海の上でも駄女神だよ

「今回は海上戦をやってもらう」


 適当に海を作ってみたので、そこで戦ってもらうことにした。

 三人で大型木造船を動かしてもらう。


「いいけどなんで海なの?」


「星の海に行ったら、普通の海も見たくなった」


「詩的ですわね」


「そんな先生も嫌いではありませんよ」


 そんなわけで海の危険を知ってもらおうというのが今回の趣旨。


「えー海賊出ます。あと天候も悪くなるし、化物も幽霊船も出るかもな」


「イベント目白押しですね」


「おう、気をつけろよ。女神だから空くらい飛べるけれど、人間は普通飛べない。つまり、船が壊れたら終わりだ」


「船って結構もろいわよね」


「ああ、下手すりゃ穴が空いたら終わりだしな。火にも注意だ」


 船上生活でその辺に慣れて欲しい。海ってのは楽しいけど怖いんだぜ。


「一時間やる。船の設備を確認しろ。食料とか、飲料水とか。修理用の木材や釘とか。確認することは山ほどあるぜ。はいスタート!」


「まずは食料の確認ですね」


「次に武器と修理材でも見るわよ」


「それ以外の設備は……展望台とお風呂ですわね。あとは……」


 会議しながら去っていく女神。さてちゃんとできるかな。

 今回は完璧にこなせなくてもいい。

 海ってのはベテランの航海士がいっぱいいても無理な時は無理だ。


「一応三人で操作できるように改造してやったが……頑張れよ」


 そして運命の一時間経過。全員甲板に集合。


「じゃあスタートだ。俺は手出ししない。ちゃんとやれば途中までは絶対にクリアできるようになっている。頑張れ」


「やってやるわ! いくわよみんな!」


「成長を見せつけてやりましょう」


「いきますわよ!」


 海軍の服に着替えたローズが、双眼鏡で周囲を確認している。

 サファイアは大砲の点検。カレンが舵取り。


「二時方向に木造船発見。帆にマークはなし」


「海賊船かしら?」


「先生なら、普通の船を入れてくるかもしれませんわ」


 ちゃんと相談しているな。いいぞ。実は普通の船も入れてある。

 いきなり攻撃しないのは進歩だ。


「大砲だけ向けておけばいいのでは?」


「通り過ぎて背中を見せるのも危険でしょ、一旦この位置で止まらない?」


「では錨を下ろしますわ。敵船から見えない方の錨ですよ」


「わかっておりますわ」


 慎重になっているな。サバゲーの訓練が役に立っているんだろう。

 そこでサファイアが手を挙げる。


「あ、先生!」


「なんだ?」


「この船ってどこか目指しているの? ゴールがあるのなら、そこに向かわないとダメよね?」


 そういや説明していなかったな。いかんいかん。

 目的地もわかんないんじゃ頑張りようもないわ。


「すまんすまん。勝手に進むから考えなくていい。嵐が来たら舵だけ取れ。自動で場面は切り替わる。その場に居続けてもいいけれど、急な嵐に対応するのが難しくなるぜ」


「なるほど、参考になりました」


「船がこちらに来ます。大きさはこちらより一回り小さいですね」


「あ、こっちは旅の船な。海軍でも海賊でもないから」


「了解ですわ!」


 設定はこんなもんでいいだろう。必要な時に適宜追加で。

 少し離れた位置で、お互いに頭を向けて船が止まる。


「あっちの出方を見ましょう」


「おおおおーい! 聞こえるかー!!」


 相手の船からヒゲモジャのキャプテンが出てくる。

 船首で声を張り上げています。声は不便だから聞こえるようにした。


「聞こえてるわよー!」


「怪我人がいる! 水も残り少ない! ちょっとでいいから薬と水を分けて欲しいんだ!」


 さあどうする駄女神一同。落ち着いて判断ができるかな。


「大変ですわね」


「本当ならば、という条件付きですが」


「まずあんたらなんなのー? 海軍?」


 サファイアは物怖じしないな。

 それでいて警戒もしているようだ。野生の勘か。


「旅の楽団だよ! 各地を回って公演やってんのさ!」


「どう見ますの?」


「難しい手段とかわかんない」


「では、小舟を出して……三人が限度ですね。三人までで取りに来るように言ってください」


「わかった」


 こういう交渉や作戦はローズの役目か。面白い。


「一応樽で水を一つと、包帯と傷薬を少々。これ以上はこちらで使う分が減ってしまいますわ」


「これ以上を要求されたら?」


「お断りしましょう。無駄遣いは天敵ですわ。断固拒否してくださいまし」


 家計を握っているようなカレン。そういや収入とかの計算任せてたな。

 意外と頑固なので、こういう時はきっちりしていて助かるだろう。


「もっと大勢じゃダメかー? 一気に運べねえだろー?」


