第46話

15畳の和室を照らしていた電灯が消された。


部屋の隅にあるぼんぼりのような照明に、淡く電球色の光が見える。

部屋の中の明かりは、非常灯のようなそれだけだ。


今、僕の心の中も非常灯で照らされている非常事態のようなものだった。

だって、佳子さんが、隣の、というかくっついている布団に横になっている。

そんなこと、信じられない。


まるで、サンタクロースが隣に寝ているようなものだと思った。

僕は今、サンタと背中合わせだ。

このサンタは、一体何を持っているのだろう。

このサンタは、一体どこから僕の心の中に入ってきたのだろう。

このサンタは、一体何を考えているのだろう。

そしてこのサンタは、僕をソリに乗せてどこに連れて行こうとしているのだろう。


僕はまったく寝られない。


ちなみに、みわちゃんとは、毎晩同じベッドで寝ているけど、まったく緊張しない。

あまりに緊張しないためか、僕のいびきはうるさいようで

みわちゃんは、いつのころからか、僕の頭の前にみわちゃんのつま先、

僕のつま先の前にみわちゃんの頭がくるようになってしまった。


今夜は、いびきなんて、かけないぞ。

いや、いびきかく前に、そもそも寝られないぞ。

僕がいらいらとして、限られたスペースの中でもぞもぞ動くと、

たいそうな布団がこんもりと盛り上がった。


そのとき、隣の布団から、寝息のようなかすかな呼吸が聞こえた。

やった。佳子さん、寝てくれたのかな。

僕は緊張感の源泉である佳子さんが寝てくれたようで、少しほっとした。


こんもりともりあがった布団を直そうと、少し、佳子さんの側に体を入れ替えた。

すると、暗闇に、猫のような鋭い瞳がらんらんと輝いていた。



ひゃっ。僕は逃げ出しそうになった。

しかし、鋭い瞳は、僕が逃げ出すことを許さなかった。



佳子「ワンコちゃんっ」

僕 「起きてたの?」

佳子「起きてたよ!」

僕 「寝息みたいなのが聞こえたから、寝たと思った」

佳子「だってワンコちゃんがずっとむこう向いてるから、

   振り返ってもらおうと思ってニセ寝息をたてたの」



ニセ寝息!佳子さん、ずいぶん面白いこと言うなあ。   

と思うのと同時に、僕は、佳子さんが僕に振り返ってもらおうと思って、

ニセ寝息を立てた、という言葉がちょっとうれしかった。



女の子が、僕に振り返ってもらおうと何かしてくれるなんて、いつ以来かな。

少なくとも、最近はなかったぞ。僕は少し喜びに浸った。



佳子「ねえ」

僕 「なあに」

佳子「ワンコちゃん、昔に比べて、かっこよくなったよね」

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