05.

 場所を移動して再びリンレイの客間へ。心なしか、集められたメンバーの表情は険しいようだった。


「――うむ、皆集まったな」

「ああうん。ご託はよそうぜ。あたしに訊きたい事があるんだろ。答える答える、身の潔白を証明する為にも」

「魔族、コルネリアとか言ったか。そなたの言は今、信用性が地に落ちていると言っても過言では無いぞ。しかし、その潔白とやらを証明したくば知り得る情報を洗い浚い吐くほかあるまいな」


 コルネリアは魔族達の事を知っているようだった。というか、あの魔族2人はロイの言っていた魔族とイコールしていいのだろうか。とはいえ、色々揃い過ぎているしそうだと考えて考察した方がいいのかもしれないが。

 肩を竦めたコルネリアはつらつらと言葉を並べ始めた。淀みなく、悪びれもせず、よく言えば堂々とだ。


「あの2人――女の方はアールナ、男の方はアグレスってんだけどさ、《トリフェーン》の構成員なんだよ」

「何だそれは」


 フェイロンが眉根を寄せた。


「まあ慌てるなって。で、その《トリフェーン》なんだがカルマ崇拝主義、というか、まあ、そんな感じの組織。組織って程まとまっちゃいないけどね。珠希が狙われてるのはアレだろ、リンレイサマの言い分が正しければカルマを誘引するからだ。しかも、献身の魔女が持ってた小瓶も持ってるし、まさに鴨が葱って感じさ」


 よく分からないが、自分の体質のせいでその《トリフェーン》とやらに付け狙われている、という事らしい。何てことだろう。パーティに存在するだけで魔族2人にストーカーされた挙げ句、迷惑を掛けてしまう。真の災厄とは自分の事かもしれない。

 浮上していた機嫌が再び急降下するのを感じる。リオナ神殿で迂闊に小瓶さえ触らなければ。もう少しマシになっていただろうに。


 リンレイが困惑したように唇を引き結ぶ。眉根を寄せた表情が、心なしかフェイロンに似ている気がする。


「……それで、コルネリアよ。そなたは《トリフェーン》の構成員ではないと申すのだな?」

「そりゃそうだろ。この話の流れで「実はあたしも一枚噛んでるんだよね」、とは言わないだろ。ふつーに」

「ご託は良い。そなたは何故トリフェーンについて知っておったのかな? 魔族界隈では、そのような組織は恒常的に存在するという事か?」

「あたしがそれを知っているか否かは、然したる問題じゃないだろ」

「忘れてはおらぬよな。そなたの事を、妾は端的に言えば心底疑って掛かっておる」


 ちょっと良いですか、とここでダリルが果敢にも口を挟んだ。仕切り直すように咳払いしたリンレイが「構わぬ」、と頷く。


「結局、俺達は今、何を疑っていてどういう理由でコルネリアを糾弾しているのでしたか?」

「……妾はそこな魔族が《トリフェーン》とやらの間者ではなかと疑うておるのよ」

「まず仲間の一人では無いでしょう。珠希とコルネリアは相棒召喚の契約を結んでいる。《トリフェーン》の一員で珠希ちゃんの誘拐を目論むのなら、いつだってその機会はあったはずですから」

「ふぅん。魔族の本質を知らぬのかな、人の子よ」

「魔族の本質は知りません。が、一応共に旅をしてきた仲間ですから」


 ――だ、ダリルさぁぁぁん!!

 珍しく良い事を言っている大人にキラキラとした目を向ける。今日の彼はどうしたのだろうか、今までの変な所で出る頼りなさが嘘のようだ。


 しかし、感動の瞬間はそう長く続かなかった。リンレイの若干不機嫌になった双眸が珠希を捉える。


「ならば珠希よ、そなたはどう考える? 手綱を握っているのだろう、コルネリアの」

「えぇっ、ここで満を持しての私!? ど、どうって……割と保護者っぽい所がある人だと思いますけど」


 コルネリアの軽薄な振る舞いは落ち込んでいる時なんかには許容出来ないが、それでも進んで人を不快にさせるような人物ではない。

 それに、コルネリアはかなり本気でアールナへと向かって行った。殺す気というか、殺意があったのは間違い無い。本当に仲間であれば、あのような振る舞いをしただろうか。


 いや、これだけ言ってもなおコルネリアに何かしらの疑いをしつこく持つようであれば、いっそリンレイも何か一枚噛んでいそうで不安だ。

 場の空気を読み取ったかのように、リンレイが重々しく首を縦に振る。


「良い良い。では、コルネリアが《トリフェーン》の一員であるという疑いは、無い方向で話を進めよう」


 引き際を見極めきった、こちらもこれ以上は逆反撃出来ないタイミングで引いて行った。流石である。

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