第20話 出現! 地霊邪王!
私が目を覚ました場所はいつかホームドで遭遇した震冥界に浸食されたあの光景と同じような場所だった。
一つ違うとすれば大きな、それこそ怪獣か何かの骨のようなものがあちこちに出っ張っていて、どくどくと鼓動をする有機的な壁、血液のように循環する赤い光……まるで生物のお腹の中にいるみたいだった。
「いてて……あ、変身解けちゃった……」
「重い、どいて」
もう一つ気が付く。私は変身が解けている。私の下からはラミネの声、どうやた下敷きにしてしまったようだ。
「ご、ごめん!」
謝り、慌てて飛びのく。
ラミネは乱れた髪の毛やドレスを整えながらふわりと飛びあがると、キョロキョロと周囲を見渡す。私もそれに釣られて、それとなく不安なので目の前を飛ぶラミネにすり寄った。
「なにここ……気持ち悪いんだけど」
「わからないわ。何か巨大生物の腹の中……と思ったけどそういうわけじゃなさそうね」
「なんとなくホームドの地下にあった連中の基地にそっくりだけど……あの流れからするとそういうことかしら?」
「さぁね……けど、そう考える方が自然かもしれないわ。だとすると私たちはまんまと敵の罠にかかって、本拠地におびき出されたってことになるわ」
そうだ。
私たちはお城を守る為に出撃して、そして囚われたんだ。
お城が心配だ。震冥界は展開されていなかったから兵士さんたちでも十分戦えるらしいけど、展開されたらそれでおしまいだ。単純に見積もっても邪王軍の数は多かった。厄介な事にここの連中はテレポートみたいな真似事もできるようだし……
「進もう。もうこうなりゃ進むしかないわ」
この時の私は、自分でも驚く程冷静だった。この状況でじたばたしても仕方がないというのがなんとなくわかっていたからだ。不安は不安だけど、私は深呼吸して生臭い空気を吸い込みながら、意を決した。
「周囲に敵の反応が検出されてるわ。こちらにむかってくる様子はないようだけど……注意して」
「了解よ」
***
拍子抜けってのはこういうことか。
私たちがこの奇妙な空間を歩いてまだ五分と経っていないわけだけど、一向に敵と出会わない。曲がりくねることもなく、一本道の通路を延々と突き進むだけなのに誰とも出会わないのだ。
「なんか、変な場所」
ぽつりと呟く。変な場所なのは当たり前だ。だけど私が言いたいはそういうことじゃなくて、不自然に一本道が続いているこの道だ。
普通、どんな廊下でも他に部屋があるもんだと思うけど、この廊下にはそんなものは一切ない。
というか、意図的に一本道にされてる気がする。
まるで私たちをその先に誘導するみたい。
「唸り声はするけど、姿は見えない……敵のアジトにしては施設が少ない……うぅん」
変身してない私にはどうあがいたって敵を探知する力はないので、索敵はラミネに任せっきりだ。それでもちょっとは警戒しているけれど。
それはそれとして私は記憶の戸棚を開きまくっていた。こんなシチュエーションに似た展開を探しているのだ。
まぁどう考えても『罠』以外の何物でもないのだが、多少、今後の攻略に役立てばいいと思う安易な発想だ。
「小さい頃にさ、ビデオ……あー説明が難しいな。まぁそういう機械が私の所にはあってさ、それで見た話しなんだけどさ。主人公が囚われたヒロインを助ける為に敵と戦ってる最中に敵の本拠地に乗り込むのよ」
「あんたの世界の演劇の話? それはあとにして欲しいんだけど」
「まぁ聞いてよ。なんかこのシチュエーションに似ててさ。んで、敵の本拠地に突入したのはいいけど、実はその本拠地が親玉そのものだったのよね」
「……つまりあなたはこの空間が邪王だって言いたいの?」
「それはわかんないけどさ、なんか似てるなぁと思って……それで何が解決するわけじゃないけどさ」
というか、私のこの想像が当たってたらちょっと対処できないし。
さて、そんなこんなで敵と遭遇することもなく、私たちは遂に行き止まりに着いたのだ。
目の前には円形の壁、幾何学模様が刻まれてるそれは多分扉だ。なんというかまさにって感じ。魔王とかそういうのってこういうの好きなのかな。
「気を付けて。ここから先、反応が見えないわ……凄い力で封鎖されてる。用心なさい」
ラミネは私の右肩に止まりながら、耳打ちする。私も頷き、息を止めながらその扉に手を当てた。
ガコン、ガコンと大仰な音を立てながら扉が開かれる。まるで獣の口、牙を開けるような光景だった。
「……まだダンジョンの入り口ってわけ?」
その先に広がる光景は黒と赤の海だ。雲海と言ってもいい。長く、大きな竜の骨みたいな橋が延々と続いていてその周りはうねりを見せる海か雲か、よくわからない何かが蠢いている。ご丁寧に雷はなってるし、奇妙な幻が空? 天井? に浮かんでは消えて流れていく。
「玉座って奴かしら」
骨の橋を追っていくとゴールが見える。かなり遠いが、そこには真っ白な石かなにかで作られた巨大な玉座が奉られていた。誰も座っていないが、まぁそういう場所だ。
「……ッ! メイカ!」
「お出ましってわけね!」
刹那、空間がぎゃあぎゃあと騒がしくなる。赤と黒の雲海の空を埋めつくすように地竜兵が飛来してきたのだ。
私はすぐさまラミネと融合、聖着を行う!
「ハッ!」
聖着を完了し、ソウルウィングで飛翔。右手にはブラスター、左手にはブレードを構えて、突撃!
地竜兵の数がざっと三十。これぐらいなら簡単に蹴散らせる!
