メテオの始末とリーゼの加護

 とりあえずメテオのいる次元に行き、その空間ごと消そうと思ったのだが。


「懐かしいもんが出てきたな」


 宇宙も異世界も一つの世界に一つじゃなく、無数に存在するケースがある。

 中には何十個もの異世界が偶然くっついて、一つの世界として歴史を刻むものだってあった。

 まあそんな異世界もあってな。その異世界では宇宙一つ一つが意味を持つ。

 そこに人の意志が介在するか、邪神の手のひらか、あるいは別の何かか、その程度には違いがあるがね。


「そうか、あんときの戦いに来なかったやつか?」


 だが人も神も概念も超えた存在はいる。

 そいつの一部、砂粒以下の欠片でいい。ミクロの世界でいい。

 それを放置すれば、複数の異世界が奇跡的に繋がり、団結でもしないと倒せない脅威となる。


「でも力が弱まっている。大本が消えちまったもんな」


 太陽系だの銀河だの、そんなみみっちいもんが何十個壊せようが話にならない。

 一口で数十個の宇宙や世界を喰らい尽くす。

 指先を動かせば、宇宙の星々は消えるか天体ごと変わる。

 異能やスキルなんぞ一切が通用しない。限りない宇宙よりも巨大であり、概念的存在や神すらも超越し、因果律の操作くらい朝飯前。存在する限り成長を続ける。

 あいつは、そんな『ザコ』を五百億ほど従えていた。


「俺のことも知らないか……強かったんだぞ、お前のボスは」


 もちろんザコは全部まとめて一撃で沈めた。そしたら百倍の数出してきやがって。

 それをまた一発KOしたところで、お互いに理解した。

 ああ、こいつは初めて自分と戦える土俵に上がってくれたやつなんだと。


「強かったなー……今まで戦ったやつの中でも五……いや三本の指に入る、圧倒的なやつだったな」


 今思い出しても血湧き肉躍り、魂が揺さぶられる。

 同時に『死』というものを微かに感じられたことを思い出す。


「でもお前は違う。俺は勇者で、この世界で懸命に生きているやつを見ちまった。だからあいつらを助けない訳にはいかない。ここで消えてくれ」


 いつものように。いや、いつもより格段に力を入れた右拳を解き放つ。

 メテオという、あいつが作り出していたザコの劣化品を作るための異次元ごと、メテオのボスを消し飛ばした。


「さて帰るか。久しぶりに昔を思い出せたよ」


 これでリリカの世界に超危険な存在はいないはず。

 だが疑問は残る。パラスはあの世界に女神はいないと言っていたな。


「ならリリカはどうやって……」


「おかえり先生。メテオはどうだった? ちゃんと決着付けたかい?」


 店に戻るとヘスティアが迎えてくれる。

 テーブルにはもうカレーが並んでいた。今日はココナッツカレーか。


「おう、ただいま。元凶っぽい存在もいたんだけど、唯一神的な概念のそういうあれだったし、悪意と殺意しかなかったんで消した」


「相変わらず説明があやふやでセンスが無いね。食べながらでいいからちゃんと話してごらん?」


 うむ、今日のカレーもうまいな。

 メテオは宇宙全域に広がり続ける生命を滅ぼすための駒。

 邪神っぽい概念が乗る宇宙船があり、そこから広がった敵が太陽系にまで現れたのだと説明した。


「それ、消し残しがあると面倒だよ?」


「ああ。だからこうやって極小サイズの世界を作って」


 指先に小さなビー玉サイズの無人異世界を作る。

 この中にメテオを全種類紐付けして転送すればいい。


「でもってここに全部圧縮して入れたら消して、はいおしまい」


 軽く光の魔法でもぶつけて消滅させればミッションコンプリート。

 跡形もなく消して帰ってきました。以上説明終わり。


「概念は個別に相手したよ」


「珍しく暗い顔だね。哀愁が漂う勇者様も素敵だけれど」


「ん、まあ……ちょっと昔の強敵とかを思い出してね。そいつと比べちまった」


「今の勇者様と戦えるほど強くはなくてがっかりってところかい?」


「近いかな。でもしょうがない。あれと同レベルのやつは……多分二度と出てこないから」


 期待していただけに地味にショックだった。

 所詮はメテオを宇宙にばら撒けるだけ。

 そもそもメテオボスを作った存在が大昔に消えたのだから、ザコもまた体と能力を維持できない。既に崩れかけの体であった。

 おそらくヘスティアの方が上だ。


「あれ、というのは余程の強敵だったんだね」


「まあな」


 ヘスティアには話していない。あれは女神を超えている。

 あいつの存在は世に知られていいものじゃないだろう。


「せめて殴り合いくらいできると思ったんだけどな……」


「要求のハードルが高いねえ」


 ううむ、贅沢なのか。もうずっとヘスティアより強いやつに会っていないぞ。

 カレー屋女神より弱いやつばっかりってどういうことだ。


「それとヘスティア。リリカにここの場所教えたのお前か?」


「いいや。どういう意味だい?」


「あの世界に女神はいなかったみたいだ。だからお前が教えるか、ここのことを知っているやつが手引してなきゃおかしい」


 どうやら本当に知らないようだ。

 こいつは異世界の情報くれたりする橋渡しだから、可能性としちゃ高いと思ったんだが。


「リリカ君から聞きそびれたねえ」


「まあいつか会いに行けばいいさ」


「あら勇者様。もう帰ってたんですね」


 店の奥からリーゼも出てきた。最近店を手伝っている場面をよく見る。

 本人の活力も戻ってきたようだし、ひとまず元気になってよかった。


「ただいまリーゼ」


「あの、私の加護どうでした?」


「おうばっちり。デメリット無し。役に立ってたぜ」


「よかった……お役に立てて」


 リーゼの加護の中でも当たりだったと思う。

 何が出るかわからないガチャ女神なのに、一発であれを引けた。

 それはつまり、リリカも勇者ってことなんだろう。


「これなら本格的に魔力や加護のコントロール訓練、始めてもいいかもな」


「はいっ! よろしくお願いします!」


 いずれリーゼを強くしなければならない。

 ガチャをノーマルからSSRまで任意で作り出せればいいが。

 まあ高望みはせず、地道に慎重にいこう。


「んじゃ来週からやるか。今日はもうカレー食って寝たい。明日から積んでたゲームとかして休む」


「今日の先生はアンニュイだね」


「たまにはいいさ。漫画の続きも発売されたし、何日か休もう。リーゼもな」


「私もですか?」


「疲れがちゃんと取れていない。無理すると暴発するぞ? 今日はしっかり休むこと」


 ステータス見られると体調管理が楽でいいやね。

 リーゼが無理し過ぎたら休ませる。育成ゲームみたいだな。


「女神の魔力を操作する方法ね……何か見つけてやらないとな」


 そう考えて、俺は基本魔法ってのをあまり使ったことがないと気づく。

 ファイアーボールとかそういうやつ。

 本当に初期も初期に覚えたけれど、ステ上げて殴ればよかったし。

 加護によるオリジナル要素入れすぎた。


「もっと基本の手軽なもんで……リーゼが覚えていないか、リハビリに使えるやつ……」


 全時間軸にぶっとぶファイアーボールとか。

 因果の鎖を断ち切るウンドカッターとか。

 時間すらも流してしまうウォータークラフトとか。

 いろんな異能を混ぜすぎて原型がわからんのよ。


「遊びながら探すか」




 そして数日が経ち。ソファーに寝っ転がって、大画面でゲームしている俺。


「レベル低い勇者って大変だよな」


 やっているのは普通のターン制RPG。やはりJRPGはこれが好き。

 ムービー中にボタン押すやつ大嫌い。


「先生にもそんな時期があっただろう?」


「めっちゃ前だな。超ぼんやりしてるよ」


 別のソファーでヘスティアが見ている。

 こいつも店休日で暇なのだ。


「あの、勇者様。最近ずっとごろごろして、ゲームしかしていないような気がしますが」


 リーゼがおやつを食べながら話す。

 ちょっと精神的疲れが見えたが、もう問題なし。


「クリアしていないんだから当然だろ。いま中盤くらいだな」


 ゲームはショートカットして魔王城に行けないから、異世界より時間がかかる。

 行ってもレベルが足りない。ストーリーを楽しみたい派なのでこれでよし。


「働けと言っているんじゃあないかな?」


「俺は週休六日制なんだよ。金なんていくらでも作れる」


 異世界を救うことが楽しいのであって、現代社会に対して何かしたいわけじゃない。

 社会の役に立とうとは思わない。なんかつまらないのさ。

 救いすぎると堕落して破滅に向かうし。


「いくらでもというのは?」


「錬金術もできるからな。そのへんの燃えないごみ全部ダイヤか金塊にすればいい」


 コントローラーをダイヤ、純金、氷、フランスパンに変えて、最後に戻す。


「器用だろう? ああやって横着してぐーたらしているんだよ。私も困っている」


「カレー屋を手伝うとか……」


「私の店だから却下で。というか、先生は私より料理がうまいんだよ……自信がなくなるから却下している」


「たまーに異世界の食材とか持ってきてやってるだろ」


「それは感謝しているよ」


 カレーは全てをカレーにする。だがカレーとして美味いかまずいかは別問題。

 新作カレーはこうしてできています。


「リーゼもくつろいでいいぞ。休める時に休むんだ」


「いえ、勇者様のおかげで回復しました」


「あとはガチャ体質の改善と向上だな。俺が教えてやってもいいが……」


 そこで通信室から音がする。どっかの女神がかけているのだろう。


「悪いね先生」


「いいから出てこい。なんかあったのかもしれないぜ」


 そこまで気を遣わなくてもいいってのに。

 飲み物持ってきておやつタイム続行。


「んー展開がマンネリしてやがる。格ゲーで気分変えるか」


「かくげー?」


「教えてやる。ちゃんとスティックコンもあるぞ」


 とりあえず女神には魔法より格ゲーを教えよう。

 対戦相手を作りたい。ヘスティアは俺と戦える、数少ないゲーマー女神だ。


「簡単なやつからいくぞ。スティックで移動。ボタンで攻撃」


 初心者相手なので基本からゆっくりレクチャー。

 リーゼは真面目だからちゃんと聞いてくれる。


「よし、魔力と連動させよう」


 魔法と機械の融合くらい容易い。魔力による操作も可能に変更。


「これで遊びながら魔力コントロールの訓練もできる」


「流石ですね」


「遊びには本気なのさ。俺がいないときもやっとけ。魔法についてちょっと調べておく」


「ありがとうございます」


「いえいえ、対戦相手が欲しいだけさ」


 しばらくリーゼと遊んでいるが、ヘスティアが帰ってこない。


「おーい。早くしないとおやつなくなるぞー」


 とりあえず通信魔法で声をかける。全部食うと拗ねるし。


「悪いね先生。昔の教え子の相談に乗っていて……そうだ先生、明日はお暇かな?」


「明日? 日曜だし暇だけど……俺まだ魔法について調べたいんだよ」


「だったらベストな異世界がピンチだよ」


 次に救う異世界が決まった瞬間である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る