678 報告会




 まだ夜が明けきらない頃合いだが、キリクは元気そうだった。アントレーネにも疲れは見えない。シウを見て尻尾を振っている。

「やっぱり、間に合わなかったね。急いだつもりなんだけど」

「俺が遅いって言いたいのか?」

「い、いえ」

 アントレーネは憧れの英雄に対して及び腰になった。

「うちのレーネをからかうの、止めてください」

 シウが口を挟むとキリクは片方の眉をひょいと上げた。

「なんだその喋り方は。気持ち悪いぞ。ていうか、お前は本当に巻き込まれ体質だな。俺も相当なもんだが、お前には負けるんじゃないか」

「『隻眼の英雄』には負けます」

「おい、それ止めろって」

 そう言うなり、キリクはシウの首に手を伸ばした。グイッと引き寄せられる。

 顔が近付いたことで、キリクは「お?」と声を上げた。

「なんだ、でかくなってるじゃないか。シウも成長してんだな」

 その言い方にシウはつい、むすっとした顔を向けた。「もっと大きくなる予定だから」とボソボソ告げる。

 そんなシウたちを見てジークヴァルドが笑った。

「今が一番、年相応に見えるよ。なんでもできるから焦る気持ちもあったが、シウにも子供っぽいところはあるんだな」

「ははっ、言われてるぞ」

「キリクのせいだね」

「おい、どういう意味だ」

 子供っぽいという意味だ。

 しかし、ここでじゃれているわけにもいかない。シウは表情をキリリと改めた。

「大事な話がある」

「よし。ギルドに場所を借りよう」

 隊長が何か言いたげに見ていたけれど、キリクとジークヴァルドの両方に視線で制され、その場に留まった。何故この場で報告しないのかと思っているのだろうが、もっと上の立場の人間でないと対応できない内容だ。仕方ない。

 シウたちはギルド職員の案内でギルド内の特別室に向かった。

 途中、キリクはシウをまたも引き寄せる。仲の良さをアピールするかのような態度だ。職員の中には「辺境伯が養子にと望んだ子は彼だったか」と呟く人もいた。

 実際はこれからの話し合いについて二、三の伝言があっただけだが、傍目にはオスカリウス家との関係の深さを知るだろう。重要な話し合いの場にシウがいてもおかしくない、と思ってくれるはずだ。


 部屋に入ると早速、時系列で状況を説明する。アントレーネからの報告を受けていたキリクは驚かずにシウやジークヴァルドの報告を受けた。

 しかし、ギルド長宛の手紙にはウルティムスの件を書いていなかった。そのくだりになると彼は唖然としたままシウを凝視した。

「僕がウルティムスを何故知っているのか、詳細な説明はここでは省きます。背景事情に関してはオスカリウス辺境伯がご存じです。必要であれば後ほど確認してください」

「ああ、根拠ならある。それで?」

 キリクは話をさっさと進めろと言わんばかりに手を振った。

「はい。ウルティムスの一行が急いで逃げている姿にきな臭さを感じたため、彼等をやり過ごして迷宮核まで急ぎました。その前から迷宮に異変があったことは先ほども説明しましたが、案の定、迷宮核に手が加えられていたんです」

 証拠の魔道具や魔石を取り出す。どれも頑丈な透明の箱で囲ってある。《飛行車》にも使用した窓――硬化ガラスにエルの魔法糸を配合したもの――と同じだ。シウはこれに《透明板》と名付けた。空間魔法を使えない時に物理的な透明の箱が欲しくて作っておいたのだ。魔法糸が交ぜてあるため魔法も付与できる。端には動力源として使えるよう魔核や魔石の入る場所も作った。これで永久的に内部を保護しつつ防御も可能となる。透明だから中も見えて、観察にはもってこいだ。

「また、魔獣呼子か。だが、今まで見た形とは違うぞ」

「魔獣呼子自体に基本形はないんだと思う。発想は同じでも、術式や外観は制作者それぞれに違う。そもそも制作者は一人じゃないよ。古代帝国当時ですら作るのに相当の費用が掛かっているからね。発想を真似て研究し、作ったんじゃないかな。なんらかの理由で今の時代にまで残った。外側は経年劣化で崩れても、中はガチガチに保護されているからね。あとは中身を再利用すればいい。もちろん、術式展開するまでには時間を掛けただろうし、それだけでも十分に研究費用は掛かっていると思う」