「戦闘員はぁ! 引っ込んでろ!」
手始めにブラスターを斉射!
ついで両腕をかざしてクリスタルを生成し、シュート! 撃ちだされたクリスタルが爆散し、衝撃と破片が地竜兵を切り刻む!
たったそれだけで三十の軍勢は蹴散らせる。悪いけど戦闘員に構ってる暇はないのだ。
私は増援を警戒しながらも、加速した。目的は玉座。敵のボス、邪王がいるかもしれないし、もしかしたらそこにアナがいるかもしれない。
それは私の焦りもあったのだろうけど、構うことはない。私の第一目的はアナを助けることだからだ。
『メイカ! 正面!』
「お前は!」
前方五十メートル、蜃気楼にように揺らめきながら一人の地霊騎士が姿を現す。
それはあの竜の地霊騎士だ。
ソウルウィングによる飛翔で私と地霊騎士の間はあっという間に埋まった。一秒も経たぬ間に私たちはお互いの武器を交差させ、空中で競り合った。
こいつ、パワーが上がってる!」
「退きなさい!」
「そういうな。エスコートだよ!」
奴はおもむろに私の腹部を蹴りつけて間合いを取る。その蹴りによるダメージはない。
私はすかさずブラスターを放つ。だが、奴は翼を自分の体をくるむと、ビームを弾いて見せた。やっぱ幹部級には通用しないか?
空中でにらみ合う私たち。とはいえ、私はこいつすら無視していきたい気分だったが。
「安心しろ、娘は生きている」
「あら、そう。じゃさっさと返して頂戴。そのあと直々にあんたらをぶっ飛ばす」
「それは楽しみだ。だが、まだかえすわけにはいかない」
竜の地霊騎士はせせら笑う。
ムカつく! その余裕の態度、本当に嫌!
『それはアナの血に宿る二代目聖女と勇者、そして王家の血を欲してるから? その力でろくでもないことを企んでいるのでしょうけど、そうはいかないわよ』
「血?」
ラミネの言葉に奴は首をかしげたが、またすぐにうすら笑みを浮かべて、こちらをじろじろと見つめてくる。
「あぁ、血か。そういえばそんなものもあったな。ふむ、確かにあの娘に流れる血は由緒あるものだろうな。確かに利用する手立てはあるが……まだ小娘だ。食べごろではないな。そんなことも考えたことなかった」
『なんですって?』
なんだか私たちと連中とでは決定的に認識の違いがあるようだ。
でも、そんなことは関係ない。こいつらの目的はどうあれ、アナは返してもらう。そしてお前らをぶっ倒す。
「食べごろじゃないなら返品してもらうわ!」
ブレードを構えて突撃!
真正面を突っ切る形で私は加速した。当然、竜の地霊騎士はそれを避ける。
私は迷うことなく突き進む。
「追ってこない?」
奴は私の後を追ってこない。なんだ? この戦いが始まってからというもの、奴の戦い方に違和感がある。まともに私と戦おうとしないし、明らかに手を抜いている。
なんだ? 一体何が目的なんだ?
ぐるぐると不安が私の胸中を駆け巡るが、その瞬間、私の視線と連動するカメラが玉座のすぐ傍で倒れるアナを発見した。ドレス姿のまま、放置されたような姿……
「ソウルスコープ!」
大体、この手は偽物であることがある。お約束じゃないのはわかりつつも私は用心をした。スキャン結果、倒れているのはアナ本人で間違いはないようだ。
私は迷わず直進した。
「アナ!」
驚く程に妨害もなく、私はアナの傍に駆け寄ることが出来た。
なんだかうまく行き過ぎている。
用心に越したことはないが、それはそれとして私はアナを抱きかかえる。スコープが検出するアナの様子は気を失っているだけで、怪我も何もないということだ。
「アナ! 無事ね!」
「うっ……」
少し体を揺らすと、アナが目覚める。ぱちくりと大きな瞳が私を捉えた。
「聖女……様?」
「よかった無事ね? 大丈夫、変な事されない? されたら言わなくてもいいけど、必ずあいつらに痛い目見させるからね!」
「い、いけません! 聖女様! ここから早く逃げて!」
「え?」
さっきまで虚ろな視線だったアナはハッと我に返ったとおもうと私を突き飛ばそうとする。だが、今の私はソウルメイカーに変身していてパワーアシストもある。アナの腕力ではびくともしない。
いや、それよりもアナは一体何を言っているんだ? 罠の警戒はしているが、背後にあのうざったい竜の地霊騎士が迫っていること以外……
「反応がない……」
あの地霊騎士の反応がない……
いや、というか敵の反応がなさすぎる……なんだ、一体なんだ? 私はアナを抱き寄せながら、キョロキョロと周囲を見渡す。スコープの感度も全開だ。いつでもウィングで飛び出す準備もできている。
「逃げてください!」
「わかってる! けど一緒に逃げるのよ!」
わけがわからないが、ここは逃げの一手だ。
私は飛び立とうした……その時だ。
「ムッ!」
コツ、コツと巨大な玉座の影から足音が聞こえる。
スコープに反応はなかった。いつの間にかそこにいたみたい……その足音はコツ、コツと歩調はそのままに影から姿を現す。
「……あんたが……邪王?」
『気を付けて、メイカ。見た目に惑わされないで』
私とラミネ、二人して現れた人影にただならぬ雰囲気を感じ取っていた。
目の前に現れたのは、緩やかなウェーブがかかった金髪に白い肌、気だるげな表情を浮かべた……少女だった。
年齢は私と変わらなさそうな姿、しかも一番特徴的なのはその衣装だ。
それは真っ白な大きな布だけで出来たようなひらひらでぶかぶかの衣裳……聖女の服だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます