第2話これは偶然ではありません。
まだ寒さが残る4月中旬
通学中のバスに揺られ、イヤホンで音楽を聴きなながら外の景色を見ている。
「今日も雨か…。」
いつもは自転車なのだが、雨の中合羽を着て疾走する元気など無く、こんな日はバスで行くことにしている。だって濡れたくないし。
最近は気温の変化のおかげで天気も崩れやすくなっており梅雨でもないのに一週間以上雨が続いている。
「次は高校前、高校前。」
車内にアナウンスが鳴り響く。その直後降車の準備をしだす人たちが目に付く。
制服からして同じ学校の生徒だと分かる。
かく言う俺もここで降りるので支度を始める。財布から運賃を出そうと開く、だが、
「小銭がない…。」
しょうがない…、両替しにいくか。
大きなため息と共に重い腰を持ち上げ改札へ向かう。
「すみません…、ちょっと前失礼します。」
やや混んでいるバス内の乗客をかき分け、やっと改札までたどり着いたのだが、両替には先客がいたようで、黒いニット帽をかぶった男が両替機越しに運転手と何か話している。というか揉めていく感じかな。
早くどいてくれないともうバス停に着くんだけどな…。
歯痒くなりながらも、じっとその後ろで、野口英世を握りながら待っていると、突然男が振り返り何か叫びだした。
がイヤホンしてるから何言ってるかわからない。
なんか怒ってるらしい。なんかものすごい険相で乗客をにらみつけている。声は聞こえないがなんかもう顔がうるさい。
じっーと男を見ていると、その視線に気づいたのか俺の方を見て顔を真っ赤にさせ何か言っている。
「あの、ちょっとすいません。何言ってるかわかりません。早くどいてくれません?」
そう言い放った直後、
パァーッン!
まるで銃でも撃ったかのような音がし、それと同時に自分の頬から何か滴ってくるのを感じた。
「血?、なんで?…。」
バス内には悲鳴が響き渡っている。
何だ何が起きている。
「お前何様だ‼︎このバスは俺が乗っ取ったんだ‼︎
死にたくなかったら大人しくしてろ‼︎次は心臓を撃つぞ‼︎」
どうやらバスジャックされていたらしい。しかも手には銃持ってる。
最近のイヤホンは高性能すぎて騒音遮断するから全然気づかなかった…。不覚…。
先ほどの銃声は俺に向けられたもので、頬を擦り
、イヤホンのコードを引き裂いた。
おかげで左耳には男の怒号がよく響く。
先ほどから銃口を向けられているが、それよりバスのフロントガラスから見える高校前のバス停の方が気になる。
やっぱりいたよあの人。
「あの、撃ってもいいから両替だけさせてくれませんかね。」
「お前ふざけてんのか‼︎次は心臓って言ってんじゃねえか‼︎舐めやがって‼︎」
「まあ撃っても良いですけど。」
俺が両替機に向かって、一歩また一歩と近づいく度に男の目が血走っていく。
「バカにしやがって!死ねぇ‼︎」
パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!
車内に走る戦慄とかき回る硝煙の香り
一瞬時が止まったかのような静けさが訪れた。
弾は全弾命中、衝撃で俺の身体は背中から床に倒れた。
「はぁ…、はぁ…。お…お前が悪いんだ…、素直に言うことを聞いていればし…死ななくてすんだものを…。」
男の震えた声と激しい息遣いだけが静かな空間に広がる。
「お前らもこんなになりたくなければ、俺の言うことに逆らうな‼︎さもなくば、「おっさん、痛いんですけど…。」
痛みが残る身体を無理やり起こすと、男が唖然とした表情で立ち尽くしていた。
「なっ、なんで生きてるんだ…。確かに弾はあたったはず…、」
立ち上がり、男に一歩又一歩と近づく
「細かいことは良いじゃないですか。さあ次はどこを撃ちますか?頭ですか。」
近づく毎に男の顔が徐々に青ざめていくのがわかる。
「さぁこい。脳天でも心臓でも喉元でも、あんたの好きなところに撃っても良いよ。」
男まで後一歩のところに来た時
「くっ、来るな化物‼︎」
男が銃を俺の額に当て引き金を引いた。
が、銃はカチャと音をたてただけで一向に銃弾はでてこなかった。
「くそっ、くそっ!」
男は諦めもせず俺に銃口を向け何度も空撃ちしつづけた。
「残念でした。」
「高校前〜、高校前でございます。」
バスが停車し、アナウンスが流れた。
それと同時にバスの扉が開き、何人かの人が勢いよく車内に入ってきた。
「警察だ!殺人未遂及び、営業妨害の現行犯で逮捕する!」
それから男が連行される一部始終を眺めてから
俺は小銭に崩そうとふたたび両替機に近づくと
運転手さんが、
「君のおかげで助かったよ。お代は結構。本当にありがとう。」
あれ?俺なんのために撃たれたんだろう?
「うす。」と返事だけして車内を出ると、先ほどの警察の一人が話しかけてきた
「公一君。今回も助かったよ。怪我はなかったかい?」
「怪我は無いけど、壊れた物全部弁償してください。」
「わかったよ…。で、何を壊されたんだい?」
「腕時計、イヤホン、携帯、mp3、メガネケース、生徒手帳…。」
「相変わらず君はすごいな。全弾所持物に当たって外傷をまのがれるなんて。わかった、なんとかしよう。おかげで怪我人は1人もでなかったしな。」
「外傷は無くても衝撃はかなりきつかったですよ。てか、なんで刑事さんはバス停にいたんですか?」
「このバスの運転手から連絡が入ったんだよ。高校生がバスジャック犯の気を引いてくれていると。で、たまたま私達がこの辺りで春の交通安全運動を行っていたから駆けつけられたのですというわけだよ。」
「すみません。質問を間違えました。なんで雨の日はいつもこのバス停にいるんですか?」
「いやぁ、たまたまだよ。」
胡散臭…。
「そうですか。また手柄あげれてよかったですね。その調子でまた出世でもしてくださいよ。」
精一杯の皮肉を込めて言ってやった。
「ああ、本当に君のおかげだよ。ありがとう。これはお礼だ。ではアディオス!」
効果は今ひとつだったようだ。アディオスって…。
俺の手に何かをつかませ、颯爽と去っていった
「千円札…。」
お礼にお札もらっちゃった。
そういえば昼飯無かったな…。コンビニでも行って買うか。
まだ雨の降り続く、濁った色の通学路を、傘を差して靴を濡らしながら歩き出した。
ー
あの子と別れた後、容疑者の乗ったパトカーに乗って、署まで連行している。
捕まった男は口を開け、ぽかんとした表情をしている。
「おい。刑事さん。」
「なんだい?」
「あの高校生は何者なんだ。撃たれてもへでもない顔して立ち上がりやがった。あれは本当に人間か?」
「普通の人間だよ。ただ、あの子の事はこの世界が特別扱いしてると言っても過言ではないかな。」
「なんだそれ…。」
男は納得できなそうに答えた、
あともうちょっとで署に着く。
そこでもうちょっと話を聞かせてやろう。
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