こちらアイテム設置班

@syamokaku

第1話 問題解決はまず、殴る



 知っているようでみなさんが知らないことを語ろう。


 宝箱の特注?

 鍵穴があるが鍵はかかってない仕様だって?

 あんた、命より大事な財宝を鍵もかけずにほうっておくのかね?

 なに、世界の命運がかかってる? あんたおかしいんじゃないの?


 営業スマイル。軽いお辞儀。おれの不得意分野。

 もう一度、特注品の内容を説明する。

 金属製の箱。

 開閉部分は蓋部分のみの立方体で鍵穴はあるが鍵がかからない代物だ。

 これを合計千個を発注する。

 大都市ルーンブルクの鍛冶屋ハッタン一家は職人を二百人は抱えている。

 金属製の箱など簡単に作れるだろう。

 木箱を満たしている金貨を見てから、一家の主オリバーの態度が変わる。

「わかった、わかった 注文書を書いてくれ。仕様書も一応御願いな」

 ほくほく顔だ。支払は一つ金貨三枚。千個で三千枚だ。

 一ヶ月で二百個ずつ製造する予定だ。千個作るのに五ヶ月かかるわけだ。

 念のために契約書は製造期間は半年と定めた。

 この仕事はどんな障害があるかはまったく予想できないからだ。

「しかしだね・・・こんな重いの千個もどこにどうやって運ぶのかね?」

「あんたの気にすることじゃない。注文通りに作ってくれ」

 指定した倉庫に箱を収めるようにおれは何度も念を押した。

 勇者が転生するまであと一年・・・・時間はたっぷりある。


 仕事の内容。勇者が魔王を倒すためにサポートすることだ。


その1


 タイムリミット 残り330日


 最初に手をつけるのはここからだ。

 魔王バーモス城 複雑な魔術設計が施されており、一見には三階建ての城だが内部は十倍に及ぶ広さをもっている。

 魔城カテドラルとも呼ばれ、おれたちはその魔王に会うまでに手間がかかった。

 一階の階段を昇ったとおもったら地上8階だったり、落とし穴に落ちたと思ったら、そこは二階だったという落ちだ。回転床もところどころに設置してあり、毒沼や異質者をさえぎるダメージフィールドも数多い。

 おれたちにとってはなんでもない障害なのだが、それでも一日仕事だ。

 カバに王様の姿をさせたらこのような感じになるだろうという魔王が荘厳な空間に佇んでいる。普通の魔族なら膝をつきそうな魔力と圧力を放っており、人間であるなら人間の形をとどめることはできないだろう。

