第2話 たなかとたにぐち

 俺はただ村の道を歩いていた。

 どうやらこの村は東西南北へと道が開けていて、そこから外に出れるらしい。そして、東西南北の道がそれぞれ東西南北のやまにつながっているらしい。

 今は村長の言葉通りゆうしゃソードを取りに、東の山へ向かっている。

「まちな!」

 そう俺は突然にして声をかけられた。

 その方向を見るとダンディな顔をして、常にきめがお状態のおっさんがいた。ひげはこれまただんでぃな感じに逆立っていて、髪の毛もワイルドにスキンヘッドだ。

 色黒で、が体が良くて、優しそうな眼をしているおっさんがそこにいた。

「なんだ?」

 俺はそう返答した。

「おまえ、ひがしのやまにいくのか?」

「そうだ」

「ならおれもついていく」

 なんだか知らないが、仲間になった。

「おれのなまえはたなかだ」

 よろしくおねがいします、たなかさん。

「それにしてもおまえ、なかなかやるな」

「なにがですか」

「ふっ、おれはさいしょおまえにじょげんをしてやるはずだった。だがしかし、おれのくちからでたのは あのことばだった。このいみがわかるか?」

「わからないですけど、いいからはやくいきましょう」

「ふっ、そうだな」

 このおっさんは、おれるのがはやかった。


◇◇◇


 しかし行くとなると、いろいろと準備が必要らしい。田中が言うには、東の山にはこのあたりのモンスターとは違う、少し強いモンスターが出て、しかも全体的に毒を使うモンスターが多いらしい。なので、毒消しをたくさん持っていく必要があるのだが、この村の近くに貿易港がなく、しかも毒消しの材料となる薬草がほとんど手に入らないので、かなり毒消しが高いらしい。だから基本東の山に行く人は毒を無効化する装備を装備していくらしいのだが、それもなかなかに値段が高いので、今の俺の所持金では買えないそうだ。まぁ田中は持っているらしいので大丈夫らしいのだが。

 自慢なのか見下しているのかわからない、まどろっこしい話だ。伝説の勇者、と言われた俺がこんな辺境の村の周りの、カスみたいなモンスターを倒して金を稼ぐのはあほらしい。そこで俺は考えた。田中はいろいろな装備を持っている。しかし、彼は伝説の勇者じゃない。だったら、俺が田中の装備をもらって、俺一人で行けばいいんじゃないか、と。

 しかし、その提案は田中の、「おれはひがしのやまにだけはえているでんせつのやくそうをてにいれて、むすめのびょうきをなおさなければならない。だから、おれはいかなきゃだめなんだ」ということで却下された。

 薬草は俺がとってくるから、といったものの、やたらと正義感あふれる熱血漢な田中は全くこちらの意に介さない。さすがにイライラした伝説の勇者こときしもとは、東の山へ至る道を、伝説の勇者に先行してドヤ顔で自分の知識をひけらかしている田中を、初期装備のひのきのぼうで、後頭部から殴ってみたところ、ウィンドウに、「クリティカル ヒット! せんし たなか に96のダメージ!」「せんし たなか はしぼうした!」と続けて二つの文章が出て、どこからともなく現れた棺桶が、戦士田中と入れ替わって、今度は俺の後ろについてくるようになった。それはそれでイライラしたが、恐る恐る棺桶の中に手を突っ込んでみると、田中の持っていた鋼の剣や、例の毒を防ぐ金の盾や、その他薬草などもろもろ、その村で最上級の装備が簡単に手に入った。なんと嬉しいことだろう。まぁ田中に悪いので、一応例の特別な薬草とやらは手に入れるように善処してみるつもりだが。

