とある男性の部屋
彼の部屋の隅には、買ったはいいもののほとんど起動していないゲーム機がありました。時折思い出して電源を入れてはみるものの、やる気が起きずそのまま放置され、いつの間にかコンセントが抜けてしまうのです。けれどテレビは楽しげに真っ暗な画面を映し続けているのです。
一見殺風景な部屋に見えますがよくよく見れば他にも、半端な位置に栞が挟まれたままの本が幾つも転がっています。明治の文豪の全集もあれば、アイティーの資格の参考書も、小難しい数式が記された量子力学の専門書までもあるようです。猫が表紙に描かれた絵本でさえ隅にこっそり置いてあります。
なんだかボタンをかけ違えたシャツのような部屋ですが、明日も着るのであろうシャドーストライプの入った濃い紺のスーツだけが丁寧に「普通」を着飾っているように映ります。スーツラックが部屋の真ん中に立っていることを除けば。
閉じた薄水色のカーテンの向こう側では、太陽とお月様はのんびり追いかけっこをしているようです。時々、雲や雨がその手助けをしたりなんかして。
ところで、部屋の主はどこにも見当たりません。
一日経てど二日経てど、あるいは一週間一月一年経っても彼は見つかりません。
彼はどこに行ってしまったのでしょうか。あるいは私が彼なのでしょうか。それとも貴方が彼なのでしょうか。
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