 あ、おれたちとはおれとヘルヴェトとアンジャビだ。

 魔王は無警告で攻撃を仕掛けてきた。当然だ。無断侵入者はおれたちなのだ。

 地面から黒い炎がおれたちを覆った。

 屈強な人間ならまとめて百人は消し炭にできる炎は黒衣の魔女アンジャビの唱えた魔法障壁によって打ち消される。

 黒衣の魔女は三角帽子も黒、杖も黒という漆黒の髪をもつ美女である。

 美女と言わないと命が危ない。

 アイテム調達人ヘルヴェトは『冥府の剣』を持ち、それを空にふるう。

 空間の歪みが発生する。、その歪みが魔王を包み込む。

 重力制御魔法が剣に賦与されている。それは自重が1万倍になるほどの強烈な代物だ。

 アイテム設置人こと、おれは動けなくなった魔王に瞬間的に近寄り、『神魔武闘術』の奥義を使用した。

 装甲無視内蔵破壊! 脳破壊! 最後に肺破壊をするための拳が深々とカバの右肩口からたたき込んだ。

「おい、殺すな!」

 ヘルヴェトの声は野太い。アイテムコレクターは金がいくらあっても足りない。

「そうよ、いま殺しちゃ報酬がでないわ!」

 アンジャビのヒステリックな声をだした。魔女は人体実験に使う金貨がほしい。

 おれたちの共通点。お金大好き。

「仮にも魔王だ。見ろ。再生が始まる」

 カバの化け物はしゅわしゅわと煙をあげている。傷口が塞がり、破壊された部分を修復しようとしている。

 重力制御はまだ解いていない。暴れられると面倒だ。

「魔王よ」

 おれは問いかけた。目が開く。

「おれの質問に答えろ。イエスなら右目を閉じろ。ノーなら両目だ」

 魔王は右目を閉じた。

「命が惜しいか?」

 右目。

「勇者が別世界・・・シンジュクからやってくる 知ってるか?」

 右目。

「おまえは勇者の転生場所に精鋭の魔族に見張らせている」

 右目。

「退かせろ」

 両目。内臓破壊の拳を腹にぶち込む。魔王の悲鳴。

「寿命を延ばすためだ。今度下手なことをいうとおまえで楽しまなくてはならない」

意味はわかるな?いつでも殺せるし殺さない程度にいたぶり続けることが可能だ。

「退かせろ」

 右目。

 魔族は念で会話できる。アンジャビにはその念が見える。

「確認したわ」

「いいぞ、約束は守れ」

 次に魔王を指示した。それは魔族の配置だった。

 か弱い勇者達が死なない程度のレベルの魔族配置をおれは命令する。

 魔王は従う。

 魔王の寿命は一年延びた。


その2


 タイムリミット 318日


 世界には犯罪ギルドが6つある。

 強盗、窃盗、詐欺 占有 売春 最後に暗殺。


 おれたちは魔王と同じようにこいつらに圧力をかけることにする。

 強盗ギルドの元締は壊滅させるしかなかった。

 勇者達を殺しては面倒だ。強力な人族は最初から殺すのは予定通りだ。

 窃盗ギルドは圧力に応じた。どこで勇者を見かけても盗みを働かない。

 詐欺ギルドは壊滅させた。勇者達が金銭面で絶望しないように。

 暗殺ギルドも壊滅させる。ただし、暗殺者の何人かは支配下に置いた。

 占有ギルドも壊滅させた。勇者達はどの家にも出入り可能と黙認した。

 売春ギルドはもっとも危険だ。魔王の配下がは勇者を籠絡する可能性は十分にある。

 だがしかし、おれも女が欲しい。売春ギルドに金を積んだ。

 売春の元締に少なくとも三年間は一切、商売しなくても食っていける報酬を手渡した。


 これから行うアイテム設置で盗賊共に余計な行動を起こさせないための必要な圧力。

 この仕事を終えるのは三十日もかかってしまった。急がなくてはならない。



その3


 タイムリミット 280日


 時間が一番食う仕事だ。 

 世界には十二の迷宮と七つの塔がある。

 迷宮を詳細に調べ上げ、宝箱を設置しなければならない。

 それも千箇所だ。骨が折れる。

 迷宮と塔は魔族の世界であり、魔族が牛耳っている。

 彼らは縄張り意識は強く、魔王の命令が徹底されるはずがない。

 強引な配置転換におまけに根拠がないときている。

 おれの予感は的中した。

 勇者が転生して、最初におとずれる迷宮は第一級魔族 オルフェウスの本拠地だった。

 牡鹿そのものの巨大な魔物は堂々としていた。

「なぜ、おれが魔王城に帰らねばならん?」

 彼の主張は長くなるので要約するとこうだった。

 ここは美味い人間が多い。餌場から離れるのはいやだ。あと女の締まりもいい。女がなくては生きてはいけない。魔力をたくわえてあのカバ魔王の地位を追い落としてやる。

 一級魔族は五匹しかおらず、力は絶大だ。転生したばかりの勇者など丸呑みだろう。

 そのまえに楽しまれるかもしれない。

『神魔武闘術』旋風脚斬が無慈悲に牡鹿の胴体を真っ二つにした。

 オルフェウスはなにが起こったかわからず、ごろりと地面に上半身が落ちた。

 数秒後に現実を理解し、痛みで泣き出した。

「わかりました、わかりました、どうか殺さないで殺さないで」

 オルフェウスは部下の魔族に運ばれて、第一の迷宮を去る。

 残ったのは野獣に近い知能をもつ取るに足らない魔族のみが残る。

 別行動のアイテム調達人は別の一級魔族の四肢を切り落として、楽しんだらしい。

 ひぎぃという魔物が声が彼を高ぶらせる。

 黒衣の魔女は別の一級魔族を13回ほど、細切れにして元に戻すことを楽しんでいた。

 魔族は丈夫なのが取り柄だ。人間は楽しむとすぐに死んでしまう。

