第22話
思わぬ伏兵登場に焦りを隠せない。
「何か悩み事でもあるの?」
職場の昼休み、マスターの奥さんに声をかけられた。
「あ、いえ。 別に大丈夫です」
しどろもどろになってしまった。
「そう? さっきから電話片手にぼーっとしてるから、何かあった?」
バックヤードの椅子に座りスマホ片手に考え事をしてしまった……。
「いや、大した事ではないのですが……」
私は事のあらましを奥さんに話した。
「そう……。 お子さんにとっては難しい問題なのよね。 丁度年齢的にも」
息子の事や再婚について話し、少しスッキリした。
「子供達には理解してもらうしかないですが、果たしてこれでいいか分からなくなってしまって……。 一人で上手くいくとか簡単に考えていたなんて、恥ずかしいやら情けないやらです」
「簡単にはいかないかもね……。 でも大切なのは自分の気持ちじゃない? 確かにお子さんの事もだけど、貴女が幸せになりたいと言う気持ちとお子さんを安心させてあげる事じゃないかしら? 暗い顔していたり悩んでばかりじゃ益々不安になるんじゃない?」
「私の気持ちですか……?」
「幸せになりたいって言う気持ちね」
仕事の帰り道、夕焼け空をぼんやり眺めながら考えた。
私の気持ち……。
確かに葉野君との未来を夢見て幸せになりたいと思った。けれど士雨や奈々を思うとやっぱり違うのかな。私が暗い顔したらいけない。でも色んな問題を解決するのにはまだ時間がかかるし、子供達を巻きこんでしまうかも知れない。いや、もう巻きこんでいるか。
これ以上辛い思いさせたくない。私の笑顔の元は子供達だ……。
スマホを取り出し葉野君に電話をかけた。
『もしもし葉野君? ごめんね忙しいのに。 私考えたんだけど……。 私の幸せは結局子供達にあって、笑顔でいたいと思った。 士雨の様子がおかしくなるまで気が付かないなんてダメな親だよね……』
『それって、もう会わないって事? 一緒じゃ幸せになれない? 色んな問題をクリアできない?』
『分からない……。 でも笑顔でいたいの。 子供達にも笑顔でいて欲しい』
『泣いてる? オレ行こうか?』
『大丈夫。 もう大丈夫だから……。 ね、 もうやめよ? やっぱりダメだよ私……』
『何度も話したじゃないか! 二人で乗り越えるまで言ったよね?』
『笑顔になれないの。 幸せになれないよ……。 ごめんね、 ごめんなさい……』
『……。 そっか、諦めるしかない? 本当にダメ? やりもしないでダメ?』
『ごめんなさい……』
私はただ謝るしかなかった。 葉野君を幸せにできない。子供達を幸せにできない。二人寄り添えない……。
さわさわと吹く風。オレンジ空の中ただ謝った。
手に届かない幸せは儚く散って。でも目の前の小さな手の中にある幸せを大切にしていこう。
スマホをカバンにしまい、歩き出した。
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