第11話 トウコウ ナカヘンの前
いつもの屋上での寸劇を済ませ帰宅する道すがら、隣を歩く園崎を横目で
見ながらふと思いを巡らす
今朝、委員長と交わした会話でのやり取りで思い出した事
しばらく前、俺の部屋で園崎が俺に言ったセリフ・・・
『もし、誰か好きな女が出来たら・・・僕にちゃんと教えるんだぞ・・・』
『僕達は真友なんだから・・・隠したりするなよ』
あれはやはり、その子と上手くいくように協力してくれるって事なのかな?
でも、この園崎がどんなふうに?
女子とのコミュニケーションがほぼ皆無の園崎が
ちょっと想像してみる
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「どうしたんだ?園崎。こんなところに連れてきて」
そこは人気のない体育館裏だった
告白の場所としては定番だ
「お前、○○子の事・・・好きだって言ったよな。お前に協力してやろうと
思ってな・・・こっちへ来てくれ」
促されて行った先には体育倉庫があった
「さあ、入ってくれ」
ギギイ・・・と軋んだ音を立てて園崎が倉庫の扉を開く
薄暗い倉庫内
やがて暗闇に慣れた俺の目に映ったのは・・・
さるぐつわを噛まされ、両手両足を縛られた○○子ちゃんの姿だった
「くくく・・・お前の為に拉致っておいた。手足の自由も奪ってある。
さあ、お前の想いの全て・・・たっぷりと注ぎ込むがいい!」
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・・・有り得そうで恐ェ!
冷や汗とともに隣を歩く園崎の顔を伺う
夕日を受けて髪につけた十字架型の髪留めが煌めいた
「ん?なんだ?」
園崎が俺の視線に気づき顔を向けてくる
「えーとさ、もしかして園崎って・・・『さるぐつわ』とか持ってたりする?」
我ながらおかしな質問をしてしまった
「さるぐつ・・・って、えっ?・・・・それって?・・・・でも、ええっ・・そ、そんなシチュエーションは想定してない・・・・えっ?えっ?・・・・
でも・・・・うん。・・・・・・・も、持ってない!でも入手方法がわからないわけじゃないから!今時は大概のモノはネット通販で手に入るし!
・・・経吾が望むなら購入する!買う!」
「か、買わんでいい!買わんで!!」
俺の意味不明な質問に園崎は『へっ?』という顔をしたあと、急におかしな
テンションで購入を表明してきた
ヤベェ・・・本当に実行しそうだ
万が一、好きな女の子が出来ても園崎には絶対知られないようにしないと・・・
恋愛相談しただけなのに犯罪教唆で逮捕されかねない
「・・・・・そか、そのパターンは考えてなかったな・・・・
イメージトレーニングのメニューに加えなきゃ・・・・・・・」
園崎は考え込むように、なにやらぶつぶつと呟きを漏らしている
はあ・・・なんにせよ俺が安心してカノジョを作るためには、まず園崎の中二病を直すのが先かもなあ・・・
夕日で朱に染まった、無駄に愛らしい園崎の横顔を眺めながら俺は溜息をついた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
駅前で園崎と別れて家路を歩く
園崎には別れ際、明日は遅刻しないように早めに来いよなと念を押した
「委員長には癪だが・・・まあクロウの顔を立てて善処しよう」
などと言いつつも取り敢えず承諾してくれた
その日の夜、自宅
夕食と風呂を済ませた俺は部屋に戻った
今日も食事中、母さんから園崎との事をあれこれ聞かれた
園崎に対してどういうイメージを持っているのか、やたらと気に入っているのだ
やれやれ・・・
ベッドで横になって雑誌をめくっているとケータイが鳴った
液晶の表示は姉さんからだった
『あ、けーくん?んちゃー』
「どしたの、姉さん・・・・・・・んちゃ?」
えらい懐かしい響きだ
「にゃはははは。いまDSがマイブームなのよね~。んちゃー」
・・・・その略し方はどうかと思うぞ?
「・・・で、なに?」
『うん、今週末、そっちに帰ろうと思って』
「あ、そうなんだ。うん、じゃあ母さんにそう言っとく」
『お願いねえ。・・・あ、ところで好きな子出来た?」
また、いつかの話題を振ってきた
でも、この様子だと母さんから園崎の事は聞いてないようだ
母さんと姉さんの仲は未だによくわからない
仲が良いんだか悪いんだか・・・
さっきまで言い争いしてたかと思うといつの間にか仲良くドラマを見てたりする
女同士のそういった間みたいなのは男には理解出来ないものなのかもしれない
一緒に住み始めた頃は母さんと姉さんはよく対立してた
一悶着あるたびに俺と父さんはハラハラしながら見守ったものだ
まあ、そのお陰で父さんとの間に男同士の変な連帯感が生まれたりしたんだが・・・
「好きな子?残念ながらまだいないね。なに?いたら協力してくれるの?」
からかうようにそう言ってみた
『んー?そうだねえ、とりあえず・・・・・
全力でブッ潰す!』
「なんでだよ!?」
信じらんねー発言が飛び出したぞ!
『えー?だってぇ・・・・かあうい弟がどこぞの馬の骨とも知れない小娘に取られるなんて癪じゃない?そんなに欲しけりゃあたしを倒して奪ってみろってーカンジ?』
そう言って姉さんは電話の向こうで『にゃはは』と笑った
どこまで本気なんだ?
『だからねけーくん。もし好きな女の子が出来たら隠したりしないで、あたしにちゃんと教えるのよ?全力で邪魔するから』
「ぜってー教えねえ!」
なんて人だ
『まあ、あたしを納得させたかったら超絶美少女でも連れて来るしかないわね。そしてペロペロさせなさい』
「おい!?」
『もしくは猫耳』
「そんな人類はいねえ!!!」
『え?知らないのけーくん、東京の一部地域には生息してるんだよ』
「どこだよそこ!?」
『〈オータムリーフフィールド〉だよ、あそこは異界との門が開かれてから特別行政区域になっててね・・・』
「待て待て待て!さらっと嘘を並べるなよ!読者がそうゆう世界観なのかって
本気にするだろう?」
『?、どくしゃって誰?』
「なんでもない」
『あーメタはつげんだあ。いーけないんだあ』
◇ ◇ ◇ ◇
『まあ、そんな訳で金曜の夜に帰るからよろしくねぇ』
そんな会話というか、ボケとツッコミを30分ほど交わしたあと、
姉さんは電話を切った
「やれやれ、相変わらずだな・・・」
俺は溜息を漏らしながらケータイを閉じた
好きな女の子を知られてはいけない相手がもう一人増えた
「全く・・・、何が猫耳だよ」
悪態をつきながら、もう一人の知られちゃいけない相手の顔を思い浮かべる
瞬間、思考がミックスされて、頭の中に猫耳をつけた園崎の姿が浮かんだ
上目遣いに微笑みかけてくるネコミミの園崎・・・
「って、何考えてんだよ!」
俺は慌てて頭を振って妄想を振り払った
(つづく)
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