 百日の期間をかけて、おれたちは迷宮と塔を調査し、魔物の数を調整したり、立ち退かせた。ここは営業スマイルも必要もない場面だ。

 ビジネスライクに魔物共をぶち殺そう。

 無感情で金を集めよう。

 無感動でアイテムを回収しよう。


 後に勇者の剣 勇者の鎧 勇者の盾と呼ばれるアイテムがおれたちの手元に残る。

疲れた。金貨30万枚くらいもらわないと割に合わない。


その4


 タイムリミット 160日

 迷宮の地図に目を通す。どこにどんなアイテムを置けばいいか検討する。

 勇者達に作為的だと気付かれてはならない。

 序盤は金貨100枚とか やくそう や 毒消し草 原始的な剣を置けば十分だろう。

 中盤は金を多く持たせた魔物をだし、強めの武器や防具を配置させねばらない。

 終盤はベテランの魔物をだしてもいいだろう。苦労してもらおう。

 苦労の成果として、稲妻を呼び出せる剣や龍殺しの槍をくれてやろう。

 アイテム調達人が調達した特殊なアイテムも苦労に見合えば分けてやろう。

 たとえば、指にはめただけで速度があがる指輪やかかげるだけで傷を癒す石は骨折り無しでは見つからない場所に設置した。


 この事務作業は十日程度だ。

 人夫を雇い、宝箱を設置。

 設置した人夫は口封じのために皆殺しにせねばならない。

 ダンジョンにある骨はそういう理由だ。

 勇者の育成計画は順調に進む。魔王を倒させるまで人知れずサポートするのがおれたちの仕事だ。


 魔王と闘うときにはぎりぎりで勝てるように調整する理由。

 人間は必死になればそれほど周りが見えない物だ。


その5

 タイムリミット 32日


 勇者達の旅に多少の刺激を演出せねばならない。おれだってそうだった。

 「おまえは村で娘を連れて、この迷宮で待っていればいい」

 ほんとですかい?それだけでそれだけで金貨百枚ももらえるんですかい?

 片目の眼帯をしている盗賊が目をぎらつかせている。

 仕事は簡単だ。

 村娘をさらわれたと勘違いした勇者達にぶち殺される簡単なお仕事。


「魔物よ。おまえは人間の王になりすまし、勇者を待て」

 ほんとうだろうな?それで女房と子どもを助けてくれるのか?

「約束は守るよ トロルの王よ」

 大丈夫、おまえの正体の映し出す鏡で勇者達はおれの世話なしでおまえ達の一族を皆殺しにしてくれる。鏡はおまえの城のすぐ近くに設置しておいた。


「海賊よ、勇者達をこの渦の海域で迎え撃て」

 まじかよ、こんな難所、ふつうのやつはこれねーよ!

 こいつの船にゾンビの石を張り付けた。

 沈んだ船は海魔と屍魔が跋扈する幽霊船になるだろう。

 魔王城の位置を示す宝玉はこの船にしかない。


「おい、勘弁してくれよ!なんでこんなことをする!なんで燃やす?」

 おれたちは有名な香辛料の収穫地を襲い、火を放ち、塩をまいた。

 香辛料が高騰化させるために、欲にまみれた王が勇者に依頼をするように。


 最後に宿屋の支配人全員を集めた。

 宿屋の宿賃は最初は安すぎると思ったことはないかい?

 宿屋の支配人はだれだって序盤の支配人になりたくはない。

 自由競争の競りを行う。

 そう、宿屋の支配人を配置もおれたちの仕事だ。

 いい場所に商売をしたいのなら賄賂をもらうのは仕事の範囲。



その6

 

 タイムリミット 残り1日


 明日、勇者が別の世界からやってくる。

 そして、世界を救う。正確にはおれを救う。


 真相はこうだ。おれもこの世界に呼ばれた。

 勇者となって、カブトムシの魔王を倒した。

 日本に帰る方法を暗闇の城の王から教えてもらう。


 金貨五十万枚

 これがこの世界で別の世界に飛ばす魔法を使うための費用だ。

 数百人の魔法使いが魔術を同時に使用する極大呪文。

 欠点  元の世界に飛ばされるとは限らない。


 途方もない金貨を稼ぐ方法。

 それは転生する勇者に魔王を倒させることだ。

 おれと同類が幾人も集まって行う仕事。

勇者が魔王を倒すために環境を整備すること。

 調整、談合、恐喝なんでもござれ。


 報酬五十万枚(山分け)

 

 転生してきた勇者に魔王を殺させると金貨が払い込まれる。

 依頼人は神・・・ と、おれは勝手に思っている。

 まあ、金をもらえればなんだっていい。

 五十万枚を稼ぐために最低三回は勇者をサポートしなければならない。

 失敗もありうる。おれ自身も間違って、自分の手で魔王を殺したこともある。

 勇者の資格がないものは魔王を殺しても金にはならない。

 この仕事で五回目だ。五周目というべきか?


 おっと時間だ。

 地面の一部が円陣を描き、回転する。やがて、人が現れる。


 15歳の少年はあたりを見回している。

 しょぼくれた太ったガキだ。


 落ち着け、いつも通りに。


「わわ・・・びっくりした! いきなりなんだねあんた?」

 少年もびっくりしたようで問い返す。

「ここはどこです!」

「あんた、そんなこともしらんのかね。ここはパパス村だよ!」


 死なないように手だけは引いてやる。


 welcome new WORLD

 この糞ったれの世界へようこそ。

 地獄が待ってるぜ。


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