「ふむ。作成された時代や詳細については調べていないのか?」

「年代測定は専門家に任せようと思って」

 ジークヴァルドやギルド長の前だが、キリクもシウもスキルについては隠す気がなかった。最初にキリクが「こいつのステータスは諸事情あって秘匿させている。ここだけの話として収めておけ」と言ってくれたが、口にした本人もシウも情報が漏れることに関しては仕方ないと思っている。

 目立つことによるデメリットを言えば、ロトスの存在がウルティムスにバレることだろう。ただ、これももう知られていると考えた方がいい。ならば無理にシウのスキルを隠す必要はない。

 そういう意味ではキリクがいる時にジークヴァルドやギルド長に知らせるのは結果として良かった。彼の指示だとも取れるし、貴族に関わる特殊な事情だと勘違いしてもらえる。

「ここ、アルウェウスで魔獣スタンピードが発生した時も魔獣呼子が使われたな。関係あるのか?」

「どうかな。そこまでは分からない」

「だが、ウルティムスが何かを企んでいることは確かだろう」

「そうだね。ルシエラで起こった事件にも関わっていた。これはシュタイバーンの王家にも連絡が入っているはずだよ」

「簡単にだが聞いている」

 とはジークヴァルドだ。

「俺も相談された」

「こちらも上層部の会議で聞いております」

 キリクとギルド長が答える。シウは続きを口にした。

「魔法競技大会を狙われたことから、今回もイベントに合わせて動いているのだと思う」

「ひょっとして、アドリアナの迷宮もそうか?」

「あれも人為的に発生させられていたよね」

 ギルド長とジークヴァルドが顔を顰める。

「ろくな真似をしない奴等だな」

「それから、もう一つ重要な報告があって」

「ああ」

 うんざりした顔のキリクに苦笑し、シウはギルド長に向かった。

「指名手配されているソフィア=オベリオが、ウルティムスの兵と一緒に行動していました」

「なんだって!?」

「彼女の恨みを買っているだろうということで、ギルド本部で定期的に情報をもらっていました。だから間違えようがありません」

 ギルド長はとうとう頭を抱えた。ジークヴァルドは眉を顰め、何か考えたあとにハッとした顔になった。

「以前、悪魔憑きとして裁判に掛けられた少女か」

「うん。因縁の相手なんだ」

「確か、ヴィルゴーカルケルに移送中、脱走したのだったか」

 女性であり、かつ凶悪犯罪を犯したわけではないことから多くの人はソフィアの逃亡に危機感を抱いていない。だからジークヴァルドも忘れていたのだろう。むしろ名前を聞いて思い出しただけ、すごいとシウは思った。覚えていたのは、彼が騎士だからだ。

「彼女はラスト領からウルティムス国に入ったみたいなんだ。その後は小国群を移動している。ハントヴェルカー国にも密入国したとかで、抗議を受けたはずだよ」

「そうだったのか」

 ジークヴァルドはそこまで知らなかったらしく、驚いた。キリクは苦々しい表情だ。

「俺も迷惑を被った。ウルティムスに抜けたのはオスカリウス領の不手際だとラスト領に言われたんだぞ。街道や砦、国境の見張りに手を抜いていたのは向こうだってのにな」

 もちろん、調査の末に「お前のところがきちんとしていなかったからだ」と突きつけたらしいが。

 その後、領土侵犯に悩まされたラスト領に懇願されて応援にも行っている。ただの善意でキリクが、というよりシリルが動くとは思えない。相当な対価を要求したのではないだろうか。シウは内心でぶるりと震えた。

 現在は国境線を厳しく監視しており、少なくともオスカリウス領やラスト領に無法者が入ってくることはない。

「あの国が何をやろうとしているのかは誰も分からない。国交がないからだ。そもそも、国として機能しているのかって話ではある」

 大陸中央の国々は代替わりの多いウルティムスを国として認めたくないが、何故か小国群にある敵対国が認めているので仕方ない。キリクは大きな溜息を漏らした。








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まほゆか5巻が6月末に発売します

応援してくださる皆様のおかげでここまできました

本当にありがとうございます!


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魔法使いと愉快な仲間たち5 ~モフモフと出会う宝石の川~

ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4047384378

イラスト:戸部淑先生

書き下ろしはシウの爺様(ヴァスタ)視点のお話になります


その他の詳細につきましては情報解禁のOKが出次第、近況ノートやX(旧Twitter)にてお知らせします

どうぞよろしくお願いいたします🙏




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