 そんなこんなで、最強の装備を身に着けたゆうしゃきしもとと、なぜか後ろをついてくる棺桶は、東の山に到着するのであった。


◇◇◇


 結果から言うとゆうしゃそーどは簡単に手に入れることができた。

 それもこれも、なんだか分からないけど、攻撃をするたびにクリティカルヒットという文字が浮かび上がってきたからだと思う。

 これが勇者補正かと感嘆しつつ、勢いでドラゴンの所に行ったところ、なんだか勇者ソードはドラゴンの背中から取れていて地面にふつーにつきささっていた。

 これもまた勇者補正なのかは分からないけど、ドラゴンに気付かれづにソードを手に入れることもできた。

 ちなみに、東の山のドラゴンは西の山のドラゴンよりも強そうだった。

 田中の墓標にささげる薬草もしっかりと摘み、村へと戻ってきた。


「おまえってやつは、おまえってやつは、おれみこんだとおりにあついおとこだ!」

田中をそのまま棺桶に入れておくのも邪魔で困ったので蘇生したところ、開口一番にそれを言われた。

 こちらとしては、お前の方が熱い男だと言いたいところだが、それは言わないでおいた。

「それじゃ、おれはこのやくそうをもってむすめのところにいく!」

「ああ、じゃあな」

正直、短い付き合いでよかったと思った。


◇◇◇


まあ、ゆうしゃそーども手に入れたことだし、いよいよそんちょーを助けに行くか。

えっと、そんちょーが行ったのは西の山だっけ?

「まちな!」

そう、思って西の山へと続く出口へと向かう途中でまたもや突然声をかけられた。

「だれだ?」

「だれだとおもう?」

知るか、そんなこと。

俺はさっさとそんちょうを助けに行って、俺の話を聞かなければいけないんだ。

「きいておどろけ!」

おれはたぶんそんなことにはおどろかないんだろうな。

心の奥底でそう思いながらもそいつの言葉を聞くことにした。

「おれはたにぐちだ!」

だれですかね、その人は?

少なくとも俺は谷口という名前に覚えはないし、別にすごいとも思わないから、やっぱりおどろかなかった。

「おれはおまえのなかまになる」

これも勇者補正なのか。

1人さって、また1人やってきた。

断るのは面倒くさいけど、

「ことわる!」

「むりだ!」

そっかー、無理なのか。

コンマ1秒で返答してきた、たにぐちに俺は素直にはいというしかなかった。


◇◇◇


「おれはたにぐちだ」

それは分かっている。

「おれは……たにぐちだ!!」

やかましいな。

「たにぐちって……やっぱすごいよなー」

俺には少しもちっともすごいとは思えない。

西の山を登ってばっさばっさモンスターを切り殺していくのに、若干の快感を覚えながら、後ろで何もせずただ話しているだけのたにぐちに対してそう思った。

「しっているかい?」

「なにがだ?」

「このせかいにはたにぐちのひほうとよばれているほうぐがあるのを」

「しらないな」

「すごいだろ」

こいつはすこし人の話を聞くことを覚えた方がいいのではないだろうか。

「おれはたにぐちのゆいいつのまつえいだ」

たにぐちのまつえいってなんだよ!

たにぐちっていう部族かなんかがいたのか?

「たにぐちはぶきしょくにんだった」

駄目だ、こいつ。

もう完全にトランス状態に入ってる。

多分、もう何を言っても、何を思っても、必須イベントのように昔話を始めるに違いない。

「たにぐちはとにかくすごかった。たにぐちりゅうとよばれるひぎをくしして、このよのものとはおもえないぶきをつぎつぎとつくりだしていった。たにぐちのひほうとよばれるものは、このよのなかに7こそんざいしていて、そのうちの4こがどらごんだ!」

まじかー!

やっぱ、前言撤回だ。

どらごんつくったのはすごいわー、そんけいする。

ただ、いまのよのなかをみるかぎりでは、そのたにぐちとかいうやつはちゃんとものごとを考えて武器を作っていたのだろうか。

「あとの3つはゆうしゃそーどだ」

まじかー。

俺の持っているこのソードも谷口が作ったのかよ。

なんだか、興ざめとかしか言いようがない。

「ゆうしゃそーどは3つそろえると、1つのけんになる。そして、いつかあらわれるまおうをたおすためにはそのそーどがひつようになる」

もう、先の展開が読めてしまった。


ゆうしゃそーどを使えばドラゴンはいちころだった。

村長を助け出して、話を聞いたところ、今まさにまおうがたんじょうしそうなんだって。

だから、伝説の勇者はまおうを倒すためにゆうしゃそーどを集めるたびにいけないらしい。

いつのまにか、たにぐちはいなくなっていた。


再び、町に戻ってきて、しばらく休むことにした。

そして、ついちょっとまえに言われた言葉を思い返して思った。

最初からゆうしゃソード1つにしろよ!と。

その日の夜は月がきれいだった。

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