「どうすんの?」


「往復しろと伝えてください。こちらの船員も多いから大量には渡せない、とハッタリかましておきましょう」


「りょーかい」


 存外事がうまく運んでいる。成長しているようで嬉しい。

 やがて小舟に乗った男女三人組がこちらに渡る。


「そこで止まってください」


 フリントロック式銃を構える海兵姿のローズ。

 あの姿なら外さないだろう。

 樽と薬箱を真ん中に、両者距離を取る。


「あ、俺は見えてない設定だからな」


「おいおい、物騒なもん向けるなよ。怖い連中だな」


「怖い思いをするだけで、水と薬が貰えますわよ」


「はっはっは、悪かねえな」


「それを持って船に戻って。変な気を起こさなければ、こっちもなにもしないわ」


「アイアイサー。おら、運ぶぞ。ありがとな」


 せっせと小舟に運んでいる。三人組。

 駄女神の皆様は警戒を解いていない。


「まさか味方ごと撃ってこないでしょうね」


「わかりませんよ。彼らが捕虜なら、撃ち抜くかも」


「水と薬だけは回収すると思いますわ。あればあるだけ助かりますもの」


 小舟は普通に戻る。それでも警戒しているのは偉いな。


「通り過ぎる時に砲撃してくるとか?」


「あ、進路変えたわ。横向いた」


「そうですね。どうやら……」


 そこでローズが振り向き、反対側から登ってきていた男を撃ち落とす。


「小舟は囮。海の中から奇襲をかけるつもりのようですね」


 次々に登ってくる連中を迎撃する三人。


「これどうするの? 船の下にいるのよね?」


「潜って倒せばいいだけです」


「砲撃が来ますわ!」


「シールド!」


 砲撃を魔法障壁でガード。ここで完全に敵ということがわかる。


「応戦するわ! カレンは援護お願い」


「では、私が海の底へ行きます。船に穴が空いていないかもチェックしておきますね」


 いつの間にかダイバースーツに着替えているローズ。


「お願いね。よーし戦闘開始よ!」


 ここからはマルチビジョンで同時に見てみよう。

 中空に画面を表示。簡単な魔法でいいや。画質はほどほど。


「これは……魚?」


 海中でも特に問題なく話せるローズ。

 忘れがちだが神様だ。人間とは構造が違う。


「ちっ、気づきやがったか。殺せ!」


 両腕にヒレのついた、鱗のある魚人軍団が襲い来る。


「魚介類ごときに女神は倒せませんよ」


 普通に体術でのりきって、手にしたモリで確殺していく。

 水中戦闘もこなせるように授業やったからな。

 成果が出ているようで何より。


「鬱陶しい……凍りなさい」


 周囲を魚人ごと氷漬けにし、魔力を込めて砕く。

 魚人は哀れバラバラとなった。


「船底に穴はなし。船ごと食料でも奪うつもりだったのでしょうか」


 殺気を感じたのか、とっさに繰り出された刃をモリで交わす。


「ほう、やるな嬢ちゃん」


「ボス格ですか」


 二メートルはある大柄の男。鱗の代わりにザラザラとした肌を持つ。

 水色に光るボディの敵だ。


「おうよ、フィッシャーズ海賊団二番隊隊長、鮫肌のシャチ」


「サメなのかシャチなのか、はっきりしてもらいましょうか」


 そのまま高速戦闘へともつれ込む。

 さて、船の上の二人は……と。


「ふっ、はっ! せいっ!!」


 カレンの格闘術の前に、屍の山が築かれていく。

 その中で唯一応戦する女ダコ。


「ほらほら、そんな攻撃じゃあアタシの体は傷つかないよ!」


 足二本に人間のような赤い腕六本。髪までタコのようにうねる水着の女。


「ぬるぬるして……拳が通らない!」


「関節技も効かないよ。はあっ!」


 さらに背中から手が四本現れる。長く吸盤の付いたそれは、まさしくタコの足。


「三番隊隊長、十本足のタコ!」


「タコなのに十本はおかしいですわ!」


「だから隊長なんだよ!」


 こっちはこっちで苦戦している。カレンにはいい課題だろう。

 ラストは砲撃戦を繰り広げているサファイア。


「ああもうキリがないわよ!」


 敵船からの砲撃をしのぎ、続々とやって来る小型船を撃ち落とす。

 旗艦は特殊なシールドで守られており、地味に魔力チャージが必要。

 しかも小舟から敵が湧く。そして防御もしなきゃいけない。

 さてどうするサファイア。結構重労働だぜ。


「これは……かなりピンチですわね」


「これくらいなによ! やってやろうじゃない!!」


 頑張れよ。この授業をクリアできれば、お前らはかなり高いレベルにいるだろう。

 見事突破してくれることを祈りながら、無言で見守るのであった。

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