 でも、暖かくやわらかな陽光とは不釣り合いに、今あたしは落ち込んでいる。


「全然足りないわ……」


 ギシギシと音を立てる木イスに腰かけながら、溜息を交えてぼそりと呟いた。

 直後、細く綺麗な指先でリケがあたしの髪を結い始める。


「焦らなくてもいいじゃない? ほら、髪が結びにくいわ。動かないでチノ」


 首元に布の感触が押し付けられ、彼女の体温が白を基調とした給仕服越しに伝わってきた。

 しかし、女性的な胸のふくらみ、その感触がリケには足りない。

 この年上の幼馴染がもう少し母性を感じさせる体つきをしていれば、少しは落ち込んだ気分もまぎれて、あたしは癒されたのだろうか……なんてね。


「……そんなことはないか」


 一瞬、心の中に浮かんだおふざけを自分の口でもごもごと否定する。


「どうかした?」


 そんなあたしをリケは鏡越しに見つめていた。

 彼女はいつの間にか髪を片側で束ね、丁寧に結い終っている。

 あたしはふっと体の力を抜き、リケの平らな胸に後頭部をもたれてから口を開いた。


「別に、ただ頭の後ろでリケの胸が当たって痛い……」


 すると――


「あはは。それは、どういう意味なのかしら?」


 ――彼女はあたしの両肩に手を添え、美しい指に力を込める。


 リケが形の良い爪をぐっと服に食い込ませると、それは獣の歯のように突き刺さった。

 けど、こんな痛み……国の命運を背負ったことに比べれば、大したことではないのだ。

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