第18話 勉強はどこでも大事ってことで!
早朝の一件が一段落付き、私たちは今、朝の支度をしていた。
レナは朝食の準備をしていて、ディランとポートはテントをたたんでいる。
そして私たちはと言えば、今私たちができる技をルーナに見てもらっていた。
隠し事をしていたのがショックだったというポートの言葉に、やはり行動を共にする仲間には教えておいたほうがいいということになり、みんなが作業している傍らでまずルーナに見せていたところだ。
「なるほど。スライムの体を自在に変形させて、各種行動に適した形態になることで、普通ではできないようなことを可能にするのですね。」
ルーナが私の技の各種を見た後でぽつりと感心したようにつぶやいた。
「しかしこうも自在に変形できるとは。それに魔法を使うこともできますし、私たちと意思の疎通もできる。本当にあなたは特異なスライムですね。」
ユミルン形態に戻った私たちの頭をそっとなでながらそう言うルーナ。
「魔法・・・もしかして、あなたの収納能力も魔法で行っているのですか?」
その質問に私は首肯して答える。
するとルーナは天を仰ぎ、少しため息を漏らした。
「これほど特異なスライムなので、もしやとは思いましたが。なんとも規格外な存在ですね。ライムは。まさか空間魔法を扱えるとは。」
そう言ってルーナは私たちをまじまじと見る。
また質問攻めにあうのかと身構えた私たちだったけど、今回はそういうつもりはないらしい。代わりにルーナはリュックの中から一冊の分厚い本を見せた。
「これは魔法に関する教科書です。この中には人が魔法を扱うために必要な基礎的な知識が詰め込まれていますが、これによると、空間魔法というものはかなり高度な部類に入る魔法系統です。」
そう言いながら教科書を開いてページをめくり、空間魔法に関する記述がある部分を探り当てると、それを私たちに見せた。
「これが理解できますか?」
ということで見てみのだが。
おーっふ。これはいったいどうなってるんだろうか。
見ればそこには図形と数式をはじめ、見慣れない文字や記号が所狭しと記載されており、高校の数学が霞むほどの難解な記述があった。
こんなんわかるわけねーーー!
知恵熱を出すこともできず、というか考えることすらできないほどに意味不明な文字の羅列。これが本当に魔法を教える教科書なのだろうか。
魔法と言えば、呪文を詠唱して最後に魔法名を唱えて放つというようなものを想像してたんだけど。これはどちらかというと科学みたいな記述だ。
ところどころ読める部分はあるけど、知らない単語もあって結局何を言っているのか全く分からない。
(・・・美景はわかる?)
いや、わからないって答えるのは目に見えてるんだけど、前世では天才の名をほしいままにしていた美景なので、もしかしたらわかるかもと思ったのだが。
(うーん・・・基本的な部分が何を示しているのかわからないから何とも言えないけど、逆に言えばそれさえわかればとけるかも。)
・・・マジで?
いや、これ数学Ⅲ・Cの授業で習った数式よりも難しそうに見えるんですが。あれ?もしかしてそんなに大したことない?見掛け倒し?
(たぶんレベルで言ったら数学教授が頭をうんうんひねりながら解くレベルだと思う。)
・・・ふう。よかった。私の頭は正常だったようだ。
むしろどうかしていたのは美景だったようだ。いやーよかったよかった。
しかしまあ現状ではわからないということなので、結局私たちはルーナに向かって首を横に振った。
「そう。でも長い間読んでいたところを見ると、基本的なところを教えればわかるかもしれない。私も理解はしているけど、向いていないのか、魔力が足りないのか、魔法を発動することができない。もしもあなたが私に説明できるなら、どうやって空間魔法を使用しているか教えてほしい。けどあなたはしゃべれないから。」
そう言ってルーナが本に目を落とすと、何かを思いついたのか、リュックから何か取り出そうとしていた。
取り出したもの。それは紙とペンだった。
「これは紙。そしてこっちは魔式ペン。紙は人が使うどこにでもある普通のもので、これに文字を書く。魔式ペンは紙に文字や絵を書くためのもので、魔力を込めることで使うことができる。」
紙と魔式ペンの説明を終えたルーナはそれを私たちの前にもっていき、ルーナが文字を一つ書いた。それは今まで見たことのない文字で、全く読めそうになかったのだが、文字が完成したとたんにその文字が「あ」に変わった。
やはり言葉が翻訳されてるんだと初めて分かった瞬間だった。
「私が文字を教える。それを覚えたら、今度は私にあなたのことを教えて。」
そう言ってルーナは微笑み、ペンを私に手渡す。
(美景。覚えられそう?)
(うん大丈夫そう。翻訳のされ方から見てこっちの文字は五十音と対応してるっぽいから、それと照らし合わせていけば何とかなりそう。)
美景からの頼もしいお言葉をいただいたので、ルーナに首を縦に振って了承の意を示した。
「よかった。それじゃあさっそく―。」
「ルーナ!ライムちゃん!朝食で来たよ!」
ルーナがもう一つの魔式ペンと紙をリュックから取り出そうとしたところでレナから朝食の声がかかる。
最初ルーナはそれでも聞かずに私たちに教えようとしていたが、私たちがレナのところに向かうのを見てあきらめたらしく、さっさと片づけてみんなのところに向かった。
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